第4章 年末セールは振り向かない
――8年前、某所。
「第4戦、囚人ゲェェェム! ジャッジの時間です!」
濃いサングラスとマスクを着けた司会者が、マイクに叫ぶ。
「さあ、『相手を殺して賞金を奪う』ボタンを双方が押せば両方ゲームオーバー、どちらも押さなければ、これは1番つまらない、元々の賞金が受け取れるだけ」
彼の前のモニタには、ウィンドウが2つ並び、男が1人ずつ映っている。
「そして片方だけなら! 奪った側が賞金総取り、2倍の賞金で大・成・功!」
各々は別々の部屋にいるが、どちらも作りは変わらない。低い天井に照明が付いている他は、壁も床ものっぺりした、妙に細長い部屋だった。
「さあ、ボタンを押してくれ! 運命は君の手の中だ! 勇気の人差し指は、どちらを導くか!」
2人の男はそれぞれ、壁に仕込まれたスクリーンに表示された、回答用のボタンをタップする。
「迷いのない回答だ! 歴戦を勝ち抜いた彼らに最早躊躇いはないのか! 回答が出揃ったぞ! 結果はどうだ!」
司会者がマウスをクリックする。
一瞬の間があって。
右のウィンドウの男が、一瞬のうちに全身ズダズダになって、血をまき散らしながら崩れ落ちる。
「おおっっっと! 8番、処刑装置の電磁クレイモアが作動した!」
司会者はPCを操作し、死体をくまなく映す。
「酷い有様だ、ぐちゃぐちゃだ、今日の晩ご飯はハンバーグで決まりだ! これは酷い、なんてこった、誰がこんなトラップを! そうだ、そんなこたぁ誰でも良い、決断して勝ったのは4番!」
生き残った左の男は、よろよろと立ち上がり、画面外にいなくなる。
「4番の大大大っ勝利だ! 極限の選択の中、時に協力した相手の信頼もかなぐり捨て、自分独りが生き残る為に、相手を殺すボタンを押した! これこそ人間、人間の本当の顔、これぞ生き残る、進化を勝ち抜いた生物の頂点、本物の人間だ!」
十数秒後、司会者のいる部屋のセットの袖から、先ほどの左の男が入って来る。顔色は紙のように白い。
「おめでとうございます、4番さん、あなたの優勝です!」
司会者に言われ、男は力なく頷く。
「8番を裏切って殺し、あなたは大金を手に入れる訳ですが、今のお気持ちをどうぞ!」
「勝つため、だ」
「流石は最後まで勝ち残っただけの事はある! これぞ勝利思考、人間の優しさは、所詮は人間を救いきれない、正しい、まったく正しい! パーフェクト! 我々はみんなそれを知っている! 神も仏もいないのか、まったくこの世は地獄だぜ!」
司会者はトロフィーの台座を持って差し出す。
「地獄の獄吏、THE・ヒューマン! 人間の尊厳、4番に栄誉を!」
トロフィーは全高で20センチ程度の、小ぶりなものだった。
男は震える手でトロフィーに手を伸ばす。台座に触れ、掴み、そして自分の無事を実感するかのように、トロフィー本体の金属部分を握りしめた瞬間。
激しい火花が飛び散った。
男は倒れ込む。
彼が握りしめたままのトロフィーの台座底面には、小さなスイッチが付いていた。
「おおっと、油断大敵! ファイナルトラップに引っかかってしまった! 騙す者は騙される、因果応報、盛者必衰! いやぁ、残念、天国から地獄へ真っ逆さま、それとも結局地獄行き? 惜しい、実に惜しい、あと1歩のところでした!」
司会者はカメラ目線になる。
「次回の挑戦者は勝ち残れるか? ご視聴いただき、ありがとうございます! よろしければ高評価、チャンネル登録、サンクスお願いします! SNSもやってまーす」
「――カメラ止めました、お疲れ」
「おう」
司会者はサングラスを外し、胸ポケットに突っ込み、男を見下ろす。
「……っ。片付けなきゃならんな」
「どっちでもやる事は一緒でしょう?」
「気分が違わぁ……終わったら風呂屋行きてぇなぁ」
「お盛んですね、アニキ」
「馬鹿、普通の銭湯だよ。電気風呂やっててさ、あれ、肩凝りに効くんだよ」
茅野姫佳の朝は早い。
目覚まし時計の鳴る寸前の午前5時、茅野はアラームをオフにした。
(なんか、オヤジの夢、見た気がするけど……忘れた)
隣で寝ている母を起こさないよう、カーディガンを羽織って、アコーディオンカーテンで仕切られたダイニングキッチンに向かう。
スリッパを引っかけ、ヒーターのパネルに手を触れ、タイマー作動している事を確認する。
それから、タイマーをかけていた電気釜でご飯が炊きあがっているのを確認して、弁当箱2つに詰め、小ぶりな茶碗にも1杯分。
それから、片隅に立てられた父の写真の前に、茶碗についだご飯を置く。
キッチンから離れ、トイレに行き顔を洗い、寝癖をざっくりと整える。
