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悩みのタネ

 学校をサボってまで宰相と面談をしたのに、その日の収穫は惨憺たるものだった。

 情けなくて仕方がない。

 情けない気分を引きずりながら部屋で鬱々としていると筆頭が心配そうに声を掛けてきた。

 筆頭は私が両親に来てもらう事を申し訳ない、と思っているのを知っているので私の気分を和らげようと腐心してくれている。

 今出されている暖かい紅茶も最近城下で流行っているというクッキーも全て筆頭の心遣いだ。

 筆頭の心使いは紅茶だけに留まらない。


 「姫様。やはりご両親様が来られることに気を揉んでいらっしゃるのですか? そのようにご心配されるのなら、ご両親様にお手紙を書かれるのはいかがでしょうか? 少しは気持ちが落ち着かれるのではないでしょうか?」 

「そうね。お父様に書いてみようかしら? こちらに来られる必要はないと」

 私の揺るがない言葉に眉を寄せる筆頭がいる。私の気持ち理解はしているが、それでも両親に来て欲しいと思っている筆頭は控えめにその意見を表明していた。

 「本当にご両親にお会いする気はないのですか? 数年ぶりになるはずです。ご両親も安心されるのでは?」

 「そうね。そうだと思うわ。でも会うメリットよりもデメリットのほうが大きいわ、危ない橋は渡れないのよ」

 「そうですか」

 筆頭は私の返答に落胆したような諦めたような、どちらともつかない言葉をこぼす。その内心は私と両親との再会を望む気持ちにかわりはないようだ。申し訳ないが私としてはその気持ちはなかった。

 筆頭は再会を望むだけだが陛下や宰相は違うようだ。


 宰相との面会で、陛下も宰相も殿下との婚約を考えている様子が見られる。冗談ではない、私は正直にそう思う。

 今後どうなるかは分からないが私は結婚する気はない。

 恋愛結婚なんて贅沢を言う気はない。まして国に世話になっている身分だ。そんな立場に生まれてしまった以上、なんらかの形で結婚しなければならないのだろうと覚悟はしている。だが、それは今ではない。父から命じられれば話は別になるだろう。

 だが、他国で、しかもこの年で、学生の身分で将来を決められるのはお断りだ。

 私は断固とした覚悟とともに両親に来る必要はないとの手紙を猛然と書き始めようとしたが、手が止まってしまった。

 そう、私は手紙を書くことのデメリットに気がつく。

 別に手紙が検閲されるわけではない。ただ、今までの慣例として【やましいことはありませんよ】という感じで筆頭に手紙を確認してもらっていた。今回の手紙に関して、筆頭は私の気持ちを知っているので手紙の内容を不審に思わないだろう。そして内容を誰かに言うこともないはずだ。

 だが、陛下たちに内容を尋ねられれば話さないわけにはいかないはずだろう。そのとき筆頭に迷惑がかかる可能性が出る。なぜ、そんな手紙を黙認したのかと。咎められたことを私に話すような筆頭ではない。黙って自分だけが叱責を受けるだろう。それは私の責任と気持ちとしてどうかと思う。

 そう思うと筆が進まなかった。

 どうしよう。私自身だけなら気にはしない。全ては自己責任だ。だが、周囲を巻き込むとなると話は別だ。

 私は固まってしまった。

 

 「どうなさいました?」

 手が止まった私を心配した筆頭が覗き込んでくる。

 まさか、筆頭が咎められる可能性があるので心配だから手紙が書けません、とは言えない。そんな事を言えば筆頭から【心配ありません】という返事がくるのはわかりきった話しだ。

 迂闊なことは言えない。からと言って【楽しみにしています】という手紙も書けない。

 気がついた私は諦めるという選択をする。

 「いいえ。手紙はやめておくわ。どちらにしてもお父様の選択にお任せするわ」

 「よろしいので?」

 「ええ」

 私は簡単に返事をするとお菓子を堪能するという現実逃避に走っていた。

 父が陛下の話を断ってくれる事を望みつつ、来たら来たこの話しを喜ぶんだろうな、と諦めモードになっていた。

 

 私は父が来たときの説得方法を今から用意することにした。

 願わくば、母も一緒に来てくれることを願うしかない。母ならその場で決めるような事はしないと思う。

 と、信じている。




 そう思っていた時期もありました。

 なんてこったい。

 私の両親は揃ってこの国の招待に応じるらしい。いや、母にも来て欲しいと思っていたので喜ぶべきなのだと思う。

 でも、こんなに早く招待に応じると言う返事が来るとは思っていなかった。


 両親が揃って来るという情報は隊長さん情報だ。というか宰相からの伝言らしい。本来なら宰相が来るべきなのだが、自分が来ると時間を使わせるから、という理由で隊長さんに伝言を頼んだらしい。本当かどうかは分からないが、宰相が来ると面倒くさいので丁度良いかと思っている。

 

 両親が来るのは仕方がないと言うか。

 まあ、断れるという選択肢がないので本当に仕方がないと思うのだが、それでも私は言いたい。

 どーしてこうなった?

 私がなにか悪いことでもしたのだろうか? 何もしていないと思っている。

 

 「で、いつ来るの?」

 「2ヶ月後だそうです」

 「意外に直ぐなのね」

 「招待状が届いて、すぐに出られる形かと」

 「そうね、招待だもの。そうなるわよね」

 両親は手紙が届いて内容を確認して返事を書いた後、そのまま準備をして出国、という形になるようだ。

 私は聞いた話に納得感しかなく、頷きながら諦めるというか納得するしかない感じだった。

 

 両親が来るまで後2ヶ月私にできることはなんだろうか?

 往生際が悪いと言われても私はできることを探すしかなかった。

  

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人質生活から始めるスローライフ2
― 新着の感想 ―
[一言] 追記です。 さすがに筆頭さんといえども、姫様が手紙を書くのをやめた理由までは推量できませんよね。理由を知ったなら、その気配りのすごさにまた敬服したりするのでしょうか。 筆頭さんの姫様に対す…
[気になる点] >「で、いつ来るの?」「2ヶ月後だそうです」 ↑ここは姫様と隊長さんの問答ですから、改行が必要なのでは? >「以外に直ぐなのね」 ×以外 〇意外
[良い点] 更新おつかれさまです。コミカライズ楽しかったです終わってしまって悲しいですが姫様の作画等とてもかわいいし毎回更新が楽しみでした [一言] 婚約相手は王子だしそっちと話のすり合わせかな? 断…
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