27.サカナちゃん
弟の義経が色白の美少年だったせいで気付かなかったけど、神社の庭にいた最後の一人は女の子だった。
ボクは、思わずつぶやいてしまう。
「えっ、女の子だったの?」
「はい」
うっ、気まずい。
九郎が気を遣ってくれる。
「ほら、サカナ。
お前が男みたいな恰好をしているせいで、兄貴が困っているじゃないか」
「い、いや、戸惑ってしまって申し訳ない。
女性の甲冑姿は珍しかったもので……」
ボクは、謝りつつも言葉に詰まってしまう。
「こちらこそ、申し訳ありませんでした。
でも、戦場では男と思ってもらって何の問題もないので、気を遣わないでください」
九郎が、補足する。
「兄上。サカナは、女なので膂力は無いし、剣や槍を使っての戦いに強いわけじゃない。
でも、奥州で戦の演習をすると、必ずサカナが指揮する側が勝つんですよ。
戦いの流れというか、そういうモノを読む天才って言うのかな?」
ボクは、三国志の諸葛孔明を頭に思い浮かべながら口にする。
「いわゆる、天才軍師ってやつかな?」
「いえ、そんな大それたもんじゃないです、……ございます」
サカナちゃんは、何やら緊張しているようだ。
よく見たら、可愛いじゃないか。
こんな可愛い子が慕ってついて来てくれるなんて、九郎やるなあ。
ボクは、少し微笑みながらサカナちゃんに話しかける。
「さっきの話だけどさ。
佐義さんになると、鳥になっちゃうよね。
佐頼さんだったらサカナなんだから、変えるんなら佐頼だよね」
「それって、ヨリトモ様を支えろってことですか?」
「うん。よく分かったね」
サカナちゃんは、何やら複雑な表情で答えに詰まっている。
「兄上、サカナが女だと分からなかったことに対する仕返しですか?
サカナが困っていますよ」
九郎が笑いだすと、みんなドッと笑い出した。
「でも、九郎が京都のお寺を逃げ出して、奥州藤原氏の世話になっていると聞いてすごく心配していたんだよ。
京都の朝廷からは離れているとはいえ、やっぱり藤原氏は貴族だからね。
武士である源氏の子孫を大切に扱ってくれるのか、不安だったんだ」
ボクが少し泣き声になりそうになりながら言うのを聞いて、九郎がボクの手を取る。
「兄上。奥州では、とても大事にしていただきました。
それは、この四人を見ていただければ分かると思います」
「この四人は、藤原秀衡さんが付けて下さったんだよね」
「ええ。弁慶は元々京都から付いて来ていたんですが、後の三兄弟は奥州で仲良くしてもらっていたんです。
この三人を含めて、精鋭を預けていただけました」
佐藤継信さんは、笑いながら話す。
「ワシら四人は義経四天王と呼ばれておって、たとえ秀衡殿に止められたとしても付いてきたとは思いますけどね。
この四人は、義経様の行くところ何処へでも駆けつけますし、義経様のご命令とあらば命も投げ出す覚悟です」
「お、俺も、ヨリトモ様のためなら、命なんかいくらでも投げ出しますからね」
モリちゃんが、対抗意識を燃やしているようだ。
九郎が気を遣って、話しかけてくる。
「私と一緒に来てくれたのは20人ですが、ここにいるのは五人だけです。
他のメンバーは、神社の社殿で休んでいます。
後であいさつに行かせましょうか?」
「いや、いいよ。
九郎と話が出来ることが、一番大切なことだから」
「ヨリトモ様に会いたい人は、五万といるんだぜ。
いちいちあいさつしていたら、ヨリトモ様の仕事はあいさつになっちゃうくらいにな」
なんだか、モリちゃんが胸を張っている。
ボクと九郎は庭に会った二つの石に腰掛けて、ここまでの生い立ちを二人で語り合った。
随分遅れてやって来た義時君は、言い訳していた。
「兄上の感動の再会を邪魔しちゃいけないと思って追いかけなかったのですが……
盛長殿は追いかけて行ったし、もし偽物だったらと思って、やっぱり追いかけてきました」
その愛らしい言い訳。
やっぱり君もボクの弟だよ。
ひとまず九郎義経とも合流したボクたちは、その日の夕刻本陣の前に主だった武将たちを集めた。
ボクは、集まった諸将を見渡して話し始めた。
「みなさん。京からやって来たヨリトモ討伐軍を追い払っていただいて、本当にありがとうございました。
今日は、二つのことを皆さんにお知らせいたします」
みんな、シーンと静まり返ってボクの話を聞いている。
「一つ目は、実はボクは源ヨリトモの影武者なんです。
本物のヨリトモは、石橋山の合戦のドサクサに亡くなってしまいました」
辺りは、一気にざわつく。
「おいおい、マジかよ?」
とかいう声がアチコチから聞こえてくる。
「と言うのは、もちろん冗談です。
ボクは、本物のヨリトモです。
サッサと鎌倉に戻って、政子ちゃんを呼び寄せるのを楽しみにしている愛妻家でーす」
「なんだよ、ビックリさせやがって」
「冗談にもほどがありますよ。ヨリトモ様は、世界に一つだけの花なんですから」
「さすが若、冗談もキレてますね」
アチコチから合の手が上がる。
ボクは、右手を上げながら話を続ける。
「本当の一つ目のお知らせは、今日ずっと生き別れになっていたわが弟、源義経と再会できたことです。
北条義時君も可愛い弟ですが、ついにボクにも本当に血のつながった弟が現れたのです。
今後もエコひいきしちゃうから、みんなヨロシクー」
「「「オオーッ」」」
ボクの横で、九郎が不思議な顔で戸惑っている。
「あ、兄上。すごく軽いノリで、ちょっと、驚きです」
ボクは九郎の方を一瞥すると、さらに話を続ける。
「二つ目のお知らせは、逃げて行った平家軍ですが。
追撃、しませーん」
「ええっ、マジっすか?」
「平家を打ち倒す絶好のチャンスじゃないですか」
「いやいや、賢明な判断だ」
最初のつかみのためのウソ話の時よりも、ざわつく。
「兄上、父の仇は取らないのですか?」
九郎も心配そうだ。
ボクは九郎の方を見てうなずくと、話を続ける。
「ボクにとって、平家はにっくき父の仇です。
そして、京の都でのやりたい放題は許せるものではありません。
でも、そのために無理をして京都まで追撃したら、長旅で伸び切った補給線に苦しみながらのアウエー戦になるのは、今度はボクたちの方になってしまいます。
今回は、追い返すためにとにかく大軍を集めることに重点を置きました。
機会が来れば、より身軽で機動力のある構成の軍勢で、しっかり補給も整えて攻め込みたいと思います。
みなさん。その時は、ぜひまたご協力をお願いいたします!」
大きな拍手が巻き起こった。
ボク自身も、石橋山で負けた後こんなに早く失地を挽回して京都から来る討伐軍を追い返せるなんて考えてもいなかった。
ここは慎重になるべきなんだ。
「兄上。さすがです」
九郎の目にも涙が光っている。
隣にいるサカナちゃんも感激しているようだ。




