ぼっちの始まり #1
「......あー、ヒマすぎる」
玉座にふんぞり返って、その大魔王は呟いた。
ため息は深く、そして重く、部屋全体に響く。
いつもなら衆合の魔物たちが溢れかえっている大広間に、彼ひとりだけが残っていた。
まわりに誰一人いない。
魔王城に一人、ポツンと居座る大魔王。
「まじにヒマなんですけど。どうしてくれようかねぇ、この時間。
なんか、“世界から人間を滅ぼす”より先に、“世界から退屈な時間を滅ぼす”ことを優先した方がいいって、改めて思うわ。ほんとに」
彼の言葉はまたも大広間の天井に吸い込まれるだけだった。
「んー、飯でも食べるか.......」
ーー現在、魔王城には、総勢100万人を超える王都の軍勢が向かっている。
重厚な装備で身を固めた兵士をはじめ、いくたの戦場を経験した腕っぷし自慢の戦士や、各国より招集された腕の立つ冒険者、さらには王都大図書館直属の賢者・魔法のエキスパートである魔術師たち。おまけに最新鋭の砲撃器までそろっている。
そんなマンモスクラスの大軍隊を、なんとしても足止めするべく、魔王城ならびに近隣の魔物たちは総出で戦闘に出たのであった。
今までにも、こうした人間達の襲撃は、何度かあった。そのたびに追い返してやったり、全滅させたり、場合によっては国を一つ破壊したりもした。
城にまで攻め入られても、大魔王本人が登場すれば、だいだい吹っ飛ばして終わりである。
だがしかし、今回は様子が違った。
何日経っても、人間軍の撃退通達が現地からやってこない。どころか、追加の兵士を要請する連絡ばかりが繰り返し繰り返し送られてくるだけだった。
そして、ほんの三日前。そのやりとりも途絶えた。
それが、終戦を意味していることは、どんなバカにも察しがつく。
どちらの優勢であるのかも、ほとんど明白である。
今回の、人間達は「ガチ」だった。
大魔王も、今回の異常事態には気がついていた。
だがそれで、どうこうしようという気分にはならなかった。
本線とのやりとりが途絶えたときも、「あ、そろそろ終わりかー」くらいの心持ちでいた。
むしろ、この退屈の終焉について、喜びを感じていた。
だからこそ、とっとと来て欲しいのだ。
ボロボロだけれども、なんとか生きのびて帰ってきた魔物達か。
勝ち誇ったような顔をして、この城に襲撃してくる人間達か。
どちらでもかまわない。
“ーー誰か、来てくれないかな”
大魔王は、でっかい城に一人。
ぼっち飯を決め込んだ。