プレゼントって聞いてたんだけど
私は自室で独り言を呟いていた。大声でわめきたいところだが愚痴の中身が人様に言えない以上、小さく呟くしかない。全く持って不健康極まりない事だ。
この現状は偏に陛下が原因だ。そして宰相閣下の裏切りもあった。いや、宰相は私が勝手に仲間認定していただけで宰相の方はそうは思っていないはずだけど、私から見たら充分裏切者、と叫びたい心境なのは間違いない。
私は信じられない、ないわ、どうしてこうなった? を繰り返すしかなかった。
返す返すも忌々しい、昼間のことを振り返る。
発端は陛下に呼び出された事だった。この時期の恒例行事、欲しいものの確認、というかリクエストの確認である。
私が無事でいるかと言う意味の確認もある。これはもうお約束なので私も心の準備があった。だからこそ呼び出されても慌てることなく陛下の元へ出向いたのである。
初めは普通の挨拶から始まった。
今年は念願の乗馬を習いたいな、と思っていたのでそれをお願いするつもりだった。先日のピクニックで隊長さんに馬に乗せてもらったとき楽しかったし、筆頭が颯爽と馬に乗っているのを見ているとかっこいい、と思っていたのだ。羨ましかったし私も乗れるようになりたいと思ったのだ。
その考えもあって今年は乗馬だ、と決めていた。
だが、今年はそうならなかったのだ。
私の意見は通らなかった。
「久しぶりだな、姫。私の時間がなかなか取れなくてな。学校の方はどうかな? 楽しく過ごせているかな?」
「ご無沙汰しております。陛下。お時間を割いていただいてありがとうございます。おかげさまで楽しく過ごさせていただいています」
「そうか、それは何よりだ。息子とも仲良くしてくれている様だな。助かっているよ。普段はどんな話をしているのかな?」
入室と同時にソファへ誘導され陛下の前に座ることになる。
執務室のソファは大きくゆったりとしていた。座面もふかふかで座り心地は抜群。このままお昼寝も出来そうな快適さだ。
私はソファの快適さを味わいながら陛下の質問に頭を悩ませる。
なぜ他人の私に父親が息子の事を尋ねてくるかな? いや、父親だから聞いてくるのか?
「殿下と? ですか? 何を話しているのか? と聞かれましても。普通の話です。難しいことは何も」
「そうなのか? だが、侍従たちに聞いても息子は姫と話すようになってから人が変わったようだと言っていたが。本当に何も話していないのか?」
「はい。本当です。殿下の事を隊長に聞きましたが元々は素直な方だとか。その部分が戻っただけではないかと」
「そうか」
陛下の返事そのものは納得したと言うものなのに、声音は納得できないと言わんばかりの応答をされ、ソファの背もたれに身体を預けることなく私を見ていた。因みに両手は答えを吟味するように組まれ顎の下に当たっている。
私自身は陛下が納得してくれないので困っている。
今年の誕生日プレゼントの希望を聞いていただけるということで陛下に呼び出されたのに、どうして殿下の事をしつこく聞かれているのだろうか?
最近殿下の様子が変わったと、それも劇的な変化で喜ばしいと周囲から陛下に報告があったというのだ。その話は陛下も宰相から聞いていて理由を私に確認したいのだという。
変化があった前後で私と話をしていたので、私が関わっているのではないかと思っているらしい。
そんな訳あるか。と声を大にして言いたい。
たまたまだ。まあ、少しはきっかけになったかもしれないが、そこまでの変化に私は関係ないと思う。侍従さんや隊長さん。令嬢など、殿下に関わった人たちの積み重ねがあったはずで、その最後の刺激になった。私が最後に少し話しをしただけで、本当にたまたまの話で私の手柄ではない。それなのに陛下は私が原因だと思い込んでいる様だ。
この会話はこの一度きりではない、世間話を交えて数回繰り返されている。何なら陛下に向かって言いたい。【あなたは警察関係者か。しつこい】と。
陛下には私も諦めずに同じ話を繰り返して説明しているのだが、どうにも納得してもらえない。
どうしろというのか?
このタイプは自分の納得する話をしないと、頷かないタイプが多い。作り話でもするか? いや、それがバレたときが面倒だし嘘は付けない。
仕方がない、私の話のどこが納得できないか確認しよう。その問題点を一つ一つ潰していくしかない。
しかし、不思議だ。【もてなせ】とは言わないが、私はプレゼントの事を話すために来たのに、プレゼントの話は一ミリも出てこない。こんな事なら来るんじゃなかった。
「陛下。失礼ながら納得していただけないようですが?」
「そうだな。姫の認識が周囲と違っている様だ。自分ではそう思っていなくても周囲はそう思わない事も多いものだ」
「陛下。おっしゃりたい事は理解できます。ですが、その逆もありえるのではないでしょうか? 周囲はそう思っていても実際は違うという事もあります。例えれば、会議の発言もそうです。実際は事前に考えられていて予定の内容の発言だったのに発言した方の物になってしまいます。その人が考え出したように思われるものです。今回もその一つだと思います。殿下は今まで多くの方に支えられていました。それが当然すぎて理解できなかった。その時に私との会話でありがたみを理解する事が出来たのではないでしょうか? 私はたんなるきっかけにすぎません」
「そうか」
陛下はもう一度同じ呟きを繰り返した。今度の呟きは先ほどとは違う呟きだった。今度は少し納得してもらえたようだ。自分の身近にあるたとえ話は納得しやすい物なのだろう。
陛下に納得してもらえた私は少し安心して肩の力を抜くことが出来た。
「姫は相手に理解しやすいように話すのが上手いものだな。だからこそ息子も納得する事が出来たのだろう。相手に合わせて話すという事は簡単なようで難しい」
「ありがとうございます」
私は感謝の言葉を述べる。それ以外に返す言葉が見つからなかったが陛下は気にしていないようだ。私はどう対応すればいいのか分からなかったが、陛下は気にしていないようだ。
どうするか考えていたら、陛下は今日の目的を思い出してくれたようだ。
「姫。今年のプレゼントなのだが、今年はいい事を思い付いてな。それにしようと思っている」
どうやら今年は私に選ぶ権利はないらしい。くれると言うのだから有難い話なのだけど、なんなのだろう? 変なものではないなら良いのだけど。
去年みたいに離宮とか、離宮とか。
でも、決まっているなら私を呼ぶ必要はないんじゃないかな?
まあ、何であっても私に断る権利はないけど。





