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相談って大事 隊長さんの場合

 私は今日の予定を組み立てていた。今日は母に会って相談をしてから出勤しようと思っている。母に久しぶりに会う理由は相談をしたい事があるからだ。

 理由は明日開かれる晩餐会のためだ。姫様の衣装を再検討しようと思っていた。衣装は姫様と相談した筆頭が決定しているのだが、招待されている面々を考えると少し華やかにしたほうが良いのではないかと思い、母に相談しようと思い立った。本来なら女性であり姫様と相談している筆頭の意見を重要視すべきなことは理解しているが、筆頭の地位を考えると明日の衣装を検討するには力不足のように思える。普段なら問題ないだろうが特別な場であるときは別だろう。筆頭に不愉快な思いをさせるのは理解していたが、飲み込んでもらいたいと考えていた。

 そう思って母に面会を申し込んだのだが。


 「母上。そのお話はどういう事でしょうか?」

 自邸で母に会うと思いもよらない話を聞かされる。

 久しぶりに会う母から聞いた話をどう考えればいいのだろうか? なぜ急にこんな事を言い出すのか?

 姫様ならこう言うだろう。どうしてこうなったのか? と。

 

 姫様と私が婚約するとは考えてもいなかった。


 なぜ、そんな事を思いついたのか。私の疑問を気にする様子もなく、母は朗らかに笑いながら語りだす。

 「難しい話ではありませんよ。姫様が殿下との婚約を望まないのであれば、貴方とのお話を考えてください、とお願いしただけです」

 リビングのソファに座る母は満面の笑みだ。朗らかでもある。その眼前の母は驚くべき内容を世間話のように話をしていた。しかも私にも断りなく言い出した話だと思っていたら陛下にも伝えていないと言う。この話を聞いた陛下はどう思うだろうか? 不快に思われなければいいが。

 母は陛下の姉だという事実があるからなのだろうか、非公式の場では陛下に気軽に話しをしたり提案をしたりする。公式の場でない事がせめてもの救いだと思っている。

 それが良い方向に転がる事もあれば、今回のように思いもかけない話につながる事もあって言葉もない。ヒヤヒヤすることもしばしばだ。今回も婚約と言う国同士の話を、たいした事ではないと言い切る母は何を考えているのだろうか? 姫様の縁談の相手は誰か理解して言っているのだろうか? それとも殿下は自分の甥だから気にしていないのか。

 この話を聞いた殿下もどう思うか。心配だ。


 殿下は姫様に好意を持っているのは間違いない。でなければ、姫様の両親の旅費を負担すると提案しないだろう。それが婚約の申し込みなるとは知らなかったようで、婚約までは考えていなかったようだ。それでも、だ。

 殿下にとって、同年代の女性に好意を感じているのは始めても言っても良いだろう。令嬢にも好意的な様子はあったが姫様に感じているほどの物ではないように思える。勿論殿下に確認していないので推察に過ぎないのだが。

 どちらにしろ、この件については不安しかない。

 

 「母上。縁談が持ち上がっている方に横からそんな話しをするなど何を考えておられるのですか? しかも自国の、殿下との縁談ですよ? 陛下にも許可を取っていないのですよね? 誤解を産むかと」

 「そんな小さな事を気にする陛下ではありません。それに姫様との縁が結べないことのほう問題になると思いますよ」

  今日は母に相談があったのに相談をどころではない。それに、この話については私と母の認識に大きな違いが有るように思える。

 

 「それで、貴方はどうなのですか?」

 「私ですか? どう、とは? なんのことでしょう?」

 「決まっているではないですか。姫様のことです。まあ、貴方の考えはわかりませんが。殿下との話がまとまらなければ貴方との話になりますから、そのつもりでいなさい。貴方にも悪い話ではないでしょう? 姫様の事を悪く思っているわけではないでしょう?」

 「それはもちろんですが」

 「では、問題ありせんね」

 問題ない、そう言い切られるとは。陛下の事も殿下の事も分かっているはずなのに。母は姫様の事を知らないはずなのに、公爵家に迎えたいほど好意的に捉えているのだろうか? 

 「陛下には私の方からお願いしておきますから」

 父を通り越していきなり陛下に話しをするとは。父も気分が悪いし息子の縁談を勝手に決めるのはどうかと思うのだが。

 いや、私の立場上決められた縁談にどうこう言える立場ではない。公爵家の継嗣である以上、私には決められた縁談に口を挟める立場ではない。そこは理解している。そして姫様も同様なはずだ。あの方ほど自分の立場に忠実であると言う方は少ないだろう。それは私も見習うべき部分だ。そう思っている。

 だが、心配な事もある。現公爵家の当主である父はどう考えているだろうか? 本来なら父が決定しなければならない話を母が決定するなど、おかしな話だろう。


 「父上はどう思っておられるのですか? 承知されているのですか?」

 「ええ。もちろんです。貴方の縁談ですよ? 相談して決めています。賛成されていますし歓迎されてもいますよ。姫様の才覚を高く買っておられました。我が家にとっても良い話だと喜んでいました。何よりも貴方が姫様の事を好意的に捉えているので、良い縁だと考えておられるようです」

