試食会
いつもコメント、ありがとうございます
とても楽しく読ませていただいています
「「失礼致します」」
管理番と商人が揃ってダイニングに入ってくる。もちろん隊長さんは始めから待機している。
隊長さんは本当なら、今日はお休みなので私服だ。そして、本来の護衛騎士はキッチンから追いだしている。
そして、何時ものメンバーが揃った。
「姫様。今日は何時もと違う感じですね」
目敏くテーブルの上を眺めているのは商人だ。
皆に食事を振る舞うときは定食スタイルなので、今日みたいな大皿料理は初めてで、気になるのだろう。
管理番は右に左にと料理を眺めている。
「そのとおりよ。何時もと違うの。今日はちょっと目的があってね。皆に協力してほしいの。お願いできる?」
「協力ですか?私たちに何か出来ることがあるのでしょうか?」
管理番が口火を切る。『食べることしかできませんよ?』という表情だ。
実にわかりやすい。表情豊かだ。
こんなにわかりやすくて(私は助かるけど)、王宮でやっていけるのかな?
子供の私が言うのも何だが、心配だ。
「何をすれば良いんですか?」
商人が聞いてくる。それに返事をしたのは隊長さんだ。
「感想を聞かせてもらいたいんだ。姫様は」
「なんで隊長殿が答えるんです?」
商人が隊長さんを見る。面白くなさそうな声だ。
「私は姫様の護衛だ。ご一緒する時間は長いからな」
ふふん、と隊長さんが答えている。護衛だから知っていると言いたいのだろう。
何を張り合っているのか。商人はムッとした感じで子供っぽく口を尖らせた。
「隊長殿は狡いですよね。」
「何も狡くないだろう?私は姫様の護衛だ、当然だろう」
二人に流れる空気が何とも言いがたい感じになっている。
何?この空気
私の方が戸惑ってしまう。おかしいな?今日は試食会のはずなのに。
楽しい食事をする日のはずなのに。
私が戸惑っていると管理番が声を上げる。事態の収拾を図ってくれるようだ。
頑張れ管理番。私は応援しているし、気持ちはわかる。
「姫様。味の感想だけでよろしいので?」
「それもあるけど。メニューの構築も考えたいわ。協力をお願いするわね。良いかしら?」
ご飯を美味しく食べるための協力なら惜しまない。
何時もの感じでお願いします。
「なるほど。味の感想だけでは無いんですね?」
嬉しそうな商人。隊長さんを見ながらふふんと笑った。
やり返している。
お願い、せっかく管理番が良い空気にしてくれたのに、無駄にしないで欲しい。
話題を変えよう。私から説明をしっかりするべきだろう。
「実はね。私にマナーの先生がつきそうなの。立場上、仕方がないと思うのだけど。心配な事があるの。料理をすることを、禁止されるんじゃ無いかと思っているの。皆はどう思う?有り得そうじゃないかな?」
「有り得そうですね」
一番最初に賛同したのは、さっきと同じように管理番だった。
管理番も一応、貴族の一員だそうだ。
そうなると、マナーの教育を受けているから、思うところがあるのだろう。
管理番の感想に、商人も『やっぱり』というような瞳をしていた。
商人も貴族との取引が多いせいか理解があるようだ。
皆の理解が十分に得られたところで、私の作戦に協力を取り付ける。
「それでね。私は料理をすること止めたくないの。」
「それで、料理ですか?」
管理番は不思議そうだ。料理を禁止される。それを説得するのに料理?という感じだ。
「そうよ。仲間を増やそうと思って」
「料理を続ける事に、許可を出せる人間を仲間に入れる、って事ですか?」
商人が有り得そうな可能性を手繰り寄せている。
「そうよ。商人。頭が良いわね」
「この流れなら、誰でも思いつくと思いますが」
「許可を出せる人間となると、相手が限られていると思うのですが」
管理番と商人がそれぞれの考えを並べていく。
こうなると二人とも予想は付いているのだろうが、ここまで来て認めたくないらしい。相手の名前を出さない。
それに商人は頷くだけだった。
隊長さんは計画を知っているから、口は挟まない。
「あら、皆わかっているのに、避けてるの?」
「恐れ多くて言いにくいです」
「わかったわ。名前は出さないけど、概ねあっていると思うの。それでね。説得するときに美味しい料理があると、話が進みやすいと思わない?」
「そうですね。それに作れる人が限られると、止めろとは言いにくいですよね」
「私も良い案だと思います。説得もしやすくなると思います。」
私の考えに商人が商人らしい発想で、管理番は当たり前のように肯定してくれる。
「でしょう?それでね。出すメニューを選ぶから手伝ってほしいの」
「この中から選ぶのですか?」
私の提案に、管理番は納得したのかテーブルを見る。
「私たちが先に料理を口にすることになるのですか?」
商人が可能性に気がついて、不安そうに口にした。
「そうなるわね。この中からあなたたちが美味しいと思ったのを出すわ。そのために作ったんだから。しっかり感想を聞かせてね」
「「無理です」」
同時に否定が入る。なんで?
「なんで?」
「「先に口にするなんて出来ませんよ。」」
首を横に振り拒否をする。初めてみる遠慮っぷりだ。
「料理を選定するのに試食は当然でしょう?気にすることはないわ」
「「姫様」」
頑なに恐れ多いという感じだ。仕方がない、最終手段だ。二人の食欲を刺激しよう。
「じゃあ。これ、食べないの?私と隊長さんで食べちゃっても良いの?」
「それは」
「良いですね、姫様。私たちで食べましょう。残ったら私が持ち帰ります。余らせるなんて、もったいないことはしません。ご安心ください」
隊長さんはウキウキしている。陛下に遠慮をする立場でも無いので、何も気にする様子がない。
商人たちに、遠慮することなく食べられると思って嬉しそうだ。
そんな事になるはずはないけど。
二人が食べないなんて有り得ない。
「て、言ってるけどどうする?私としては皆の意見も聞きたいし、せっかく作ったから食べてほしいと思ってるの?どうかな?無理にとは言えないけど。」
「「ぜひ、いただきます。」」
「良かったわ。お願いね。」
私は二人に笑いかけると、隊長さんはガックリと肩を落としていた
残念でした。
やっと試食会が始められそうだ。





