久々のピンチ到来 ②
いつも読んでいただいてありがとうございます。
今回は姫様がてんぱっております。
そして、うだうだと悩んでいるので思考が右往左往としていています。
姫様の迷走っぷりを楽しんで頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
「陛下。お気持ちは嬉しいのですが、両親は国政に関わっております。その二人をわたくしのために呼ぶのは申しわけありません。わたくしはこちらで良くしていただいていますし、楽しく過ごさせて頂いています。元気でいると手紙にも書いていますので、心配はしていないかと」
ソファに座っている私は姿勢を正しつつ切実にそして、誠実に両親は来る必要はないと訴えていた、建前のお断りを選択するのが無難だったからだ。
「姫様。そうはおっしゃいますが、親とは子供が心配なもの。長くお会いしていませんし、姫様に一度国元へ帰っていただくわけにはいきませんので、ご両親に来てただく方がスムーズかと」
「大丈夫ですよ。心配はしていないと思います。お気遣いいただいていてありがたいと思いますが手紙も頻繁に送っていますし」
「いえいえ、そうは言っても」
宰相はにこにこ顔で合いの手を入れてくる。私と宰相とコントの様な押し問答をしていた。その間も宰相の笑顔は揺るがないし意見が覆る事はなかった。それが今後の不吉さを象徴している様だった。今後が不安で仕方がない。
しかし、宰相の反応はどうした事だろうか?
陛下の前で直接言及するわけにはいかないけど、私の記憶が間違っていなければ殿下との婚約話はお互いに賛成しないという事でまとまっていたはずだ。それなのに私の両親を招くという。
私の国がいくら小さくても父には国王という名前がついている以上、国賓扱いになるはずだ。いくら陛下でも宰相の反対があっては招くこともできないはず。それでも招待するということは宰相も賛成しているということ。そして陛下の突然の発言癖を考えると何を言い出すかわからない。
その事に気が付いたとき背筋が寒くなった。つまり陛下は婚約話を蒸し返す可能性も考えられるのだ。その危険性を考えない宰相ではないだろう。ということは宰相も私の婚約話を承認したとも考えられる。
恐ろしいことだ。
宰相の心境の変化は何なのだろうか?
あの時の話は宰相と明確な契約をしたわけではない。何となく口約束でこの話には乗らない、と決めただけだ。
宰相にどんな心境の変化があったのか? 理由はわからない。
けど、宰相よ。貴方に言いたい。
【裏切者。お前もか】と。言ってもバチは当たらないはずだ。
ここまで来ると、私はどうにかしてこのプレゼント話をなかった事にしなければならない。
できるだろうか。
私は自分のために代替え案を考える。できることはなんでもやっておこう。
やらずに悔やむことほどバカバカしいことはない。
それに私に対して【国に帰ってもらうわけにはいかない】そう明言した。つまりは私の人質生活は絶賛継続されるという事。
そこは覚悟していたので問題はない。だからこそ両親は来なくていいのだし。
高校生じゃあるまいし保護者面談なんて必要ないのだ。
それに呼ばれては困る理由がもう一つある。
陛下が突然に何を言い出すか分からないところだ。これには用心して対応しないといけない。
横領問題のとき、陛下の真意はわからないけど殿下の婚約者にって突然言い出していた過去を忘れたわけではない。そこを思うと両親を前に陛下の番狂わせは充分に考えられる。
今の宰相の考えは分からないけど、私は宰相との合意があったし見習いくんの一件で話は流れたと思っている。それに婚約話は正式な形を取っていなかった。だからこそ【流れましたよ】という明言もない。何となくこんな事があったから相応しくないよね。という空気を作っただけだ。
それで問題なかったと思っていたけど、こうなったら私にも今後の予想は付かない。だからこそ蒸し返されたら私には打つ手がなくなる。
君子危うきに近寄らず、を実行したいと思う。
私の断ると言う選択肢は揺るがなかった。
「姫。そこまで両親に来てもらいたくない理由があるのか? 会いたくないのか?」
私の拒否っぷりに喜ぶだろうと思っていた陛下が理由を聞いてきた。
言いにくいことを聞くな。正直にそう思う。どちらかというと、会いたくないわけではないけど、わざわざここに来てまで会う理由がない。というのもあるが、陛下が何をしでかすかがわからないから嫌だというのが本音だ。
というか、危ない橋をわたりたくないから来てほしくない、というのが一番正しい。まさか、その気持を話すわけにもいかないし、陛下が何も企んでいなければ私は単なる自意識過剰なお馬鹿さんなだけになる。
右にも左にも行けない感じになってしまっていた。
【陛下がなにかしでかさないか心配だから来てほしくありません】というわけにもいかないし。 断る方法を考えていると。宰相閣下が言い出した。
「まさか。ご両親と喧嘩でも?」
「いいえ。とんでもない」
私は反抗期の高校生ではない。というか、長年会っていないのに喧嘩が出来るはずもない。何を言ってるのだろうか?