それから、片手鍋を置いたままの1口コンロに火を点ける。既に水を張って煮干しが泳がせてあるところに、切り干し大根をひとつまみ入れ、煮立ったら煮干しを椀に引き上げる。それから、細切りの乾燥高野豆腐をひとつまみ入れて、一旦火からおろす。
次に玉子焼き器を火にかけ、余熱の間に冷蔵庫から玉子を出し、溶いて味付ける。玉子焼き器が丁度温まった頃合いに焼き始める。 多少崩れつつ最終的には形を整えた玉子焼きを、皿に移して冷ましつつ、冷凍庫から冷凍用のケースに小分けにした野菜炒めを出し、電子レンジで1分ほど加熱。
電子レンジを動かしながら、鍋を再び火に戻し、冷蔵庫から味噌を出して入れる。味噌こしは使わず、お玉ですくったまま鍋に入れ、味噌が外れたら鍋底で潰し溶き、最後に増えるわかめを入れて火を止める。
味噌を冷蔵庫に戻すついでに、ボウルと切り置いた魚肉ソーセージを出す。ボウルには、ツマ状におろした人参と、スライスした玉葱、ピーマンが酢醤油漬けにしてあり、これを小分けにして魚肉ソーセージと和える。
それから、各々茶碗や皿についで食卓に並べる。父の写真の前に置いた湯気の出なくなったご飯を下げ、食卓に置く。
ここまでで30分。
「お母さん、ご飯」
アコーディオンカーテンを開け、母に声をかける。
「んー」
眠そうな顔をしつつ、母は長い髪をざっくり束ね、食卓につく。切れ長の目に下がり眉の穏やかそうな顔立ちで、凹凸のはっきりした、しかしやや弛んだ体型をしている。
母はごく自然に、ご飯はお供えした冷めた方を手に取る。
「いただきまーす」
「いただきます」
2人は食べ始める。
「何時帰り?」
「全体の会議があるからなー。晩ご飯何?」
あくび混じりに母は答える。
「ナポリタンのつもりじゃったけど、伸びるかな」
「あ、スパゲティ好きー」
「野菜だけ炒めておくかな」
「ううん、作っといて」
「まあ、9時ぐらいじゃろから、合わせるよ。部活あるし」
「軍人将棋?」
「ううん、明日はデスゲの方。ごちそうさま」
茅野は食べ終えてから、食器を流し台に置いて、弁当箱におかずを詰め始める。半解凍した野菜炒めと玉子焼きのシンプルな組み合わせだが、人参の赤、キャベツとピーマンの緑に玉子の黄色で彩り良い。
鼻歌交じりに詰めてから、大ぶりな落ち着いた色の古びたハンカチで包み、ランチバッグに入れる。
「ふふっ」
「なに?」
「姫佳ちゃんが、楽しそうで嬉しいんじゃよ」
「言っとくが、別に楽しいとかじゃなくて、オヤ……お父さんの事を見極める為なんじゃから」
「目的はそうだとしても、今やってる事が、楽しいんじゃろ? その気持ちは、すごく素敵な事なんじゃよ」
母は父の遺影に目を向ける。
「お父さんは、あの人は、そう思えていたとしたら良かったんじゃけどね。一番大変な時も、楽しい日はあったんじゃよ」
「でも、ウチが始めたの……デスゲじゃよ?」
「あのな、姫佳ちゃん。あんたの名前って、ウチの好きなアニメから取ってるじゃろ」
「は?」
「その子は、背が高くておっぱいが大きくて思いやりがあって、モテモテじゃ。姫佳ちゃんは、可愛いけどセックスアピールが足りんくて傍若無人が平常運行でほとんどモテんじゃろ?」
「喧嘩か? 喧嘩なのか?」
「でも、頭が良くて身体が丈夫で何でも出来て芯が強いところは一緒。そこが似てくれて、とっても嬉しい」
「まあ……そこは、そうじゃが」
「あ、チョロいのも一緒」
「やかましい……あー、分かった分かった。名前が一緒でも本質を見抜けって事じゃろ」
「そう。やっぱり賢いわ、姫佳ちゃん。ウチらの人生で最大の功績は、やっぱり姫佳ちゃんを生んだ事じゃね」
母はにこにこと笑う。
「親バカも大概にして。ったく、毎朝毎朝」
「伝わってたからって、言っちゃいけないワケじゃないじゃろ?」
「よし、勝ちじゃ」
最後の手札を捨てて、茅野が笑う。
同時に、四谷達が椅子から飛び退く。終わった瞬間にギミックが作動するタイプのゲームへの対応法でもあった。
期末テスト後、部室で四谷達はデスク系デスゲームの練習に取り組んでいた。
「思ったより強いな、茅野」
近藤がカードをまとめる。
「……ふん、こっちが負け越してるじゃろ」
「知っているイカサマはきちんと見破っているだろう。テーブルゲーム慣れしているのは分かる」
「まあ、多少はな」
「コツでもあんのか?」
四谷が尋ねる。
「んー、まあ、聞きかじりじゃが」
「教えてくれよ。チーム内の知識共有は生存率を上げる」
「それは、そうじゃな」
少し考え、納得した風に茅野は説明する。
