今後の方向性?
私の心情はともかくとして、この現状が打破されることはない。
この状況をどうするべきか。婚約話については考えていたが今までの行いの話が出てくるのは予想外だったし、両親にここまで心配されるのも、させてしまったことも予想していなかった。
だが、謝罪合戦だけでは話が進まない。それに細かく聞かれて困る話も多い。
なのでここは逃げの一手。
逃げの一手とは秘技、話を誤魔化す、もしくはすり替える、である。
「お父様。お母様も。わたくしとしては他の話のほうが気にかかって落ち着きません。陛下からのお話はそのことだけでしたか?」
「いや。そうではないが。そう言うからには二の姫には心当たりがあるんだな?」
「多少はございます。お父様はどのような内容でしたか?」
話を誤魔化そうとしたらが逆に聞き返されてしまった。だが、余計なことは言いたくない。やぶ蛇にならないよう父の話から聞きたいと思う。ぜひ。
そう思ってもう一回聞いてみたら、父は案外あっさりと陛下との話の内容を教えてくれた。
「まあ、陛下は今までの事は軽く報告という雰囲気で、後は殿下との話が中心だった。どういうことなんだ?」
「具体的には? どのような?」
「縁談の打診だ」
「そうですか」
ですよね。そうなりますよね。寸分たがわず有言実行な陛下にため息が零れそうだ。
私はどう返答をするか迷っていたが、ここで拒否を表明しないと私の意思は反映されないことに気がついた。ここは努めて軽く嫌だな〜と言ってみることにする。
「お父様、その事なのですが。わたくしには、かなり荷が重いかと」
「嫌なのか?」
「言葉は選んでいただけると」
「だが、務まらないということは、婚姻の意思がないということではないか」
「それはそうなのですが」
父の言い方に言葉が尻すぼみになる。この言い方だと父は婚約に賛成なのだろうか? 以前にこの話が出たときも賛成するだろうなと思っていたけど、その判断は間違っていなかったようだ。
どうしよう。母はどう思っているのだろうか?
「お母様は? どう思われますか?」
「あなたは遠慮したいのよね?」
「はい。できるなら」
私の正面に座っていたはずの母は、いつの間にか私の横へ移動していて肩を抱きながら髪を撫でてくれている。
さすが母。私の意見を聞いてくれるようだ。その母は父に伺うような視線を向けている。父はその視線を受けても気にする様子はなかった。
私の印象だと父は母に弱い印象だ。母の意見に反対を唱えることはないし、なんとなくだが頭が上がらない印象がある。母自身もその事をわかっているのだろうが、だからといって父に無理を言うような事はない。そう思うとおしどり夫婦なのだろう。
そんな父は、いつもなら母の視線に及び腰になるのに今日はどうしたのだろうか? 同意見なのだろうか? それなら及び腰にならないのも頷けるのだが。
私の希望的観測がそう思わせているかもしれない。
父は母の視線はものともせず、私をじっと見つめ確認する。
「どうしても嫌なのか?」
「国の意思ともなれば、わたくしの意見が尊重されないのはわかっております。そこは別にして。個人の意見として言えば遠慮したいというのが本音でしょうか」
中途半端な意見は誤解を生むので直球勝負で答えてみた。ここは公の席ではないし曲がりなりにも身内だけだ。本音でも良いだろうと思う。
父は私の言葉にいちいち頷きながら腕を組む。直接的な否定の言葉はなかった。
私の意見に賛成してくれるのだろうか?
不安が表情に現れているのか、心配しなくても良いと父は言う。どういう意味だ?
父はもう一度繰り返した。
「心配ない、遠慮したいのだろう?」
と、もう一度繰り返した。
「そうか。二の姫。今まで大変だっただろう? 帰ろうか」
「はい?」
帰ろうか? どういう意味だ?
「お父様。帰ろうとは?」
「国へ帰ろう。ここにいると無理やり結婚させられそうだ。そこまで話が進めば拒否はできん。悲しいが、それだけの力は私にはないからな。だったらその前に帰ったほうがよいだろう」
「ですが、わたくしは恭順の意思を示すために来ました。その辺は? 問題ないのですか?」
結婚したくないのは間違いないが帰ることについては考えてもいなかった。ていうか、私帰ってもいいの? 大丈夫なの? それが正直な気持ちだ。
「そこだが、婚約話を利用させてもらおうと思う」
利用? 縁談の打診を?
なんのこっちゃ? 思いもよらない話にこの先の考えが及ばない。父の考えが知りたくて視線で先をお願いしてしまった。
だが、内容は思ったほど大変な話ではなく【今まで離れて暮らしていたから結婚するまでは一緒に暮らしたい】そう言って帰るつもりのようだ。
だが、そうなると結婚はしないといけなくなる。その辺はどうする気なのかと思ったらごく普通の理由を使う気らしい。【体調を崩して無理だ】と言うことにするらしい。
要は帰ってしまえばどうにかなるだろう、という行き当たりばったりの考えだった。さすが私の親。この行き当たりばったりっぷり。偶然なのか何なのか、考えが似通った人の元に生まれるのだろうか。
私と同様の考えを持っていた。
普段なら危ない橋を渡るのは反対で、石橋を叩きたいのだが今回に限っては賛成だ。
トリオや筆頭。ダンス会のメンバーと離れるのは寂しい気持ちはある。気持ちはあるが、帰れるものなら一度帰って落ち着きたい、それと同時に婚約話も回避したい、という気持ちがあるのも本音だ。ついでにその間に殿下にはお似合いの方と婚約してほしい。と図々しい事も考えている。
両親ともに私の意見を尊重してくれると言うし、ここはお願いしてしまおうか。
「お父様。お願いしても?」
「勿論だ。任せておけ」
父は力強く請け負ってくれた。
ここは父の交渉力を信じよう。母ではなくてよいのか? と思わなくもないがやってだめだったら、そのときに考えればよいのだ。
上手くいく、と願いたい。





