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決戦の前に

「姫様。お皿はこの辺でよろしいのですか?」

「そうよ。あ、そっちの小さいお皿はテーブルに出しておいてね?」 

「わかりました。カトラリーも出しておきますね」

「ありがとう。お願い」


離れのダイニングキッチンは大騒ぎだ。いや、正確には一部の人間が大騒ぎをしている。

「商人も管理番もありがとう。心配して来てくれるなんて。嬉しいわ」

「私達は用意しかお手伝いできませんから。それに姫様の『キッチンの許可を貰おう大作戦』は今後に向けて、大事な事ですから」


商人は当然のように言ってくれる。

そこに冷やかしを入れるのが隊長さんだ。ほぼ定番の流れだろう。


ちなみに隊長さんは今日はお休みだ。本来なら『お客様』なのだが、管理番や商人よりも私のご飯を試食しているので、今日のお手伝いは食事代として働いてくれている。


これは隊長さんから言い出したことだ。

私は気にした事はなかったのだが、隊長さんは気にしていたようだ。

『他の二人に悪いので』と言っていた。


皆で支度をしているので、この分では予定よりも早く終わりそうだ。


隊長さんが食事代として今日のお手伝いをしてくれているので、商人達にはお礼として今度好きなメニューを作ろうと思っている。


「正直に言ったらどうだ? 姫様の料理が食べられなくなるのが心配なのだろう?」

「もちろんですよ。そこも大事です。姫様の作られる料理は美味しいですからね。商売のこともありますし。結論として、私の今後は姫様にかかってる、と言うことです。隊長殿も似たようなものじゃありませんか?」 

「否定はできないな」

「ですよね。お互い様じゃないですか」


隊長さんと商人は、ちょっとした悪態をつきながら準備を進めていく。

喋っていても手はちゃんと動いているから感心だ。


「あの二人、なんであんなに言い方がきついのかしら? 普段はそんな事はないのにね」


言葉のブリザードっぷりに、私は寒気を覚えながら管理番に同意を求めた。

のんびりとした口ぶりで管理番は答えてくれた。


「そうですね。張り合ってるんですかねぇ?」

「何に?」

「誰が姫様のお役に一番立ってるか、ですよ」

「そうなの? 私はいつも皆に助けてもらってるよ? 誰が一番とか思ったこともないし、気にしたことはないわ?」

「そうですか。ありがたいですね。でも、姫様はお忘れかも知れませんが、私達は大人で、本来なら姫様をお助けしたり、いろいろな事をお教えする立場なのですが、逆な事が多いですから。こんな時ぐらいは、と思ってしまうのです」


管理番は笑っていた。『私は関係ありませんよ』みたいな笑顔で。

余裕の顔を見せているので、私はちょっと意地悪を言いたくなった。


「ふーん、管理番はそれに入らないの?」

「私に出来ることは限られているので、できる事をするだけですよ。お役に立てることが少なくて申し訳ないのですが」


余裕の笑顔から、恥ずかしそうな、困ったような微笑みに変化して、真っ当な返事が返ってきた。

その上『できることをするだけ』と言われると、私の方が申し訳なくなる。


そんなつもりで言ったのではないのだが。

みんなが助けてくれるから、それでありがたいと思っているのに、管理番に嫌なことを言ってしまった。


今の私は以前と比べられないくらいに環境が良くなっている。


それは商人がいろいろな品物を持ってきてくれて、キッチンが充実したからで、管理番が陛下に進言してくれて、侍女長の犯罪が発覚したからで。


それを思うと、意地悪なことを言ってしまった。軽い気持ちだったが反省が必要だろう。

外見が子供とはいえ、中身はしっかりとした大人だ。分別はあってしかるべきだ。


反省。


「変な事を言ってゴメンね管理番。意地悪を言ってしまったわ。張り合う事なんてないもの。皆私を助けてくれているのは同じだわ」

「姫様は気にされなくても大丈夫ですよ。私たちの気持ちの問題なので。それにあの二人はじゃれている部分もありますから」


私の意地悪発言はなかった事にされてしまった。

軽い気持ちで言った事だったが、さらに反省してしまう。

意地悪は良くなかった。やっぱり反省しよう。


お詫びに、今度ご飯を作るときは管理番の好きなものを作ろう。私はお詫びの気持ちを込めて、管理番に提案をしておく。

「管理番。プリン、好きだったわよね? 今度、大きなプリンを作るからね」

「どうなさったんですか?姫様。私はこの前作っていただいたので、今度は商人の好きなものでお願いします。今日は商人もお手伝いしたいと張り切っていたので」


管理番の優しさが身に染みて、私は自分の言動を反省するばかりだ。



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