BBQからの ②
私が匂いを楽しんでいると隊長さんが興味津々に焼き芋の正体を当ててきたので正解だと答えておく。
「お芋さんを焼いただけでこんなに美味しそうになるんですね」
「そうね。本当にお芋さんは万能食材だと思うわ。でも、隊長さんは食べたことがあるわよね? 試食のときに出したはずだけど?」
「そうでしたでしょうか。私はお芋ご飯を食べることに忙しくて。しかし、万能食材とは本当ですね。主菜にもお菓子にも主食にもなるんですから。この畑でも栽培される予定ですか?」
「もちろんよ。作り方も簡単だし。失敗も少ないし。収穫量も大きいし。飢饉の救世主と言われているのは嘘ではないことを証明してあげるわ」
私は胸を張って宣言していた。別に喧嘩を売られたわけではないけど、私はお芋さんの有益性を証明しようとしていた。
隊長さんも疑っているわけではないだろうけど、隊長さんも疑っていませんよ、と言っていたけど、なんとなく本当だよって言いたかったのである。私はその気なのだ。
焼き芋を隊長さんや管理番に配りながら生徒組にも声をかけ休憩を促す。彼らは私の言葉を聞き考え込んでいたのだ。
「考えるのはいいことだけど、少し休憩をしましょう。頭の栄養は甘いものしかないのよ。少し食べて気分転換をすると良いと思うわ」
「「ありがとうございます」」
令嬢と姪っ子ちゃんがお嬢様の手を引きながら少し小走りに寄ってきて、焼き芋を不思議そうに見ている。特に令嬢とお嬢様は顔を近くに寄せてガン見していた。
「これは焼き芋というの、お芋さんをゆっくりと焼いて火を通したものよ」
「焼いただけなのですか?」
「そうよ。熱いから気をつけてね。甘くて美味しいのよ」
「ありがとうございます」
「熱そうですね」
「これがお芋さん」
お嬢様、令嬢、姪っ子ちゃんのコメントだ。姪っ子ちゃんは管理番からお芋さんの事を聞いていたのだろうか。
本来ならお皿に乗せるべきなのだろうけど、新しい体験をしてほしかった私は直接お芋さんを手渡した。みんなお行儀が悪いかと気にするかと思ったが、意外なことに誰もその言葉を口にしなかった。私から渡されたものに対して【行儀が悪い】と言いにくいのだろう、と気がついたのは配り終えてからだった。
まあ、新しい経験は刺激的だと思うのだ。ぜひ、楽しんでほしい。
「「甘いです」」
喜び勇んで最初の声を上げたのは姪っ子ちゃんとお嬢様で満面の笑みだ。これだけ嬉しそうにしてもらえると私も嬉しくなる。
もっとお食べ。そう言いたくなる。お母さんを通り越しておばあちゃんの気持ちだ。
殿下と令嬢も美味しそうに食べ始めると思いきや、さっきの話に没頭している。令嬢は子どもたちをどうにかしたいと、その思いで頭がいっぱいなのだろう。真摯で真面目な令嬢らしい。
だが、私はどちらかというと殿下の成長に驚いている。全員の意見をまとめたり、話に取りこぼしがないように気をつけたり、誰でも意見を言いやすいように話を振ったりと気を使っていた。
以前、隊長さんが殿下は優しい、真面目だ、といっていた。その時は頷けなかったが、今はその言葉に同意ができる。
もともと教育も受けていたし、自分が行うべき事がわかっていれば行動ができるのだろう。殿下の様子がここまで変われば隊長さんも安心ではないだろうか。
私は隊長さんの方をソッと見る。隊長さんは必死に平常心を装っているが、どことなく機嫌が良さそうに見える。殿下の成長を目の当たりにして嬉しいのは間違いないみたいだ。
私は今日の家庭菜園が概ねうまく行った事に満足していた。
最後の仕上げは、生徒組の課題? 問題? だけだろう。だが、この問題は一朝一夕に解決する問題ではないし、仮に解決策を見つけたとしても、その提案が採用されるかは別問題だ。
何と言っても彼らはまだ学生なのだ。施政に関わる立場ではない。その事に気がついているだろうか? 後輩組はともかく殿下たちは来年から実習にいくのだからわかっているはずだと思いたい。希望的観測は良くないのだが、そう思わずにはいられないのだ。