まさか、親との関係性に問題があるのかと聞かれるとは思ってもいなかった。だが二人から見ると両親との再会を頑なに拒んでいるだけに見えるのかもしれない。その事に理解は示すが、それだけだ。私は譲る気はない。私の態度はおかしいだろうが引くわけにもいかないのだ。
私は笑顔をキープしつつ断る方法を考えていた。
陛下から誕生日プレゼントと提案されたのだ。ここで私が断るのではなく他の方がお願いしたいと示した方が良いだろう。いわゆる代案だ。
今回は乗馬をお願いしようと思っていたので、素直に乗馬を習いたいと言ってみよう。
「陛下。両親とは手紙を交換していますので、ご安心ください。できれば、わたくしは乗馬を習う事がお願いできればと思っております」
「そうか姫は乗馬を習いたいと考えているのか?」
「はい。先日出かける機会がありまして。その際に筆頭が乗馬をする姿を見ました。とても素敵でしたので、私もできたらと考えています。許可をいただけますでしょうか?」
「もちろんだ。乗馬は教養の一つだ。講師をつけることとしよう」
陛下はにこやかに許可を出してくれた。教養の一つならば必要だと思ってくれたのだろう。私はホッとした。
これで両親を呼びつけることは避けられそうだ。
だが、私の考えは甘かった。ケーキのように甘かったようだ。
「姫。教養の一つは勉強の一環だ。それはプレゼントには相応しくないだろう。それにさっきも言ったことだが、両親を呼ぶことは問題はないな。まあ、今回は私が決めたことだ。姫の許可は必要ないがな」
決定事項を告げる口調だった。陛下の決定は揺るがないらしい。
どうするか。代案がだめなら、両親に断るように手紙を送るか。いや、それはだめだろう。人質を送らなければならないほど国元の立場は弱い。断るなんて無理だ。やはり私が防波堤にならなければ。
どうしよう。断る方法をどうするか。私が帰ることは遠回しに却下された。乗馬は教養の一環だから駄目。では純粋に欲しいものではどうか?
私の今、欲しいもの。なんだろうか?
ドレスや宝飾品は不要だ。では、なんだろう。教養などの必要なものではなく、なにか私個人で必要なもの。もしくはわがままな対応を必要とするもの。
その時、私は一つ良いことを思いついた。
先日の家庭菜園でみんなと話をしたときに、国政の話になった。主な内容は子供の問題だったが、知らないことが多すぎて困ったこともあった。実習に入るのは最高学年になってからだが、百聞は一見にしかず、みるだけでも勉強になるものだ。
国政や会議の様子を皆で見学させてもらえないだろうか? これはかなりのわがままだと思う。私の国でも執務に関わる場所に関しては立入禁止だった。子供の入る場所ではないということだ。
入れない場所に入れろというのだ、日本にあった人気の工場見学と一緒だ。入れない場所に入れるというのはテンションが上がる。しかも一人ではない。ダンス教室のメンバー全員で行くのだ。コレ、かなりのわがままじゃないだろうか?
プレゼントとしてねだるのはありではないだろうか?
