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28.鎌倉への凱旋

 ボクたちは、勝利の味をかみしめながら鎌倉に凱旋がいせんした。


 平家の討伐軍を迎え撃つために出発する前に、色々な政治機構を司るお役所の位置を、チカ坊やその兄である大江広元と一緒に決めていた。

 そこかしこで家屋敷の建設が始まっていて、物凄く活気づいている。


 ボクは御所になる場所の近くに、黄瀬川の沿岸と同じように源氏の白い布で囲った本陣を形成した。

 そして、富士川の戦いの前後と同じように、そこで政務を行うことにした。

 官僚たちは街づくりのために飛び回っているし、武将たちは鎌倉の地に屋敷を作ろうとして、その算段で忙しい。


 布で覆われた本陣の中には、ボクとモリちゃん、それに義時君の三人だけになることが必然的に多くなった。

 本陣への出入りは、三善康信みよしやすのぶさんと配下が仕切っている。


 鎌倉の地には味方しかいないので、こんな布で囲っただけの本陣でもすごく安心感がある。




鎌倉殿かまくらどの

 布で仕切られた本陣にやって来たチカ坊が、ボクに呼びかける。

「えっ? 何? その鎌倉殿かまくらどのっていう呼び名は?」


「鎌倉に本拠を構える殿なので、ヨリトモ様のことは、みんな鎌倉殿かまくらどのと呼んでおりますよ」


「へえ、そうなんだ」


「しかし、御所ごしょが出来るまでの急ごしらえとはいえ、布で囲っただけの本陣で政務を執り行われるとは流石ですね」


「そ、そうかな?」

 なんで、そんなことを褒められるのか分からない。

 雨が降ったらどうしようかとか、結構悩んでいるんだけどな。


「ええ。遠征中の本陣の雰囲気を、そのまま御所予定地の隣に築いておられるのは、常在戦場の心意気を示すためとお見受けいたします。

 我々も、このヨリトモ様のご威光を見習って、油断せず精進していこうと思います。

 これはもう、中国における幕府のようなものですな」


「幕府? なんだそりゃ?」

 モリちゃんが、訳分らんと言う顔で聞く。

 よく聞いた、モリちゃん。

 実は、ボクも良く知らないんだ。


「幕府とは、出征中の将軍の陣営を指します。

 出征中なので、このように布で囲ったような簡易な陣なのですが、将軍の居場所であり、そこで幕僚を任命して、王に代わってその地を治める場所なのです」


 義時君が、難しい顔で質問する。

「中国の将軍っていうのは、そんなに大きな権限を持っているのですか?

 日本では、征夷大将軍とか臨時の任官でしかないと思いますけど」


「例えば、三国志では五虎大将軍のように大きな権限を持ち、軍人としては最高位の称号です」


※五虎大将軍

三国志における五虎大将軍は、関羽、張飛、馬超、黄忠、趙雲の五名。



「ふーん、幕府かあ。

 さしずめここは、鎌倉幕府って所かな?」

 ボクは何の気なしにつぶやいたが、モリちゃんと義時君はすごくノリノリだ。

「若、それいいっすね。

 幕府ってネーミング、めっちゃカッコいいじゃないすか」

「兄上、それで行きましょう。

 ここは、鎌倉幕府。

 そして俺たち二人に、父上の時政、三浦のオヤジ、かずさのすけ辺りを加えて五虎大将軍でどうですか?」


「いやいや。将軍が幕府を仕切るのですから、義時さんたちではなく、ヨリトモ様が将軍じゃないと」

 チカ坊がたしなめる。

「そ、そうなのか」

 義時君が、ガッカリしている。

 戦いでは頼りになるけど、こういうところでは可愛いもんだな。



「ヨリトモ様、来客です」

 そこに、三善康信みよしやすのぶさんが声をかけてくる。

「来客? 誰かな?」


「サカナと名乗る女性ですが」


「ああ、サカナちゃんか。

 義経の家来だな。通していいよ」


「ヨリトモ様、ご無沙汰しております。

 本日は、お願いがあってまいりました」


「もしかして、ボクの直属の家来になりたいとか?」


「い、いえ、違います」


「じゃあ、ボクの愛人になりたいとか?

 でも、政子ちゃんが許さないだろうな」


「そ、それも違います」

 なんだか、焦った様子が可愛いな。

 でも、あんまりこの調子で冗談を言い続けると嫌われそうだ。

「それでは、何なのかな?」


「は、はい。

 義経様は最後に参陣したために、この鎌倉の地にお屋敷を建てるための場所取りが出来ませんでした。

 何とかしていただけないでしょうか?」


「そうか、確かにそうだな。

 チカ坊。何とかしてあげられないかな?」


「もう、いい場所は有力な御家人たちが取り合いして、やっと折り合いがついたところです。

 今からでは、どうにもなりませんね」

 サカナちゃんが泣きそうな顔で聞いている。


 うーん、女の子のこういう表情には弱いなあ。

 九郎の奴、それで自分じゃなくてサカナちゃんを来させたんだな。

 兄のことを良く分かってやがる。


「心配しなくても良いよ。

 九郎たちは、ボクのお屋敷に住めばいいから」

 サカナちゃんの顔が、パアッと明るくなる。

「ありがとうございます。ヨリトモ様」


「これで、ボクのことも好きなった?」


「えっ? それはその……」

 これ以上はセクハラになりそうなので、やめておこう。

「帰って、義経達に伝えてくれるかな?」


「分かりました。では、失礼いたします」

 サカナちゃんは、疾風のように去っていく。


「若、嫌われましたな」

 モリちゃんが、からかってくる。

 なんか悔しい。




 何やかやで12月になり、ボクの新しいお屋敷が完成した。

 どうもチカ坊が幕府という言葉を気に入っていたみたいで、このお屋敷は大倉幕府と呼ばれるようになった。


※この治承4年(1180年)12月12日が鎌倉幕府成立の時と考えるのが、1180年鎌倉幕府設立説である。


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