自分の意見が採用されると思っていて、邪険にされたときのガッカリ感は悲しいものがあると思う。それも社会勉強だと思うけど、最初からつまずくのも、と思ったり私の内面も複雑だ。
お嬢様と姪っ子ちゃんは焼き芋に意識を持っていかれている。可愛い感じだ。次男くんも同様に嬉しそうだ。幸せそうに食べている。
上級生は後々の自分を考えているのか、それとも自分の立場がそうさせているのか。話に終わりがない。仕方ないので私も加わってみようか。
「殿下、令嬢も焼き芋が冷めてしまいますよ」
「あ、申しわけありません。せっかくでしたのに」
「すまない。姫」
「それは良いのですけど。話がまとまらない様子ですね」
私が二人を伺うと、その二人は同時に頷いた。意見はいくつも出てきて却ってまとまらなくなったようだ。殿下がその内容を教えてくれた。二人は【直接的に】と言われた私の話から方法を考えたようだ。
その方法は人を派遣することや、余裕のある家から服や食料を寄付する形や合宿形式で子供を預かることまで考えたらしい。良く言えば発想が柔軟、悪く言えば節操がない、というところだろうか。私としては考え方が柔らかい、できることは何でもやろう、という勢いを感じたというところだろうか。
若いって、いいな、と思ってしまいながら二人の意見を一緒に考えていくことにする。と言いたいがそうなると時間が足りない。盛り上がりすぎて昼食はおやつの時間まで延長している。このままでは夜になりかねない。それはお子様たちの帰宅時間にも関わるので日を改めることを提案したいと思う。
「お二人共。気持ちは理解できますし話をまとめたいと思っているでしょうけど、時間が足りないようです。そろそろお茶の時間になりそうですよ」
「もうそんな時間か?」
「そうなのですか? 気が付きませんでした」
二人はキョロキョロと周囲を見回す。ここには時計を置いていないし、誰も教えないので時間に気が付かなかったのだろう。
「上を見て? 太陽が随分と傾いているわ。時間が過ぎた証拠ね」
私が空を見上げるように行動で示しながら教えると、二人は同時に空を見上げる。お昼を食べたときよりも太陽が移動しているのがわかったようだ。気が付かなかった、と衝撃を受けている様子が見える。それだけ話に夢中だったみたいだ。私は衝撃を受けているところに、悪いな、と思いつつも終了の提案をする。
「そろそろ終わりにして、続きは次回にしませんか? お嬢様や姪っ子ちゃんは遅くなるとご両親も心配でしょうし」
「わたくしの事はお気になさらず」
「わたしも、叔父様が一緒なので」
「二人共、言いたいことはわかるけど、だめよ。離宮に来て帰りが遅くなった、なんて。信用に関わるわ。ご両親も叱りはしないでしょうけど時間を気にしてもらえない、と今後を心配されてしまうわ。私とのお付き合いを考えてしまうと思うの。信用を作るのは大事なことよ」
「「申しわけありません」」
二人がシュンとして謝罪をするので私のほうが焦ってしまう。謝らせたいわけではないのだ。これからも楽しい時間を過ごすために信用を作ったほうが良いと思っているだけで、そこを強調しながら謝罪の必要はないことを伝える。
二人は納得できない様子だが、それ以上の謝罪を口にすることはなかった。
殿下と令嬢も話が尽きない様子だが、遅くなるのは問題だということに理解はあるので、今回はここでお開きになった。締めの焼き芋を食べることは忘れずに。
そうとう気に入ったらしく、全員2本めを食べることは忘れなかった。
今回の話は宿題となり、次回のダンス教室のお茶の時間に少し話すことになった。
少しと言いながらこの手の話が短く終わることはないはずだけど、と思いながら解散となる。
ちなみに、全員が帰ってから、焼きうどんを作らなかったことを思い出した私は、うどんの処理に隊長さんの手を借りたことは言うまでもない。





