エピローグ 春大会
「――それからの事は、語る程でもないだろう。名越フーズのバイトテロ疑惑は完全に払拭され、逆に経営を助けようと、回転寿司名越の客は増えたぐらいだ。
番組制作会社ナナカマド社長、DTVオーナー、社長、それから広告代理店でも誰だか言うヤツが、殺人なり共犯なり教唆なりで逮捕、裁判中だ。
関ヶ原004の生き残り2名も共犯として送検はされたが、あの時通報をしても自分達の身を危険にさらしただろうと判断され、不起訴となった。
本件は幾つもの企業が絡んだお陰で、解説系動画のネタにされ、何人もの解説系動画配信者の懐を潤した。
デスゲーム兼安楽死施設の維持について、近藤が主導して行っていたクラウドファウンディングに、予想を超える額が集まり、名越フーズの持ち出しをなくした、独立した法人として運営が出来そうだ。
茅野は、貝斗のアパートへの不法侵入と恐喝の件で自首し送検されたが、情状や民事は示談となった事などが考慮され、起訴猶予処分となった。
貝斗は、偽計業務妨害で裁判中。民事については、茅野との和解を条件に、名越フーズが大幅に譲歩した事で和解が成立した。
そして本日」
「誰に話してるんだお前」
「ついに春のデスゲーム高校生大会全国大会が、開催され、盛況のうちに閉会式を迎えている」
表彰が終わり、主催者挨拶となった。
『お疲れ様でした、名越フーズ代表取締役の、尾張です。デスゲームの扱いが、この半年の間に大きく変わり、非公式ではありますが、全国大会開催に至りました事、大変嬉しく思います』
ステージ上の演台に立つ尾張の目にはうっすらと涙が浮かぶ。
『高校生デスゲームは、徒に死体を映して喜ぶゴア趣味や、自殺願望者の吹きだまりではなく、競技が人生の縮図であれば、死が存在する事は当然であるという考えによって成り立つものと考えます。かつて、我々は目前の死を恐れるが故に、それを支える為に起き得る潜在的な死に目をつぶり、結果本来は生きられる者をも死なせる、大規模な医療・介護崩壊を起こしました。だが安楽死制度とこれに連なるデスゲームによる収益化は、これをようやく解消した。安楽死の重要性とデスゲームの意義、死は非日常ではなく、日常の延長である事、競技を通じてそれを感じて頂けた日であったと思います。最後に』
尾張は呼吸を軽く整える。
『今回参加142名、生還141名、皆さんの参加への感謝を、惜しくも亡くなられた方への遺憾の意を、そして次回の開催を誓って、閉会の言葉とさせて頂きます!』
会場は歓声と拍手に包まれた。
「……そろそろ良いか」
「いやぁ、ありがとうございます、見られるとは思いませんでした」
四谷は相手に向き直る。
「我が儘ついでに、ですね」
「なんだ」
「一勝負どうです。あなたも仕事ばかりで退屈じゃありませんか?」
「勝負だ?」
「チップは互いの命。たまには、死ぬ事を思い出してはどうです。今や1番死から遠い人間でしょうが」
「……何か思い上がっているようだが、お前のようなヤツは、珍しくはない。こういう時、私はいつも言う」
亡者の列は、退屈そうに彼らを眺める。
「『お前が負ければ、もっと過酷な地獄行き』」
にやりと閻魔大王は笑った。
「『万に、兆に、那由多に1つ、お前が勝てる事でもあれば、我の命を分け与え、もうちょっぴりだけ、現世に返してやる』」
「負けませんよ。もう少し、一緒にいたい奴らがいるんでね」
【完】