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憂鬱な一日

 私が静かな夜を迎えていた。

 昼間の騒動が嘘のようだ。両親も迎賓館の方へ引き上げていることもあって、あの騒動は白昼夢だったんじゃないか? って思ってしまうほどだ。そんな事はありえないのだが。現実逃避をしたくなる。


 私は自室で今回の騒動を振り返っていた。 正直、戸惑ってもいる。そして言いたい。

 どーしてこうなった?

 今日の予定では、両親と私は殿下の縁談について相談する予定だったのに、隊長さんとの縁談が出てくるなんて。想像していなかったし驚き以外の何物でもなかった。それは両親も同様だと思っている。

 なぜ隊長さんとの縁談が出てきたのか? 疑問で仕方がないが、それと同時に父の反応も気になる。

 婚約の話、殿下の時は私の気持に賛同し否定的だったのに隊長さんの時はそうでもない。どちらかと言うと賛成な様子だ。なぜなのか。そして、どうしようか?

 両親は特に父は隊長さんとの縁談を進めたいようだ。



 国政を担う者にとっての縁談とは、国力安定・防衛のためなど政略的な理由が大きいだろう。本来なら、そこに私の意思は関係ない。命じられるだけの話。殿下との婚約に意見が言えたのは、今までの私の努力に対する評価でしかないのだろうと思う。そうすると私が拒否を示さない隊長さんとの縁談は進める、というのは既定路線となるのだろう。

 それに国力も大きく関わってくると思う。殿下と私の国では国として力の差が大きすぎる。今後の生活で気後れする部分も大きかったり、結婚生活そのものが上手くいかなければ私の隔離や、下手をすれば幽閉とかもあり得る。そうなったとき、今の国力差では何も意義を唱えることはできないだろう。仮に唱えた所でスルーされるのが容易に想像できる。その可能性は否めない。

 だが、隊長さんの公爵家だったら多少は変わってくる。大きさではそう変わらないし、嫁いだ後も気後れする部分は少ないだろうし口を挟むことも可能だろう。父はそう踏んでいると思う。勝手な想像だけど。そうなれば、断る理由はどこにもない、という結論なるのだろうと想像はつく。

 こうなると私は口を挟めない。



 今、私は一人だ。誰に遠慮することもない。思い切りため息が溢れる。

 このまま話が進めば、私の目標であるスローライフはどうなるだろうか? 考えるまでもない。スローライフとは程遠い生活となり、仕事に忙殺されるのは目に見えている。というか表立って仕事をしなくても情報収集、という名の諸々をしなくてはいけなくなるだろう。そんな器用なことなどできない自信がある。だいたい表情を取り繕うことのできない私が貴族の奥様方のお付き合いなんてできるはずがない。にっこり笑いながら話を聞き出すとか、無理ゲーだ。下手を打って問題を起こす自信がある。

 どうするべきか。今回のことだけでなく離宮に引っ越ししてからの事を思う。今回の問題だけでなく、私は本来の生活目標・目的からそれていると思う。

 どうしてこうなったのか? 疑問でしかない


 本当に、本当に、どうしてこうなった? 私はただただ、自分の生活を楽しみたかっただけなのに。以前のように仕事に忙殺される生活ではなく、ほどよい仕事と趣味の生活を送りたかった。ただそれだけだ。それが悪いのだろうか? 


 今回の婚約が決まれば殿下であっても、隊長さんであってもお后教育とか、身分にふさわしいマナーを、とか言ってお勉強漬けの日々になるのは間違いない。勉強は嫌いじゃないけど強制される勉強は嫌だ。


 私はこの路線からの脱却を考える。

 何か方法はないだろうか? 一瞬、勉強ができない路線で行こうかと思ったが失敗するだろう未来が見える。強化プランが組まれるのは間違いない。

 とうしようか 予定通り自国に帰って病気路路線はどうだろうか? 病気なら誰の責任でもない。そして、その時に気がついた。私が帰国となれば護衛はどうなるのだろうか? 隊長さんたちも来るのだろうか? でも、自国に帰るのに、この国の護衛がつくのは違和感がある。普通は自分たちの護衛だけのはず。でも、ここで更なる懸念が出てくる。婚約の話が出ているなら候補者の護衛は必要、と言い出す可能性がある。あの陛下の事だ。あり得る気がする。それに心配性の隊長さんだ。着いて行く、なんて言い出しかねない。これもあり得る話だ。

 自分の国まで来られたら逃げ切れない気がする。

 