  父は承知していたようだ。この根回しの良さはどこから来るのだろうか? 母の配慮の良さに困惑しているが母はニコニコと笑顔を崩さない。

 母の中で私と姫様との縁談は決まっているようだ。


 私は母の提案について考えてみる。

 私は一人息子で公爵家の継嗣だ。そのため同年代と楽しく過ごした経験はほとんどない。だからこそ姫様と過ごす時間は楽しかった。妹がいればこんな感じなのだろうかと思い、世話をさせていただいている時間が楽しかったのは事実だ。妹を甘やかすように姫様に色々と提案していたと思うし、姫様と何かをするのも楽しかった。

 姫様は不思議な方だ。子供のような部分もあるが、どちらかといえば私と年齢が変わらないような印象を受ける時もある。話しをしていても子供相手に話をしなければならないような手加減をしたことはない。説明を求められることもない。いつも同等に話しをしていたように思う。もっと言うなら、私の方が姫様に甘やかされているような気がする。料理を一緒にしたり、味見をしてみたいと言ったり。私が演習のときは料理のアドバイスを貰ったりもしている。本来なら自分が仕えている方にそのような相談はしないものだ。それをしてしまう私は姫様に甘えているのだろう。それと同時に姫様も少しは私に気を許してくださっているとは思う。

 感情的になることの少ない姫様が、癇癪を起こしたり泣いたりしている姿を見ているのは私だけだと思う。一番近くに仕えているから、というのもあるとは思うが。少しでも私に気を許してくれているからだと思う。そこまでしなくても、と思うくらい自分を厳しく律している方なのだから。私に気を許してくださる姿に良かった、と思うと同時に安心感も感じている。気を緩める場所になり得ているのだから。

 それを思うと妃殿下となられたら姫様はどうなるだろうか? 筆頭殿は今までと変わらず仕えてくれるだろうが、私は間違いなくお傍を離れる事になるだろう。そうなった時、姫様は感情を表す事のできる者が傍に仕えてくれるだろうか?

 そう思うと不安になってきた。

 姫様は周囲のことを考えて色々と溜め込んでしまわれる方だ。ストレス発散も方法が限られている。外出も周囲に気を使って数えるほどしかした事はない。その事を考えると、妃殿下と成られれば今まで以上に気を使うだろう。それは姫様にとっては良くない事のように思える。


 姫様の事だけを考えると妃殿下になられることは良くないだろう。だが、国のためにはどうだろうか? 私が後ろ盾になる事は問題ないが、殿下のこと以外に何かメリットがあるだろうか? 姫様の国はそう大きくはない。国益を考えるとメリットは大きくないようにも思える。姫様は他国の王族だが、力関係だけを考えると私の公爵家とそう変わらない。その事実だけで行けば国益は少ないようにも思える。


 私にとって姫様は国益関係なく、他家の令嬢達とは大きな違いがある。他の令嬢方と同じにはできない大きなことがある。姫様は公爵家に取り入ろうとするような様子も見られなければ、普通の令嬢たちが望むような対応を求められたこともない。他の令嬢たちは私に取り入ろうと必死だが、姫様にはそんな様子がない。だからこそ、姫様と安心して接することができたのだと思うし、姫様とご一緒している時間に苦痛を感じたことはない。

  殿下との話が流れれば、という条件はつくが、そのときは我が家に姫様を迎えることになりそうだ。


  殿下は、その点をどう思われるのか。陛下は殿下に縁談の打診をしているのだろうか? そう言えば、その点については確認をしていない。陛下や宰相はその予定だし、周囲も何となく察してはいるが、殿下と姫様への正式な話はまだだ。

 殿下自身の気持ちを思うと姫様の事を好意的に捉えている事は間違いない。練習会や家庭菜園造りなどの様子を見ていれば間違いないだろう。表情も柔らかいし、姫様に気を配っている様子が見られている。それと同様に周囲に気を配っている様子も見られた。今まで周囲に気を使う事の出来なかった殿下を考えると大きな成長が見える。これは姫様のお陰だろう。

 だが姫様はどうか。殿下に苦手意識があるようだ。出会いから今までを考えれば無理のない話だと思う。批判的な事を口にする事の少ない姫様が批判的な様子だったし、自分は婚約者つぃて相応しくない、と常々口にされていた。断りたいと言うのが本音だろう。そうなれば母の話も現実的になる。


 正直に言えば、殿下の心情を別にすれば、私にとってこの話は悪くないと思う。姫様は多才な方だ。自分は何もできないと言われるが、出来る事と出来ない事をわきまえておられる。できない事は人を頼るし、出来る事は全力で取り組む方だ。寛容さも厳しさもある。上に立つものとして、どちらも必要なものだ。

 姫様となら公爵家を盛り立てて行けると思う。それに他の候補のお嬢様方と縁組されるくらいなら、姫様とお願いできる方がいい。それは間違いない。


 そう思うと、今回の話は悪い話ではないと思う。

 姫様は、どう思われるだろうか?


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人質生活から始めるスローライフ2
― 新着の感想 ―
面白くてここまで一気読みしてしまいました…!トリオとの関係性や、筆頭や殿下など関わりを経て変化していく様など、描写がリアルで見応えがあります。管理番と同じく、姫様には今後も穏やかに生きて行ければいいな…
隊長さん相手の気持ちを想像して考えすぎちゃう人か…… でも姫様のことめちゃくちゃ大事に考えてくれてるのが分かってそこは良かったです。
前回は姫様の驚きを読めて、今回はさっそくもう一人の当事者である隊長さんの話を読めて嬉しいです。 そして、隊長さんが姫様のことをとても大事に思っているのが、非常に好感が持てました。 恋愛感情ではないにし…
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