家庭菜園の始め方 2
私は全員の仕事を見ながら、意外に真面目にしているな、と思った。
まあ、私と隊長さんのお声掛りだし殿下も真面目に土起こしをしているし、令嬢も真面目に草むしりをしているし、そうなると身分の関係上サボりにくいだろう、というのは想像できる話だ。
もちろん、私も仕事をするけども、休日の朝からお給料もでないのに、これだけの仕事をさせるのは申し訳ない、という言葉しか出てこなかった。
というわけで、せめてものお詫びにみんなのお昼ぐらいは用意したいと思う。
給料も出ない。ご飯も出ないでは申し訳ないし、タダ働き以外の何ものでもない。
私もそこまで薄情な人間にはなれない。
そうなると、お昼を何にしようかと考えた時、悩んでしまう。
この前の外出のように、ランチボックスで普通のお昼でもいいのだが我々は学生だ。普段からランチボックスは使っている。これでは学校と変わりばえがないので面白みがない。
できれば、目新しいものにしたかった。というわけで、思いついたのがBBQだ。
これはなかなかできないし、お外ならではの楽しみだと思う。隊長さんに少し話を聞いたらBBQというか、外で食事をする、ということが習慣的にないようだ。騎士さんたちが野営で外食事をするらしい。それ以外の人は食堂か、家に帰って食事をするようだ。習慣的にないのなら目新しくていいじゃないか、楽しくていいじゃないか。と思ったわけである。
全員タダ働きなのだ。お昼くらいは美味しく楽しいものを用意してあげたい、そう考えている。
今日は午前中から土起こしに草抜きをずっと続けている。太陽はそろそろ頂上に昇ろうとしていた。
お昼にはちょうどよい時間だろう。
私はお昼の準備に取り掛かる、といっても下ごしらえは終わっていて、肉は切ってタレに漬け込んでもいる。味はお手製のなんちゃって味噌ダレと醤油味の2種類だ。当然、野菜も切り終えている。おにぎりも用意してある。これは焼きおにぎりにもできるので、無駄がない。炭火で焼く焼きおにぎりは最高だと思う。
後は麺類で焼きうどんだ。炭水化物が2種類あれば男性陣も満足できるだろう。
甘味も忘れてはいない。本当ならパイナップルがあればよかったのだけど、パイナップルは見つかっていない。かわりにお芋さんとりんごだ。この二つも焼くと甘くて美味しいのでデザートのかわりだ。
量はそれなりにあるので後は焼くだけだ。
習慣がないので当然の如くBBQコンロはない。というわけでお願いして簡易的なものを作ってもらった。
こんな個人的な事をお願いして申し訳なかったが、隊長さんにお願いしたら快く作ってもらえた。渋られるかと思ったら、二つ返事だったのでありがたい。
作る方法は簡単だ。レンガを組み合わせて焼き場を作りその上に網を置いただけの簡単なものだ。作り方を説明した時に隊長さんは不思議そうにしていたし、使用方法を説明して分からなかったようだ。
BBQそのものの文化? がないので仕方がないと思う。そこは実際に見てもらうしかないと感じた。
使えば分かるから、とそのまま作ってもらったのだ。理解できない不思議そうな隊長さんだが、何も言わずそのまま作ってくれたのはありがたいと思っている。
その出来上がったBBQコンロの上に網を置く前に炭を焼かなければならない。
炭を護衛騎士さんたちに持ってきてもらい、焼く準備をする。
そういえば自分の感覚でBBQにしようと思ったけど、男性陣はともかく、女性陣?女子勢はお外でご飯でよかっただろうか?
外での食事については最初は否定的だった筆頭もいる。お嬢様たちにはハードルが高かっただろうか?