「――手札が見えない場合は、軍人将棋と同じじゃ。その人の並べ方のクセと視線の位置で、注意を向けている札は大体分かる。手札を隠す心理が働くから、両脇にはあまり重要なカードを持たないとかな。その上で、何かブラフを仕込んでいる場合、カードを扱う手の動きがヨレる。手慣れた動作ではなくなるからな」
「動きに差がないようにしているつもりだが」
「確かに訓練されているとは思うが、差はあるんじゃ。これはもう、町工場の職人の指先のようなもので、ミクロン単位の差がなんだか検知出来てしまうとかそういう事で――」
話している最中に、部室の戸が開いた。
「おい、お前ら!」
虎門は軽く息を切らせている。
「職員会議で、部室の存続が決定したぞ!」
「よっしゃ!」
「やった!」
「やりましたね!」
「目標達成……あ」
反射的にハイタッチしてから、茅野は所在なさげに手を下げる。
「こうして、デスゲーム部は繁栄し、各々の卒業後の進路は……」
「エピローグに入ってんじゃない、四谷」
「え。でも、部室イベントはクリアでしょ」
「ゲーム脳か。人生は死ぬまで続くんだぞ」
「そりゃそうですが、でもオレ達は、次の目標を失った哀れな若人ですよ」
「新春デスゲ初めがあるだろうが。気を抜いてたら、年の初めから葬式だぞ。年賀の挨拶に、親に黒い縁取りで返信させる気か?」
「あ……そうか」
「部長、新春デスゲって、何用意していけば良いんですか?」
正岡が尋ねる。
「……そうじゃな、ジャージとか、特別製なんじゃろ?」
「ふむ」
近藤は少し考え込む。
「よし、終わったら、役所とSS行くか」
「そうだな」
「SS?」
「焼酎ですね」
「札幌スポーツだ!」
「ああ、そういう……けど、今日はバイトなんで無理じゃな」
「ん? そうだったか?」
「バイトが1人辞めるんで……あ、年末年始のスポットで、誰かやらんか?」
「あー、少し稼ぎたいな」
「おおっ! 四谷がやってくれるか! 今日のうちに店長に連絡入れておいて良いか?」
「親に確認したら連絡入れる」
「O.K.」
「そのバイト、2日は当たらないようにちゃんと気をつけてるか?」
「それは織り込み済みじゃよ、部長」
「もし死んだら3日以降も空くって事、店長にちゃんと伝えておかないとダメだぞ。アルバイトとは言え社会人だからな」
「配慮は死なない方向に全振りするべきじゃろ」
2日後。
横殴りの雪の中、区役所の半面しか除雪されていない、がらんとした駐車場を、四谷達4人は横切る。
2重の自動ドアを通り、区役所ロビーに入る。
1階の住民登録窓口は、オンライン化が進んだ事で、業務が行われず照明が落とされている。
唯一動きがあるのは、守衛のAMR(自律走行ロボット)だったが、頭部センサーを四谷達に追随する以上の事はしない。
四谷達は、フロアを横切り、コーティングのひび割れが目立つ階段を上がる。
2階に来てようやく空気の温度が上がる。
窓口の向こうにも職員の姿があるが、右奥、フロアの7割ほどは照明が落とされている。
窓口の仕切りボードには、7番まで窓口がある。1番が「介護保険手続き」で、2番から後は、色あせたラミネート加工の貼り紙で「生存支援申請」の文字に置き換えられている。
四谷が整理番号札を取り、受付機にかざした後、皆で待合椅子に座る。
他に待合椅子に座る客は、四谷らと同じ学生の集団や、ノータイに名札を下げた社会福祉職と思しき者が何人か。
『2番のカードをお持ちの方、4番窓口までお越し下さい』
四谷が、窓口前の椅子に座る。
「ご相談ですか」
高機能型の人工角膜を装着した職員が尋ねる。
「生存支援申請です」
四谷は言って、記入済みの書類を人数分差し出す。
「期限付きですね」
「はい」
「ご本人ですか」
「はい。全員来ています」
「完成後の送付でよろしいですか」
「いえ、今お願いします」
四谷らは、スマホでマイナンバーカードを提示する。
職員は書類に印刷された証明写真とマイナンバーカードの写真、それから目の前の四谷達の顔をちらりと見比べる。
それから、書類の記載内容を1つ1つ確認した後、受付の日付印を捺した。
その後職員は、記載内容をPCに手入力し、「生存支援券」と書かれた書類を印刷する。
これを、支援事業所の一覧、サービス提供までの流れ、相談窓口の案内など、一揃いの補足書類と合わせて差し出す。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
四谷らは、一礼して立ち去った。
四谷達は階段を降りる。
「四谷先輩、思ったよりずっと簡単なんですね、デスゲ申請」
ホッとした顔で、正岡がスマホの画面からマイナンバーカードを消す。
