隊長の憂い
いつも読んでいただいてありがとうございます。
今回は話の流れの関係で少し短いです。
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殿下が急にいなくなってしまったダンスの練習会。その場にいた全員は殿下の行動に疑問を持っていたものの追いかけることも追及する事もできず、残りのメニューをこなして解散となった。
練習会に参加していた隊長は大きな不安を持っていた。
端的に言えば殿下が何かをしてしまうのではないかという不安だ。その場で殿下を追いかければ良かったのだろうが、今回は警護を兼ねて練習会に参加していたため姫様を放り出す事も出来ず、追いかけるわけにはいかなかったのだ。
隊長は終業後、殿下へ事情を聞こうか検討していたら宰相から呼び出され、考えもしなかった事を聞かされる。
【殿下が姫様のご両親が来られる際の旅費を負担する】
殿下からの提案だと教えられた。
その情報をもたらされた隊長は眩暈にも似た感覚に襲われる。
殿下の若さがさせた単なる思いつきなのか。それとも純粋に姫様を思ってしたことなのか。まさかとは思うが殿下自身も姫様との婚約を望んでいるのだろうか? 隊長には判断がつかなかった。このありえない提案を聞かされた隊長は、この件について判断をつけかねている。
殿下は婚約に関する慣例を承知しているのだろうか? 慣例については話をしなかったような気がする。他の誰かに聞いていたのだろうか? あらゆる推察が浮かんでは消えていく。
隊長は自分のこれからの行動に判断をつけかねていた。
宰相からは【今後を見守り殿下の手助けをしてほしい】と頼まれるが、隊長としては姫様の事も気にかかる。本人から婚約に対する考えを聞いているからだ。婚約の結婚の意思がないのにこちらの都合で婚約を押し付けるのは如何なものか、隊長はそう思っていた。
隊長は姫様の護衛を務め始めてから、それなりの時間が経っている。
その間、二人の関係は良好だ。隊長自身も姫様から様々なことを学んでいるし、この国の人間なら隊長に言わないような事を言ってもらえている、教えてもらっているのだ。その諌言は隊長にはありがたい事だった。
この国の人達は隊長自身を見ることはない。隊長の後ろにいる父親と身分・そして跡継ぎという立場を見ているのだ。それは仕方のない事だと隊長は諦めていた。自分の立場はそれだけの物があると理解していたし、誰でも利益がある者にすり寄るものだと、だからこそ自分の立場に甘えてはいけない、常に裏切られる覚悟をしておく必要があると教えられていた。それは友人は作れないものだ、と言われている事と同義である。仕方のないことだと諦めていた頃、姫様に出会ったのだ。
本来なら自分が就くはずではなかった護衛という立場、姫様に起こった事件を考えると信用のできない人間をその立場につけることはできなかった、その理由だけで隊長が選ばれたのだが、その任務は隊長自身にとって僥幸だった。
姫様との信頼関係は悪いものではなかったし、隊長自身も姫様に悪い印象をもってはいない。端的に言えば好ましく思っているのだ。隊長はその関係を壊したいとは思っていない。この関係を続けたいと思っていた。だからこそ姫様の今後を心配しないわけにはいかなかった。殿下の事だけを考えれば良い心情ではなかったのだ。
宰相には申し訳ないが殿下の真意を確認し、姫様の気持ちと立場を確認してから今後の方針を考えようとそう決めていた。





