回想 商人
コメント、誤字報告ありがとうございます。
とても嬉しいです
今回は商人が中心です
私からしたら長い文章になってしまいました。
少し長いですが良かったら読んでください
私は目の前の人たちが振り返ったタイミングで更に声を上げる。
「どうぞご覧ください。外国から仕入れた商品です。」
「何に使うの?」
興味を惹かれたのか主婦らしき女性と、外回りの途中らしい男性が覗き込んでいる。私はその二人以外にも聞こえるように大きな声をあげた。
「新しい調味料ですよ。今までとは違う新しい味で優しい味になるので癖になることは保証します。少しお時間はありますか? 口でお話しするより見てもらって、お試しに食べてみてください。今から作るところを見て頂ければ使い方もわかりますよ。」
「今からここで作るの?」
「その鍋で作るのか?」
女性と男性は確認するように鍋を覗き込み、横の食材を見ている。
「そうなんですよ。今からこの食材でスープを作ります。出来上がった物をこの場で食べていただこうと思います。そうお時間はとらせませんので、よろしければ」
私は二人に話しかけるようにしながら、後ろの方で興味深そうに聞いている人たちにもわかるように話していた。
この方法は姫様からアドバイスをされていたことだ。
誰にでもわかりやすいように話すことが必要だと…
気にしているようなら積極的に話し掛けるようにと。
「さあ、後ろの皆様もお時間はありませんか?よろしければご覧ください。」
私はそういいながら鍋の準備を始めている。
ここからは一つ一つ手順を説明するように言われている。
見れば分かることでも逐一説明するように念を押されていた。見れば分かることでも話す事によって会話の切っ掛けと、丁寧さを表すことが出来るのだそうだ。
始めは半信半疑だったが姫様や店長と練習することによって、言われていることが実感できるようになっていった。そして私が話していると質問がしやすいと店長が言っていた。その事で私も思い出したのだ。姫様が話していると私も途中で疑問を確認しやすかった事を・・・
「鍋が温まったら肉と野菜を入れていきます。よく炒めてくださいね」
鍋から良い匂いが漂っている。それに釣られたのか人垣が出来はじめている。
人垣を確認しながら私は次の行程へ
「具材に火が通ったら水を入れるんですが、皆さんをお待たせできないので、お湯を入れます。ご自宅では水で大丈夫なのでご安心ください。」
私の説明に観客から笑い声が出る。
「おいしくないと買わないよ」
後ろの方から野次が上がる。私はその声に安堵と嬉しさを感じる。私の説明を観客が聞いている証拠なのだ。
「わかりました。出来上がりましたら、ぜひ感想を聞かせてください」
ここで『買って』と言うのは禁止事項だと姫様に注意されている。売り付けているように聞こえるのだそうだ。
入れたのはお湯なのですぐに沸騰する。それを確認すると灰汁を取りながら行程を続ける。
「さあ、ここまで来ましたらこの商品の出番です。」
私は後ろの人たちまでよく見えるように味噌を掲げる。
「お~」
ちょっとした歓声が聞こえる。私は自然と口元が緩んで来るのが感じられた、これは行けるだろう。手応えを感じながら味噌を鍋の中に溶かしていく。
「このようにお玉の上で味噌を溶かしながら鍋に溶かしていきます。少しずつ鍋の中に溶かすと色が付いていきますので味を確認しながら溶かしてくださいね。多くなりすぎると塩味が強くなってしまいます。私も練習中に何回か失敗してしまいました。」
「これは失敗しないでくれよ」
始めから見てくれている男性から合の手が入る。その声に他の人たちが
「頼んだぞ」
と励ましてくれる。その声に頷きながら打開策を開示しておく。
「ご安心ください。失敗したらお湯を足すといい感じになります。基本はスープなので同じ要領になります」
『なるほど』と思ってくれたのか多くの人が頷いてくれている。
「皆様、お待たせしました。味噌スープが出来上がりました。さあ、ご賞味ください」
出来上がった豚汁を小さなカップに入れて配っていく。前の人から配っていると『早くくれ』と言わんばかりにあちこちから手が出てくる。その人たちにも配りながら感想の声が上がるのを待つ。
ここが1番の注意事項だと何回も言われた。『買って』というのではなく『買いたい』と言うまで待つ必要がある、と何回も言われているのだ。私は笑顔をキープしながら声が上がるのを待つ。
本当ならほんの数分なのだろうが、待ちの姿勢の私には数時間に感じていた。
『まだなのか』と思っていたら
「これいくらなの?」
私は店にとっての『分岐点』に勝った事を確信した。
「商品はこちらになります。商品は3種類あります。」
横のテーブルに置いてある商品を見せる。
1 味噌だけ
2 味噌とレシピのセット
3 味噌とレシピ 切った野菜のセット
種類別に説明していると横から後ろから覗き込んでいる人達がいた。
姫様は野菜セットの事をミールキット、と言っていたがなんの事だかわからない。姫様の国の言葉なのだろうか?
そんなことを思い出しながら値段なども説明していたのだが、野菜セットが売れていく。野菜も付いているので値段も1番高くなっているのだ。にも関わらず次から次に売れていく。
姫様が野菜セットが1番売れるから多く用意しておくように、と言われていたので念のために用意していたのだが、本当に売れていく事に驚いている。
そうしている間に用意していたセットはすべて売れてしまっていた。
残っているのは味噌の単品のみだ。
お客様はまだいたのだが私は売り切れを宣言し、明日も実演販売を行うことを約束した。
明日も3種類用意はするがレシピの紙は多く用意することと、味噌もあるだけ出すことにした。
明日が楽しみで仕方がない。
明日も売り切れる予想ができる。そして、こんな予想は私は外さないのだ。
「しかし、姫様はどんな経験をされてきたのだろうか・・・私以上に先を読む力がある方だ・・」
姫様の事を考えながら明日の用意を店長と相談することにした
「・・・て感じだったんですよ姫様」
私はニコニコしながら実演販売の事を姫様に報告する
疲れたような姫様が私に一言
「ねえ商人。初日に私の事を思い出してくれたのよね?」
「はい」
「だったら、私に味噌を渡さないといけないことも思い出して欲しかったわ」
ぼやくような言い方をされている。
「申し訳ありません。売れるのが楽しくて売り切ることと、次の仕入れの事しか考えてませんでした」
「嘘おっしゃい。売り切れたら私に待って貰うように頼み込むつもりだったんでしょう?」
姫様の確信に満ちた眼が私を軽く睨んで来る
私もばれていることを承知の上で視線を外し
「とんでもありません。そんなことはありませんよ」
「よく言うわ」
姫様の拗ねた声がもう一度聞こえてきた。
『もうしわけありません。姫様』
私は胸の内でお詫びしていた。