「本人が窓口に来る期限付き申請ならな。代理人だと、成年後見人か、弁護士しか無理」
「医者も出来ませんでしたか?」
「それはよくある勘違いだ。そういう時の医者は成年後見の付く診断書を書くだけだ。直接はまずやらん」
「なるほど。窓口に来られる限りは、次から自分独りでも出来そうっすね」
「気をつけろよ、『相談』とか言うと、3年ぐらい順番待ちにされる」
「ああ、引き延ばしでうやむやにする、生活保護とか介護保険とかでおなじみの水際戦術ってヤツっすね」
「政府ってのは、どうも狡い事をするんじゃな」
「いや茅野、これでも、制度が出来る前よりは、マシになってるってさ」
「まあ……そうなんじゃろな」
「ずっとずっと、マシなんだよ」
区役所の用事を済ませた四谷達は、地下鉄で大通駅まで移動し、狸小路商店街にあるスポーツ用品店まで歩く。
「いらっしゃいませ」
店員が一礼する。
1階はシューズ売り場になっており、様々なスポーツ向けの品が並ぶ。フロアガイドの掲示で、2階から5階はスポーツ種目毎にフロア分けされているのが分かる。
「4足くれ」
四谷が声をかける。
「2足で充分ですよ」
店員が返答する。
「じゃあ2足で」
「いらっしゃいませ」
合い言葉の後、店員は手元のスイッチを押す。
壁が開き、中にもう1つ販売フロアが現れた。
「なんじゃ、密売か」
「過去は違法だったとかっすか?」
「ゾーニングが必要って通達があった時、店長がふざけて作ったらしい。別に合い言葉じゃなくても入れる」
4人が入ると、壁が閉じる。
「わぁ……」
一段照明の落とされた売り場には、様々なデスゲーム用物品が並んでいた。他の客は3人。
「いらっしゃいませ、デスゲーム用品屋へようこそ」
レジにいた店員が会釈する。
「防御用のプロテクター類から、武器、サバイバルツール、食料、薬品、通信機、電子部品など、各種取り揃えております」
「ほう、スタンガンじゃな、これは?」
茅野はショーケースを見て声を上げる。
「これはお客様お目が高い。このスタンガンは、気絶型と呼ばれるもので、相手に使用すると気絶します」
「普通そうじゃないんか」
「本来は電気ショックの痛みで相手の動きを止めるもので、別に気絶する訳ではありません。本品は脳波か心拍を検知し、気絶または心房細動を発生させるよう波形を調整します。これを用いれば、非力な女性でも充分、相手を無力化出来るでしょう」
「なんか物騒なワードが混じってた気がするんじゃが」
「電撃は最初の1回より後は、徐々に低下していくので、役に立つのは登場シーンだけで、後は脅しにバチバチやるのが良いでしょう。相手に奪われても使えるように、個人認証機能はありません」
「……普通に護身向きなのはあるんか」
「そちらの拳銃は如何ですか。会場や練習場に直接お届け、終了後回収・保管するので、銃刀法を気にせず使えます。尚、練習場については、実包はお使いになれません」
「実銃!?」
「スミス&ウェッソンのミリタリー&ポリス、22口径です」
「怖っ」
「持っていると大体真っ先に狙われて殺されますが、主人公の切り札として末永く使われます」
「死亡フラグ過ぎるじゃろ」
「では、こちらの毒物は、いかがでしょう? 無味無臭で、ほんの0.01mlで致死量となる、夢の神経毒です。食べ物に入れて良し、矢に塗って良し、ナイフに塗って良しです」
「いざ殺し合いになったら強そうではあるが」
「解毒剤を持っていると大体殺されて奪われ、持っていないと結局不発になります。血流を操る能力が敵の仲間にいれば、100パー殺せません」
「嫌なフラグの立つ武器じゃな」
「大体、デスゲームに参加する人は、迂闊に食べ物は口にしません。矢傷を負ったプレイヤーはほとんど戦力にならないので、オーバーキルでしょう。ああ、それと毒素が強すぎるので、狩猟に使うと肉が汚染されます」
「致死よりも負傷の方が、相手チームの行動を制限する。小学生でも知っている、デスゲームの基本戦略だな」
「嫌な小学生じゃのぅ……」
「でしたら防具は如何でしょう。プロテクターは相手を刺激せず、奪われず、それでいてこちらは防御を気にせず思い切った攻撃が出来ます」
「おお、路上の喧嘩でも強そうじゃ!」
「というのは、デスゲーマーなら皆知っているので、装備しているのに感づかれたら、持久戦を仕掛けられます。疲労で動きが鈍ったところを、回り込まれてガッとやられます。ガッと」
「気付かれない程度のはないんかい」
「一般的な防具としては、やはり超鋼ファイバーの織り込まれた改良ケブラージャージ、こちらが良いでしょう。刃物を通さず、ロープとしても使え、防寒・通気性に優れています」