私は良い代案ができたと思い、そのままそのお願いを口にすることにした。
「陛下。わたくしからお願いがございます」
「珍しいな姫からとは」
「はい。わがままなお願いですので、それをプレゼントとして聞いていただくわけにはいきませんでしょうか?」
陛下の微笑は崩れない。統治者の余裕なのだろうか。なんでも言ってみなさいと、先を促された。私のその余裕の態度から願いを聞いてもらえないと判断して望みを口にする。
「はい。わたくしの我儘ですが、ダンスの練習を行っている生徒たちと、執務棟を見学させていただけませんでしょうか? 許されるなら、差し障りのない会議などを見学させていただけると嬉しく思います」
「なるほど。面白い願いだな。それはどちらかというと教育的な内容ではないかな?」
「そうではないかと。知らない場所や、入れない場所に入れる機会はありませんし楽しいことです。陛下の許可がなくては執務棟に入ることや会議の見学などできません。これこそ、プレゼントとしてお願いするに相応しい内容かと思います。お願いできませんでしょうか?」
「ダンス教室といいますと、殿下や令嬢たちと行っている練習会ですか?」
宰相がメンツを確認してくる。私のお願いと言っても無闇矢鱈に誰でも入れるというわけではないだろう。それは当然のことだと思う。だが、練習のメンバーなら問題ないはずだ。
全員が貴族。その中には高位貴族のご令嬢たちもいる。断られる理由はないだろう。
練習会のメンバーでとお願いしたのには理由がある。私だけでは簡単なお願いになりそうだった、というのが一つ。もう一つは、学生はこれから自分の進路を考えなければならない、その参考になると思ったのだ。
見る、ということは自分の見識を深めるものだ。
私にも言えることだが、見識を深める事はどんな小さな事であっても自分のものになる。損をする困ると言う事は何一つないはずだ。
私は見れない場所を見れるかも、という期待感でワクワクしていた。日本人だったころも見学というものが大好きだった。旅行した時も工場見学や基地の見学にわざわざ行っていたものだった。それを思い出すと、このアイデアは悪くないと思う。
やけっぱちで思いついた代案だったが自画自賛で満足感満載だ。私にとっても全員にとってもメリットしかない。
陛下の返事はまだなのに、私はお願いが叶うつもりで身体が前のめりになっていた。私の期待感を感じとれたのか陛下は上がっていた口角を更に上げながら私のお願いを肯定してくれた。
その様子に私も笑顔を返す。どうやら私のやけっぱちの作戦は上手くいったようだ。
「全員という中には、私の愚息も含まれるのかな?」
「今回の件は今から皆様にお話するつもりですので、殿下が同意されればもちろんです」
「そうか」
陛下は私の提案にうなずきつつ宰相の方をみやった。宰相も頷いていたので、この話は滞りなく進みそうだ。
私が満足感に浸っていると、陛下はこれも勉強の一環だから私の誕生日とか関係ないと言ってくる。
「陛下。執務棟は普段は入れない場所ではないでしょうか? そこへ理由もなく学生を入れては誰も彼もと入りたがる事になります。それは問題ではないでしょうか? 入るには理由を必要としませんと」
「姫様。ご心配には及びません。以前から学生の見学を受け入れるべきでは、という話が出ていました。今回はテストということで、姫様とは関係のない話になるかと」
「それに、愚息にもいい影響をもたらすと思うからな、私のほうがありがたい話になるな」
陛下と宰相は見学には好意的な反応だ。むしろ良いことを思いついてくれたと言わんばかりだ。
私の案はいい話だが、思惑とは外れた話になってしまった。
「では姫。両親との再会を楽しみにしていてくれ」
私は頷くしか選択肢がなかった。
陛下は本当に私に会わせるためだけに両親を呼ぶのだろうか? 他に理由はないのだろうか? 殿下との話が思い出される。ここで自分から話を持ち出すことも怖くてできなかった。
不安はあるが否定することもできなかった。
どうやら私は数年ぶりに両親に会うことになるらしい。





