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6.初めての巻き狩り

「ちょっと、あなた。

 最近、やたらとこの辺りの廊下をうろついているけど、何か用なの?」

 うおっ? ついに鍛錬をのぞきに来たのが、政子ちゃんにバレたか。

 手拭いで汗を拭きながら、大きな瞳で睨んでくる。


「い、いや。こっちの方に来ると、家臣の方々がおられるので、巻き狩りのお誘いとか出来るかなと思って」


「へーっ、巻き狩りねえ。

 あんなのどこが面白いのか、さっぱり分からないわ」

 巻き狩りがどうこうなんて、まるで口から出まかせだが、ごまかせたようだ。


「う、うん。ボクも、そんなに好きなわけじゃないんだけど、付き合いとかあるじゃないか。

 偉い人には花を持たせたりとかさ。

 そういうのを自然にできるように、上手になっておかないといけないんだ」


「フーン、なるほどね。

 そうだ。あなた、最近奥の間に居候している西国の武将とかいう人でしょ。

 ヨリ何とかっていう。

 一度、その巻き狩りとやらに、私も連れて行きなさいよ。

 お父様に頼んでも、女はダメだの一点張りなのよ。

 あなた、西国の武将だったら、西国での風習で女も連れていくとか言ったら、みんな信じるかもしれないでしょ」


「い、いや、でも、君のお父さんに『娘に手を出すな』って言われているから。

 そんなのに誘ったってバレたら、怒られちゃうよ」


「何よ、怒られちゃうって。

 お父様に怒られるより、私を怒らせた方がはるかに怖いわよ。

 大体、手を出すって何よ。

 アンタみたいなオッサンに、私のことをどうこう出来るわけないでしょ。

 何調子に乗ってんのよ!」


 ひえーっ、さすが可愛い顔をしていても坂東武者の娘だ。

 あっという間に、巻き狩りに連れていく約束をさせられてしまった。




 数日後、ボクはモリちゃんのほかに、比企ひき能員よしかずとその家来10数名、政子ちゃんとお側付の女性たち数名を連れて、巻き狩りに出かけた。

 ずっと引きこもっていたボクには、友達は少ない。

 こんな時に頼りになるのは、モリちゃんとヒッキーこと比企ひき能員よしかずだけだったんだ。

 ヒッキー(引きこもり)だったボクの友達の一人が、比企ヒッキーだなんて、すごい偶然だ。


 でも、ヒッキー(比企ひき能員よしかず)に家来がいて助かった。

 男3人では、巻き狩りって言っても鹿一匹捕まえるのにも苦労しそうだ。



 馬に乗って、約20人くらいで山を分け入った。

 ちょっと開けた場所があったので、そこにゴザを敷いて今日の拠点にした。


 ボクは、巻き狩り初体験の政子ちゃんに説明した。

「巻き狩りは、戦いの訓練をする場でもあるんだ。

 だから、まず偵察隊を出して敵に見立てた獲物を探すんだ。

 見つけたら、勢子せこの役目の人が追い立てて、この開けた場所に追い出す。

 それをボクたちが弓で射て、たくさん仕留めた人が勝ちなんだ」


「フーン。それって、クマを仕留めても、スズメを仕留めても1点なの?」


「うーん、政子ちゃん。いーいところに気が付いたね。

 じゃあ今日は、クマみたいな大きな動物は5点、イノシシは4点、シカとかキツネ、タヌキとかは3点、キジとかトンビは2点、ウサギみたいな小動物は1点、スズメとかは0点でいこう。

 点数を決めていない動物を取った時は、協議して決めるということで」


「いつも、『ワシが獲ったタヌキは貴様の獲ったイノシシより立派だ』とか言う輩が出ますから、最初にこうやって決めておけば良いのにね」

 モリちゃんが笑いながら言う。


「そんなことを言うやつがいるなんて、信じられないわね」

 政子ちゃん、一番そういうことを言っているのは、君のお父さんなんだけどね。

 ボクたちは笑いながら、顔を見合わせた。

「何よ、アンタたち。

 男同士で見つめ合って、気色悪いわね」



 しばらくの間、勢子の人たちが偵察に行って、ボクたちは政子ちゃんの側付きの人が入れてくれたお茶を飲んでくつろいだ。



 勢子の人が一人、大声で叫びながら戻って来る。

「シカを一匹、追い込みまーす。

 シカを一匹、追い込みまーす」


「よし、じゃあ、始めようか」

 そう言うと、ボクたちは弓矢を持ってそれぞれ馬に乗った。


 ボクとモリちゃんとヒッキーと政子ちゃんで、シカを取り囲む。

 ボクは右手を上げて、モリちゃんとヒッキーが弓を撃たないように制止した。


 政子ちゃんが、一生懸命弓を射るけど、馬の上からだと上手く射れないからか当たらない。

 ボクたち3人は、シカが逃げないように上手く連携して囲む。

「モーッ、ちっとも当たらないじゃない。

 野生の動物は、すばしっこすぎるわ。

 こんなの、ホントに仕留められるの?」


 そんな風に怒られても困るな。

 馬の上から弓を射るのって、意外と難しいからな。

 シカの方も、自分の命がかかってるから必死で逃げるもんな。


「じゃあ、ヒッキー。当てて見せてあげてよ」


「いや、若。これだけ追い回されてヘトヘトになったシカを撃って3点は、申し訳ないですよ」


「今日は、ヒッキーのおかげで巻き狩りの形になったんだから、一番こういう的を撃つ権利があるのはヒッキーだよ」


「では、お言葉に甘えて」

 ヒッキーが弓を引き絞って撃つ。

 一発で急所に当たって、シカは倒れた。


「ヒッキー、お見事。さすがだよ。

 シカはヘトヘトだったかも知れないけど、一発で仕留めているから文句なしの3点だね」


「若、ありがたいお言葉です」


 その次に出てきたタヌキをモリちゃんが仕留めて、イノシシをヒッキーが仕留めた。

 次のウサギがすばしっこく逃げ回って、森の中に逃げ込んでしまった。


「やっぱり狩りの人数が少ないと、落ち着いて狙えますけど、その代わりに獲物を逃がしてしまいますね」

 モリちゃんが、ちょっと悔しそうだ。


 それを聞いていた政子ちゃんが、スルスルと後ろに下がっていく。

 馬から降りて、ゴザの上に座ってお茶を飲み始めた。


「ヒッキー、モリちゃん。このまま続けておいて」

 そう言うと、ボクも後ろに下がって馬を降りた。


あとがき


頼朝が北条政子を巻き狩りに連れて行ったなどという記録は、ありません。

完全に私(御堂 騎士)のフィクションです。

ですから、もし2022年大河ドラマ「鎌倉〇の13人」で、頼朝が北条政子を巻き狩りに連れて行ったら、この作品のパクリです。

三谷幸〇がなろう小説を参考にするはずがないので、その場合偶然の一致なのでしょうけど、私は「三谷〇喜にパクられたー」と言って自慢する予定です。


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