「みんな使ってるから、アドバンテージ皆無じゃな」
「お値段は、これぐらい」
「高っ!」
「茅野、お下がりやろうか?」
「え、ええっ!? 四谷の?」
「高校入る前に買ったけど、その後育って結局実戦に使えなかった」
「でも、それは、その……ちょっと」
茅野は口ごもる。
「男性用は体型が合わなかろう。私のお古をやろう。競技ダメージが少しあるが、性能に問題のあるようなものではない」
「……あ、はい、もらいま……あ、でも」
「大丈夫、まだ育ってなかった頃だ」
「わー、気遣い超うれしー」
「他に、ずっと元気でいられるただのビタミン剤などもございます」
「いらないです」
四谷達が店員と話していると。
「――あら、誰かと思えば」
不意に声をかけられた。
「よう、樽手の」
言ってから四谷は振り向く。
そこには、相手の学校指定と思しき紺のコート姿の学生が3人立っていた。
「藍川高校のデスゲ部さん、今日はお買い物?」
女生徒が尋ねる。明るいロングの茶髪で、人懐こそうな笑みを浮かべていた。幾分幼い顔立ちをしているが、部分的なメイクで引き込まれるような印象がある。メリハリと柔らかさの共存する体型と身のこなしは、持久性とパワー、総合的な能力を要求されるデスゲーマーとしての実力を伺わせる。
「おうよ。正月は負けないぜ、岳辺さん」
「それは楽しみ。そっちのお2人は新人さんかな?」
にこにこしながら岳辺は小首をかしげながら、正岡と茅野の顔をのぞき込む。
「ま、正岡です!」
正岡は緊張気味に一礼する。緊張しているのか、視線が目に合っていない。
「茅野です」
茅野もお辞儀をする。
「あれ? 正岡君って、野球で甲子園出てなかった?」
「ご存知でしたか」
「ご存知ご存知! 格好良かったよねー、フィジカル凄くて、何でデスゲームやってないか不思議だったもん」
岳辺は極自然に、正岡の上腕の筋肉をぽんぽんと叩く。
「近くで見ると本当、全身きちんと出来上がってるね」
話す内容、言語外の雰囲気、距離感の詰め方、どれ1つ不快感を与えずに懐に飛び込む。ヲタク気質が多く必然的に陰キャ指標270を超えるデスゲーマーにあって、超人的と言えるコミュ力だった。
「恐縮です」
「一般スポーツの選手って、バランスがどこかしら崩れるものだけど、デスゲ意識してたの?」
「……まあ、少し」
「そうなんだ、やっぱり! ピッチャーやってたのに右の腕も筋肉量だけじゃなくて、長さまで一緒だもんね」
「ええ。試合だと左ですけど、投球数合わせてます」
「うんうん、だよねー。こりゃ強敵だねー、鈴井君」
「そうですね」
アフロの男子生徒が頷く。
「対決型なら、先に行動不能にした方が良いかも」
「バットで撃ち落とされるか、投石で迎撃されるかもよ?」
「無手なら敵いませんけど、スリングは2分で作れますから。初撃で対応はさせませんよ」
「高校デスゲで直接対戦は基本ねーだろ」
「もしもの話よ四谷君。やだもー、怖い顔して」
岳辺は笑いながら、ぺしぺし四谷の二の腕を叩く。甘噛みならぬ甘叩き、これをやられて嫌な男はいない。
「ね、ねえ、そろそろ行かない? 鈴井君、岳辺さん」
後ろに控えていた女生徒が、遠慮がちに声をかける。
「はい、高山部長」
「りょーかい、理穂っち。邪魔したね、みんな」
「ん、買い物はしないんっすか?」
「一緒に買い物したら、手の内バレちゃうでしょ、正岡君。ノースマンでも食べて、また来るよ」
「失礼します」
「じゃ、失礼します」
「バイバーイ」
3人が立ち去った。
「感じの……良い人でしたね。あと、こう、こういう、バインというかボインというか」
「……手つき」
「正岡、可愛らしい外見や物腰に惑わされるな、あれが、最強格のプレイヤー。岳辺燐だ」
「北海道高校デスゲの四天。『多聞天』岳辺、『増長天』佐藤、『持国天』鈴木、『梵天』高山、常識じゃな」
「なんか1人、神格違うの混ざってませんでした?」
「四天のうち2名を擁する今年の樽手は常識外れのパフォーマンスを見せている。フレンドリーだった岳辺が対人情報戦、男子生徒の鈴井が身体機能やスリングを使ったスナイプなど。そして、部長の高山は、一見おとなしめ地味めの美少女ながら、洞察と作戦立案を主としつつ、目視から弾丸を回避する程度の身体機能を持ち、『もうこいつ1人でいいんじゃないかな』と動画実況に言わしめた『軍神』」
「アニメから出て来たみたいな人達ですね」
「ああいうのが現実に出て来るから、デスゲームは止められん」
「……四谷、強敵に闘争心を燃やすと、早死にするぞ」
「大丈夫だって、わっはっは! 考えすぎだぜ、近藤!」
