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9.最弱の男が最強の武将

「よ、ヨリトモ君、今の政子の話は本当か?」

 北条ほうじょう時政ときまささんが、焦った様子で聞いてくる。


「い、いや、お父様、落ち着いてください」


「な、何だとー、貴様にお父様呼ばわりされるいわれは無いぞーッ!」


 思いっきり怒られた。言い直そう。

「あ、あの、北条政子さんのお父様。

 きっと政子さんは、誤解されています」


「誤解なんてしていないわ。

 勢子せこさんたちを上手く誘導して、獲物をどこに追い込むかを考えると言っていたじゃない」

 政子ちゃんの言葉を聞いて、時政さんが目を見開く。

「そ、そうか。

 獲物がどこに追い込まれるかを調節できれば、高得点を狙ったり、特定の人間に点を取らせたりできるな」


「それだけじゃないわよ。

 巻き狩りの得点を、団体戦で競ったりもするのよ」


「それは、北条家対伊東家みたいな感じで、すでにやっておるぞ」


「ヨリトモさんは、私と比企ひき能員よしかずさんを組ませて、マサヨシチームだとか考えるのよ」

 そんなチーム名まで覚えているなんて、政子ちゃんってやっぱり切れ者なんだ。


「ウーム、そ、それは、確かに変則的な団体戦は面白いかもしれんのう」


「さらに、外馬そとうま戦とかもあるのよ」


「そとうません? なんじゃ、それは?」


「自分以外の人に賭けて、見る目を競うのよ。

 自分が賭けていることを本人に知らせずに、でも獲物を誘導したりして勝たせるのよ」


「ウーム、面白いのお。

 確かに、ワシらには思いつきもしないような楽しみ方じゃ。

 しかも、それを教えることで巻き狩り初体験の政子を楽しませたのだとしたら、ワシもヨリトモ君の見方を少々考えないといかんかも知れんのお」


「待ってください。父上。

 コイツは、自分が巻き狩りで活躍できないから、別の楽しみを考え出しただけですよ」

 次男の義時よしとき君が、さっそくボクのことを否定してくれる。

 でも、大体当たっているんだけどね。


「義時、アンタ偉そうなこと言ってるけど、そんな新しいこと思いつくの?

 巻き狩りの時のアンタの考えてることなんか、どうせ『どうやって父上に褒めてもらおうか』って位じゃないの?」


「え、そ、それは……」

 義時よしとき君は、政子ちゃんの勢いに押されて黙り込んでしまった。


 政子ちゃんが、勝ち誇ったように言う。

義時よしとき。アンタの考える最強、最弱は、実際とは合致していないのよ」




 ドタドタドターッ


「若っ、わかーっ。

 無事にお目覚めになったのですね。

 良かったです。良かったですーっ」

 安達あだち盛長もりなが、ことモリちゃんが泣きながら廊下を走って来た。


「モリちゃん。ボクは大丈夫だから。

 それよりも、このお屋敷の当主である北条のご家族がお揃いなんだ。

 少し、敬意を払ってほしいな。

 時政様、宗時むねとき様、義時様、政子様。

 我が腹心がお騒がせして、申し訳ございませんでした」


「い、いや、ワシらは、まあ……

 主従の込み入った話の邪魔をしてもいかん。

 行くぞ。

 政子、お前も一緒に来い」


「えっ、お父様。でも私はヨリトモ様のお世話を……」


盛長もりなが殿に任せなさい」

 北条家の一行は、去っていった。




「若っ、すみません。

 でも、でも、ヒック、若が死んじゃったら、おれ、おれ、どうしたらいいか……」

 モリちゃんの目から、大粒の涙がポロポロこぼれる。


「モリちゃん。ごめんね。

 ずっと一緒だったもんな。

 ボクも、モリちゃんがいなくなったら困っちゃうから、よく分かるよ。

 本当にごめん。

 ボクがもっとしっかりしていたら、心配をかけることもなかったよね」


「本当に、よくご無事で。

 元気そうで安心しました。

 政子さんが、この部屋に入れてくれなかったんですよ」


「えっ、政子ちゃんが?」


「ヨリトモ様は北条家の客人だけど、俺は違うって言って。

 今、気づいたら障子が開いていたので、飛んできたんですよ」


「そうか、色々心配をかけちゃったんだね。

 本当にゴメン」


「そんな。俺がもっとしっかりしていたら、イノシシを若の方に行かせたりしなかったはずなんですよ。

 もっと精進しないといけないと反省しました」


「いや、モリちゃんは悪くないよ。

 それに、イノシシの被害がボクでよかったよ。

 だって、モリちゃんやヒッキーがケガしてたら、すごくつらいし、政子ちゃんにケガさせたら、巻き狩りに女の子を連れて行くからだって、非難轟々(ひなんごうごう)だったと思うんだよ。

 神聖な巻き狩りに女子を連れて行ったから、山の神様がお怒りになったとか言われるのが目に見えていたよ」


「ヨリトモ様、あなたって人は……」


「あっ、ごめんごめん。

 モリちゃんは強いから、巻き狩りでケガすることなんて有り得ないよね。

 失礼なこと言っちゃったかな」


「失礼だなんて、そんな。

 俺は、もう一生ヨリトモ様についていきます。

 ほかの主君には、仕えませんからね」


「どうしたんだよ、急に?

 でも、モリちゃんみたいな出来る男が一生ついてきてくれるなら、ボクも文覚もんがく上人が言うように、天下を治める武力の権化ごんげになっちゃうかもね」


「なれますよ。いや、なりますよ。絶対。

 自分がケガをしているのに、家来のことばっかり気にされるんですから。

 そんな人、ほかにいませんよ。

 ヨリトモ様は、俺が見込んだ最強のお人なんすから」


「さいきょうの人かあ。

 昔、西京さいきょうに住んだことはあるけどね」


「???」

 モリちゃんが、言葉にならないことを発しようとして口をパクパクさせている。


※西京

 平安京の西側の地域。

 朱雀大路より西側のこと。



「それで、ヒッキーは無事に帰れたのかな?」


「もちろん、それは大丈夫です。

 ただ、ずっと北条政子さんが若に付いていて、一切手出しを出来なかったので、悲しそうでしたけど」


「せっかく家来をたくさん連れて来てくれて、おかげで巻き狩りが形になったのに、悪いことをしたなあ。

 今度会ったら、謝っておこう」


「若、そういう所ですよ。

 そういう所が、最強だって思うんです」

 モリちゃんが、なにやら一人で納得している。


次回から、毎週金曜日更新の予定です。

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