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決戦は衣装も大事です

「姫様。お召し物はこちらになさいますか?」

「ええ、お願い。おかしくないかしら?」

「問題ないかと。料理もされるのですよね?」

「そうよ。陛下が作ってくださったキッチンだもの。使っている様子も見ていただきたいと思ったの」

「そうですね。使っているところを見ていただければ、陛下も嬉しく思ってくださるのではないでしょうか」

「そう思っていただけるようにするわ」


私の支度を筆頭さんが手伝ってくれている。

この間の話以降、何も言ってはこない。簡単に辞めたりはしない、と言っていたので、しばらくはこのままなのかもしれない。


「袖はこのままでよろしいですか?」

「大丈夫よ。これくらいなら濡れたりしないから」


着替えが終わったので姿見の前に立つ。

鏡を見ると、自分が年齢よりも小さく見えるのが感じられた。

もう少しで10歳の誕生日が近づいているのに、8歳位にしか見えないのではないだろうか?


「私、もうすぐ10歳になるはずだけど、10歳に見える?」

客観的な意見が欲しい私は、筆頭さんに聞いてみる。

「姫様、成長は個人差が大きいものです。結論は急ぐものではありませんわ」


お茶を濁した返事が返ってきた。

要約すると年齢相応には見えない、ということだろう。


鏡の中の私は、艶消しの紅を着ている。

エプロンを付けるので、華やかな色の方が良いと筆頭さんの提案だ。

袖は七分袖。洗い物をしても袖が濡れない長さだ。レースなどはあまり使われてはいない。スカートの裾に少し使われる程度だ。袖にレースが付いていると、火を扱うときに危ないので止めてもらっている。

代わりに全体的に刺繍が透けるように入っている。同色で入っているので派手さはなく、華やかな感じだ。

私はキッチンに立つことが多いので、衣装のデザインや袖はこの長さのものが多い。

筆頭さんも衣装を新調するときは、注意して選んでくれる事が多いようだ。


品格維持費が出るように(?)なってから、私の衣装部屋は全て埋まることになった。

年齢と体格に合わせた物が用意され、その際にデザイナーが呼ばれた。色やデザインの確認をする必要があるからだ。


私は成長期に入るので定期的にサイズの確認をして、衣装を交換していくそうだ。

少し大きめのサイズを用意して、そのまま使えば良いのでは?と提案もしたのだが、一蹴された。

私の感覚では、使えるものを買い替えるのは罪悪感が湧く行為だし、買った品物はなるべく使い倒す主義だ(タオルはぞうきんにしていたし)。


そう思って言ったのだが聞いてはもらえなかった。

忘れがちだが私は一応『姫』の肩書きがあるので、必要に応じて買い替えや新調は必要な行為だそうだ。


場に相応しい装いをすることも、役目の一つだからと言われてしまった。

TPOは弁えているつもりだったが、伝わっていなかったようだ。

良く考えれば、そういう場がなかったので、伝わっていないのだろうと、納得してしまいここは私が引いた方がまとまる話だ、とその時判断した。


倹約をする王族は、国民のイメージも良くなると思うのだが、この国では『無し』のようだ。

流儀がいろいろあるだろうから、そこには口出しは止めておこう。


経済を回すと思えば納得もいく。

王族や貴族がお金を使うことによって、市民にお金が回るのだ。お金は血液と一緒だ。

溜め込むことは良くない。

衣装の買い替えが経済を回す一環だと思えば、罪悪感も薄くなるというものだ。


自分の体格の小ささを受け入れたくなくて、らちもないことを考える。

鏡を見て何も言わない私に、気に入らないことがあるのかと、心配そうに筆頭さんが声をかけてくれた。


「姫様?問題でも?」

「大丈夫よ。問題ないわ。おかしくないわよね?」

両手を広げ、筆頭さんに見せる。

「はい。お似合いですわ」


柔らかい笑顔で私を褒めてくれた。

笑顔をあまり見たことがなかったので、私も筆頭さんを見つめてしまう。

意図せず筆頭さんとうっかり見つめ合ってしまった。先に気がついたのは筆頭さんだ、一歩後ろに下がる。

「失礼いたしました」

「ううん。選んでくれたのが良かったみたい。ありがとう」


私とうっかり見つめ合ってしまった事が、恥ずかしかったのか(マナー上あまりよろしくない行為だ)少し耳が赤くなっている。そこに気がつかない事にして話題を変える。


「客間まで陛下をお迎えに行った方が良いかしら?」

「そうですね。姫様が招待されているので、お迎えに行く事は良いことですわ」

「わかったわ。教えてくれてありがとう。陛下をお迎えに行くわ」


私は衣装部屋を出る。筆頭さんがお辞儀をするのを背中に感じていた。


部屋の入口に隊長さんが待っていた。隊長さんも着替えている。

さっきとは違い、少しカッチリした印象の衣装だ。陛下が来ているので、衣装も合わせたのだろう。私服は何回も見ているが、今日みたいな衣装は初めてだ。


馬子にも衣装というが、雰囲気が全く違って見えるので、見上げてじっくり鑑賞していた。

衣装は黒を基調としていて、ポイントになる部分にだけ、くすんだ朱が使用されていた。華やかだが落ち着いていて隊長さんに良く似合っていた。

「おや? 眺めてもらえる位には似合ってますか?」


ふざけた感じで聞いてきたので真面目に返しておく。

「うん。良く似合ってると思う。普段と違うからビックリした」

「今日は陛下がいらしているので、印象が良い方が話もしやすいでしょうからね。」

隊長さんは、頬を人差し指で掻きながら教科書的な返事をする。

私から褒められるのは、想定外だったのか照れているようだ。


結局は私のために着替えてくれたらしい。その気持ちが嬉しくて、皆のためにも今日は成功させようと気持ちを新たにする。

「ありがとう。今日は絶対成功させようね」

「もちろんです。姫様の料理なら心配ないと思いますが、私も協力しますよ。では、お手をどうぞ」


隊長さんが手を差し出してくれた。エスコートしてくれるようだ。され慣れない私は少し恥ずかしくなるが、

それを堪え。手を乗せ歩き出す。

成功させようと決意も新たに隊長さんと歩き出した。


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人質生活から始めるスローライフ2
― 新着の感想 ―
[一言] 国王が可愛すぎる、、(⸝⸝ ´艸`⸝⸝) 姫が性格がキツいからイラッとする時もあるけど、人質で冷遇されていたならやさぐれても仕方ないわね。。前世の性格が出るのは頂けないけれど。
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