「死亡フラグごっこ止めんかい」
学期末から冬休みに入り、四谷達は年明けの大会に向けた練習を続けた。
家の手伝い、会社経営、アルバイトなど、個々の都合と調整をしつつ、回復の休日以外ほぼ終日練習の日々は続いた。
そして大晦日の晩。
「――こんばんは」
近藤家のリビングに、家政婦に案内されて茅野が入って来る。
「バイトお疲れ、茅野」
四谷達デスゲーム同好会員と、軍人将棋同好会員は、思い思いの格好でくつろいでいる。
テーブルの年越し用の料理が、半分ほど減っていた。
「まだ腹減ってるか?」
茅野はテーブルに、寿司の30貫入りパックを開く。
「回転寿司じゃけど」
「なんの、ありがたい」
「やっぱり年越しは生寿司がないとな」
四谷達は改めて乾杯して食べ始める。
「今日、何時頃に出るんだっけ?」
アブラガレイを頬張りつつ四谷が尋ねる。
「22時に出れば充分だろう。うちの会社のルトアビブ保安部長が年末出勤で運転してくれるから、円山まで送ってくれるそうだ」
近藤はエンガワ軍艦にワサビを足している。
「地下鉄じゃなくて良いのはラッキーだな」
「混雑してたらどっか手前で降りるぞ」
「22時だったら、テレビ点けていいっすか?」
正岡は言いながら、山わさびエンガワ巻きを食べる。
「テレビ? 動画じゃないんですか?」
藤原は炙りエンガワにぎりを食べる。
「ああ、年末特番じゃな?」
カレイのヅケにぎりを食べつつ茅野は聞き返す。
「はい。年末特番で、デスゲームやるらしいんで」
「そうさったな。構わんよ。音は少し絞り気味で」
「いいぞ」
「うん」
「ありがとうございます」
正岡がテレビを点けた。
――トレーニングウェア姿の若い男が、ウエスタン風の衣装を着けた女と向かい合い、トランプをしている。
『さあ、最後の1戦。これに負ければ、不発以外は全部死ぬボーチャードロシアンルーレットに挑戦しなきゃ、いけないぞ! 関ヶ原004の石田君、意地を見せるか!』
ナレーションがかぶさり、画面下にナレーションの言葉がテロップになる。
若い男――石田が何か女に言っていたが、ナレーションに重なり音声は絞られていた。
「いいともさ」
女は芝居がかった仕草で返事をする。
「勝負はクローズドポーカーの変則ルール。チェンジは2回まで。チップは4枚」
女は掌ぐらいの大きさのチップを4枚2組出す。チップには、関ヶ原004のメンバーの名前と顔写真が書かれている。
「チップを勝ち取ればメンバーは解放され、奪われれば命を取ります」
背後のセットにかけられていた布が取り去られると、残りの3名のメンバーが各々鉄の檻に入っていた。
檻は人ひとりギリギリに入れるサイズで、身体を縮めても頭がつかえ、首を曲げていなければならない。
そして、檻にはコードが繋がっており、女の手元にスイッチが並ぶ。
「じゃあ勝負」
引いた映像になった。
「なんや小さくて観にくいなぁ!」
ワイプで入ったひな壇芸人の1人がぼやく。
「兄さん、そら歳のせいでっせ!」
別の芸人が言う。
カメラがスタジオに切り替わる。
「せやな。ワイも、いつの間にかおっさんって歳になってもうたな」
芸人は遠い目をする。
「若い頃は、全然売れへんで、女房にも苦労かけてなぁ」
「若手にはえげつないですからな、うちの事務所」
「やめとけやめとけ!」
画面は切り替わり、別撮りしてあった芸人の妻のインタビューになる。
「――家の人は、そりゃあもう絵に描いたような芸一筋の芸人でね。飲む打つ買うは当たり前、博打もようけしはったんですよ」
「昔の事や」
隣りで芸人本人が照れくさそうに笑う。
「忘れてへんで。なんかあったら裁判で有利になるさかいな」
「怖っ、お前怖っ!」
「でもな、どんなに暴れても、何人浮気して堕ろさせても、覚醒剤や強姦で刑務所に行っても、1週間かけずり回って何とか工面した住民税の為のお金をパチスロで20分でとかした時も、いつも家に帰って来て、『おい飯は?』って。ああ、この人が帰る場所はここやし、その為にご飯作って待とうってな」
「あの頃は、ほんま、すまんかった……つい、カッとなってしまうんや。カメラさん、こいつのこっちの目、義眼やろ? ワイが抉ってもたんや。酒を買うから金をよこせって言ったらな、もう飲むなって」
「それでもよこせ言うから、『ほならウチを殺してからにせえ! この甲斐性無し!』って言うたら、『思い通りにしてやらぁ』って、首ぃ掴まれてそのままアスファルトに叩き付けられてん。それで、気が遠くなって目をつぶりかけたところに、『亭主を無視しやがって、こっちを見ろ!』って、目に指突っ込んでなぁ。ウチ、自分の眼球も、それを人に喰われるのも初めて見たわ」