 そんなこんなを考えていると追加でため息が出てくる、それを止められない。

 唯一の救いは、私が今までしてきた事がなんとなく有耶無耶になり、縁談についての話がメインになっている事だろう。

 それはそうなるだろう。以前の話についても気になるところだが、どちらかといえば今後の話のほうが重要になってくるのは当然だと思う。終わったことよりも今からのほうが重要なのは当たり前だ。

 そのためか両親からの追求も、そうしつこいものではなかった。私がしたことの確認と、どこから知ったのか、みたいな事だけで深い追求はなかった。私も想像と図書館で得た知識です、と押し通した。本当は色々疑っているのだろうけど国を揺るがす縁談の方に集中したい、と結論づけたのだと思う。

 それが良かったのか悪かったのか、なんとも判断が別れるところだ。だが、私としては微妙に首の皮1枚で助かったと思っている。

 首の皮一枚で繋がったのは間違いないが、別問題で首が絞められているのも間違いない。殿下だけですむと思った話が、隊長さんの母君の登場でややこしくなったと一言、いや二言三言、声を大にして言いたい。

 どーしてこうなった。私が何をした? いや、色々してるけど悪いことはしていないはずだ。誰にも不利益になることはしてないし。困らせるような事は、少しはしたけど。それでもここまで話が大きくなるような事はしていない、と思う。


 今までの話はおいておいて、これからだ。

 殿下との話が終わる前から隊長さんの話が来ている。母君の独断と聞いているけど。どの道も逃げ切れないぞ、と逃げ道を塞ぐつもりでこの話を言いだしたのだろうか?  母君の考えが理解できない。

 自分の息子には少しでも条件のいい話を持ってくるのが普通だと思う。それなのに、相手が私では旨味は何一つないと思うのだけど。どう考えるべきなのか。この件を隊長さんに相談をするのは間違いだろう。自分の母親が言い出した事を相談される事ほど気まずいことはないと思う。

 両親は隊長さんとの縁談であれば乗り気のようだから両親にも相談できない。本来なら一番の相談相手のはずなのに。まあ私も偉そうだけど隊長さんなら殿下よりはマシだと思うけど、マシであってベストではないと思っている。

 陛下はどうだろうか? 自分の息子を押しのけて甥っ子が出てくるなんて想像もしていないだろう。その事はどう考えているのか。自分の息子を出したのに甥っ子に持っていかれては不愉快じゃなかろうか? 殿下との縁談がだめだったら、という条件はついているが、ほとんど喧嘩を売っているようなものでは? と思ってしまう。それともお姉さんには文句が言えなかったりする関係なのか? あの陛下が? 想像がつかない。

 だめだ。情報が少なすぎて想像の域を出ないし相談相手が思い付かない。自分一人で考えても駄目なら相談する事で新しい手だて浮かんでくると思うんだけど。だれか味方はいないだろうか? せめて一人でも相談できる人か、話を聞いてくれるだけの人でもいればよかったのだけど。正に四面楚歌。背水の陣。話す相手が思いつかない。

 だけど無理だろうな、と思ってしまう。この国で最高責任者とナンバー2、ナンバー3が相手では相談できる人がいないと思うし、下手に意見を言ったことがバレればその人に迷惑がかかると思う。


 思考の渦にハマりきった私は逃げ道がないと感じていた。右にも左にもいけないし。相談する相手もいない。正しく八方ふさがりだ。


 明日は晩餐会だ。今回のものは国賓として正式なものとなる。人数も会場も前回とは比較にならないものだろう。私の貧困な想像力では思いつかないが、とても華やかなものだと思う。その席でどんな話がされるかなんて考えたくもない。おまけに付き合いの狭い私では話す相手も少ないのだ。肩身の狭い思いをするのだろう。いや、両親がいるから二人といれば大丈夫かもしれない。

 予想外の事があって考えつかれた私は違うことに想像力を働かせて気を紛らわせている。

 そうするしか方法がなかったとも言う。

 明日の晩餐会を想像しつつ今後の事が憂鬱でしかない私だったが、最後の想像だけは十中八九的中すると思う。



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― 新着の感想 ―
王女が王族か貴族の妻になるのは普通の事ですよね。 平民との結婚は身分的に不可能でしょうし。 高位貴族の妻が嫌となると、下位貴族の妻になるわ けで。そうなると搾取されるだけの人生が待ってる ような。残り…
隊長さんとの縁談なら、少しはポジティブに考えられたらいいのに、と思うのですが。 どうやら姫様にとっては、問題が倍増しただけの気分なのでしょうか。 何かどんどん思考が袋小路に入って行ってしまっているよう…
迷惑を掛けるとしても、相談できる身近な人となったら筆頭しか…
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