「それを見た人達が、勘違いしてワイを取り押さえてな」
「勘違いやあらへん。夫婦やなかったら、犯罪やよ」
「取り押さえられた時に、腰ぃいわしてもて」
ナレーションが入る。
『漫才師の鈴木さんにとって、腰は公私共に大事な商売道具。座って漫才は出来ないと、休止宣言をした後、ほぼ寝たきりで一層酒に溺れる日々となりました』
「何とか元気になって欲しい、お酒しか飲まれへんで何にもご飯も食べへんから、栄養はきちんと取って欲しい思うて、お義兄さんに相談したんです」
『そこで紹介されたのが、この朱汁。従来の青汁にトマトと人間由来の成分を配合する事で、ポリフェノール、鉄分、蛋白質をプラス。1日3回の服用で不足しがちな栄養素を補う事が出来ます』
「これを飲み始めてから、酒が切れた時に出た手の震えや幻覚がぴたりと収まりまして。腰の痛いのも嘘みたいになくなりましてなぁ。ここだけの話、アレも随分元気になりました」
『個人の感想です』
「そうやったの? 一度もしてもろてないけど……」
「あっはっは!」
『今なら、1週間お試しセットが99パーセントオフの2000円でご提供です。1年間パックでお送りするので、開封前8日以内に返送されればいつでもキャンセル可能です。ご注文は電話――』
番組内CMが終わり、ポーカー勝負に画面が切り替わるが、既に終わっていた。
関ヶ原004の小早川・吉川の2名がギブアップでリタイヤ扱いになり、ポーカーに参加していた石田ともう1名のメンバー・小西が、スタジオに繋がる通路を走っていた。
「さあ、デスゲームを生き残った2人のヒーローが、いよいよやって来ます!」
ファンファーレと共に、2人がスタジオに入って来た。
「おめでとうございます! これにてゴール、生き残り確定です」
司会者の言葉に、2人は大きく溜息をつく。
「関ヶ原004の石田さん、優勝のトロフィーをどうぞ」
司会者は石田にトロフィーを渡す。
生き残った参加者はトロフィーを高く掲げた。
そして、トロフィーの金属部分に手をかけた瞬間。激しい火花が散り、倒れた。
小西が何か叫んだが、音声は拾われていない。
「一体、石田に何が!」という、ポップ体のテロップが画面をみっちりと覆う。
次の瞬間、ひな壇の芸人達が、一斉に手にテーザー銃を持って構え、小西目がけて発砲した。
ワイヤー付きの針が、生き残った1人の手足と言わず頭、耳、眼球、舌、股間、あらゆる部分に突き刺さり、電流が流れた。
1発でも大人を昏倒させる高電圧かつ大電流が、100発近く同時に流された事で、その身体は激しく痙攣し飛び上がった。
一瞬遅れてスタジオ内の廊下に映像が切り替わって数秒してから、CMに入った。
CMが開けると、CM前のVTRが10分ほど流れた後、スタジオの映像になった。
スタジオには、先ほど倒れた2人の姿はなく、白黒の顔写真だけが置かれていた。
「……油断大敵、デスゲームにおいて、これほど重要な事はありません」
司会者は沈痛な面持ちで語る。
「確かに彼らはデスゲームの手続きをしました。これが、その書類です。間違いなく彼らのサインであり、何1つ不備はありません」
ボードにした『生存支援申請』、
通称『安楽死申請書』
にカメラが向く。
希望の理由欄は、片方が「夢がかない、未練がなくなったため」、もう片方が「生きるために命を殺す事に耐えきれなくなった」と、整った文字で書かれていた。
「死はいつ訪れるか分かりません。彼らの死は、現代人が忘れてしまった大切な何かを教えてくれているのかも知れません」
ひな壇の芸人達も、涙を拭いている。
「死があるからこそ生は輝くのです。1つの年が終焉を迎える大晦日、古い年が死に、新しい年の生まれるこの日、生の輝きをかみしめる事で、彼らへの手向けとしましょう」
「みんな、がんばろな!」
「はい……」
「良いお年を!」
「さて、我々の忘れてしまった大事な何かを取り戻させてくれたコントグループ関ヶ原004。デビュー3ヶ月を流星のように煌めき流れた彼らの追悼アルバムが、今なら9割引でご提供です。商品番号2番は、関ヶ原004写真集『ふたりをわすれない』です! こちらは袋とじでデスゲーム参加時に残した本人直筆の遺書を掲載しています!」
次々に商品説明がされ、問い合わせの電話番号が表示される。
「お電話のみで受付となっております。コールセンターは混雑が予想されます。年末ですのでお間違えのないように、ご注意下さい」
――番組は、ここで終了した。
「……なんじゃこりゃ」
四谷の口からこぼれた言葉の後は、皆、しばらくの間無言だった。
元旦、深夜2時。
株式会社どさんTV本社では、緊急の会議が開かれていた。
「ついに、年末番組の視聴率が、0.1パーセントを割り込みました」
上座に座る社長が口を開く。熟年の女だった。
傍らに座るヒゲをたくわえた初老のオーナーは黙って腕を組んでいる。
データ管理会社からの紙の報告書類が、会議机の各人の前に置かれている。
1人が、それを開こうとする。
「見なきゃ分からないの!?」
社長は怒鳴る。
「あんたら、大晦日は何を観た? 武納さんから」
「わ、私は、我が社の『札幌トモダチ公園』を」
「私もです」
「ええと、私はそれと、NHKの虹色歌合戦をザッピングで」
「テレビが2台あったので、片方でトモダチ公園、もう1台で大晦日だよドラえもんリターンを」
「うちはトモ公と配信でどうでしょうクラシックを、後、ラジオで虹色」
皆、自社の番組の視聴を報告する。
「じゃあ、我が社社員の間では、視聴率100パーセントって事だな」
オーナーがぼそりと呟く。
「それが逆にいけないんじゃない。あなたたち、ウチの番組本当に面白いと思った? ねえ、武納さん? 編成局長として、どう」
「今回の特番は、今流行のデスゲームを主軸に、ほぼ自社作成しました。コントグループ関ヶ原004については、予定通り石田と小西を死なせ、追悼グッズも受け付け中です」
「面白かったのか訊いてるの」
「面白、かったです」
「そう」
「面白いか面白くないかなら面白い。消えているテレビよりはマシだろう。だがな」
オーナーが口を挟む。
「他よりも面白かったと思うか? オレは思わなかった。何故、途中にひな壇芸人の朱汁CMを入れた? 何故10分もCM前のおさらいを入れる? 死人が出た時の映像、何故遠景にして、断末魔の音声を切った? どこのインターネット動画でそんな編集をする?」
「それは……BPOを通すために必要な処置で」
「そういうところよ」
社長は両手を組んで、肘をテーブルにつく。
「テレビには強みもあるけど制約もある。ネットで当たっている素材が、テレビでも出来るとは限らない」
「今回の企画は社長のお前のものだったな。番組内CMも含め――」
「CMが取れれば入れるのは当たり前です。それを入れた上で質を高めるのが制作の役割でしょう。今回はほとんどが自社制作なの、面白くない責任を制作会社のせいにして逃げる訳にはいかないの!」
社長は皆を睨む。
「春の編成会議までに、各人改善案を出しなさい」
「それじゃ遅い」
オーナーが口を挟む。
「だから出来るだけ急ぐように」
「お前ら、この会議の時間は神妙な顔をしているが、帰って雑煮食ったら、それで発散しておしまいだ。それから忙しい忙しいで先のべだ。今日の午後から会議を行う。アイデアは各人報告するように」
「……そうね。それで良いかしら。広告代理店としての意見はどうですか、田津さん」
社長は、傍らのスタンドに立てたノートPCに視線を向ける。
『うちの社内ではね』
田津と呼ばれた男は、目が血走り、くっきり隈が出来ていた。
『10年前の失敗のせいで、デスゲームは、鬼門だったんですよ。それを何とか根回しして実現まで持って来て、結局これです』
画面に時折ノイズが現れるが、音声に途切れはない。
『デスゲームがキラーコンテンツなのは間違いない。けれど、コンテンツってのは、視聴者の時間というパイの奪い合いなんですよ。だから、品質――』
「そっか、インターネットの動画配信の方を、潰せば良いんだ! そうよね!」
社長がぱっと笑みを浮かべる。
「田津さん、前聞いたけど、デスゲームのネット動画って、半分ぐらいが豊平の施設よね?」
『ええ、札幌支援施設、名越フーズが1社で運営するデスゲーム施設です。東日本のデスゲーム動画作成の最大拠点です』
「そうそう、名越フーズ。飲食じゃない。これナナカマド得意じゃない?」
『……得意という事でもないですが……分かりました。話を繋ぎましょう。ただ、彼らの主要スタッフは今回の番組の、その……後片付け、をしているところです』
「ならギャラを増やすか休ませるかしないと――」
「片付け!? 一体、いつまでやってんの!」
言いかけるオーナーに、社長は言葉をかぶせる。
「時給じゃないからって、何時間かけても良いワケじゃないのよ!」
『設備と人員に仕事の内容を考えれば、そこまで遅くはないかと』
「今が一番大事な時なのよ。田津さんも分かるでしょう? ナナカマドなんてこんな時の為に、たっかいお金出して飼ってるんだから、値段分ぐらいは働いて貰わないと詐欺じゃないの! 明日の会議に進捗報告なさい!」