まあ、いいか。せっかくここまで準備をしたのだ、今更中止にはできない。というかしたくない。
一番の理由はわたしが食べたかっただけなのだけど、みんなにも気に入ってもらえたら嬉しいと思っている。
私がBBQの準備に勤しんでいると、殿下が私の方へよってきた。
「姫。こちらも力仕事なのではないか? 私が手伝おう」
「力仕事ではありません。少し火を熾すだけなので、ご安心ください」
「何を言う、火を扱う方こそ危ないではないか。私と代わろう」
誰か、このお坊ちゃんをどうにかしてほしい。火をつけたことのない殿下に火熾しができるはずがない。いや、もしかして私が知らないだけで、経験があるのだろうか? 決めつけずに確認しよう。
「殿下。失礼ですが、火熾しの経験が?」
「いや、初めてだ」
もう一度言いたい。だれか、その人のドヤ顔をどうにかしてほしい。どこから、この自分ができる、という自信が出てくるのだろうか? 私のほうが上手だと思う。
「でしたら、問題ありません。私はキッチンで火熾しをしていますので、慣れていますわ」
「姫は自分で火をつけたりするのか?」
「私が自分でしなければ誰もしませんわ」
そう返しながらも、最近は見習いくんが3日に1回は火をつけてもらってるな、と思い出していた。それでも自分ですることの方が多いので、火熾しには自信がある。
というわけで、殿下に退散してもらおう。近くで見ていられるとやりにくい。
「では、私に教えてもらえないか」
「?? 私が火熾しをお教えするのですか?」
「難しいかな?」
殿下の首が斜めに傾ぐ。どうも興味があるようだ。ポメラニアンの尻尾が小さく揺れている幻が見えた。
興味津々、実践したいです。頭の幻の耳と尻尾がそう言っている。
面倒くさい。間違いなく自分で行動したほうが早いので、そうしたいのだが。
幻の尻尾を振りながら「やってみたい」という顔をしている殿下がいるのに、知らない顔をする事はできなかった。
なんで、また今度、そう言えないんだろうか? これが後々面倒を引き起こすのに。
誰にでもいい顔しちゃってるんだよね。自分の八方美人であるという欠点を振り返りつつ、期待に満ちた瞳を無視もできず。
私はやってみます? そう聞く道しか残されていなかった。
私に問いかけられた殿下は嬉しそうに近寄って手を伸ばす。私の手に握られているファイヤースティックが気になっていたようだ。これは私が愛用している物である。火熾しに欠かせない道具なのだ。
「姫。これはどうやって使うのだ?」
ファイヤースティックを手にウキウキした殿下が、問いかけてくる。
殿下に使用方法を懇切丁寧に説明し聞いている殿下は、いちいち頷きながら私のエアーお手本を見ながら、手を真似していた。
何度か練習して自信が出たのか早速、とばかりに実践に移るが、火がつかない。
まあ、初めての事が上手くいくはずもなく、何度も失敗を繰り返しつつ、殿下は頑張っていた。
その頑張りを無視することもできず、途中何度かアドバイスを入れながら殿下は何度もチャレンジをしている。
途中で諦めたら代わろう、そう思いながら殿下の様子を見ていると諦める様子はなかった。
火種ができそうなのに息を強く吹きかけすぎて消してしまったり。火種ができたと思ったら、そのまま大きな薪に直接置いたりと、私からすると、それで火がつくと思ってるのか? と思うけど、知らない殿下からすると仕方のないことだろう。
殿下の性格なら途中で放り出すと思ったのに、トライアンドエラーを繰り返しつつも根性を出していた。
むしろ、私の教え方が悪いような気がしないでもない。
自分が知っている工程は常識だと思い、教える時に飛ばしたりするものだ。それが覚えられない原因だったりもするのだろう。
自分の反省点を踏まえつつも、粘り強く頑張る殿下を見守る形になってしまった。
殿下が耐火レンガの前で座り込み、何かをしていれば気になるものだ。
次男くんや令嬢たちも遠巻きではなく、殿下のすぐ後ろに近づきつつ様子を見守っていた。諦めずにがんばっていた殿下は、何度目のチャレンジだっただろうか、小さな火種ができる。
「優しく息を吹きかけてください。強すぎると火が消えてしまいます」
私の声かけに返事をする余裕もなく、注意深く小さく息を吐く。それで火がつくか、と思ったが繰り返し吹きかけることによって火種ができあがった。
そこからは簡単だった。枯れ草を燃やし小さな木くずから、風穴を作りながら火に薪を乗せていく。失敗を繰り返さないよう確実に火を大きくしていくと順調に大きくなっていった。
殿下はほっと息をついている。
私も同様に息をつく。
ホッとした時に顔をあげ周囲を見ると、隊長さんは一番遠くで私達の様子を見守っていた。口を出すことなく殿下の様子を見ていたのだろう。
殿下は一息吐いていたが、周囲のみんなは火がついたことで喜んでいた。
なんとなく一体感が出来上がっている。
「殿下、火が付きました。すごいです」
「良かったです」
姪っ子ちゃんとお嬢様が喜んでいた。姪っ子ちゃんはピョンピョンと飛び跳ねて喜びを表していた。
私はその様子を見て管理番の反応が心配になって管理番を盗み見る。管理番は何も言わないし、表情も変わらない。でも、これは説教コースの案件では?
私は知っている。お出かけの後、姪っ子ちゃんのマナーが問題でかなりのお説教が待っていたことを。
これが親御さんにバレると、今回もそうなることは間違いないだろう。そんな事になると姪っ子ちゃんと遊べなくなってしまうので、それを回避するべく私は姪っ子ちゃんと同じように喜ぶ事にした。
「すごいわよね。火をつけるのは今日が初めてなんですって」
「一回目でできるようになるなんて、すごいです」
姪っ子ちゃんは私の解説にすごいですを繰り返している。その言葉を聞いた殿下は照れていて、なぜそこで照れる? と思いながら、姪っ子ちゃんの手をとると一緒にピョンピョン飛び跳ねることにした。
子供っぽいな、と思うがやってみると意外に楽しくて、止めるのがもったいなくなってしまった。ここに筆頭がいたら眉を顰められることは間違いない。いないことに感謝をしつつ、楽しくて令嬢と、お嬢様を巻き込むことにした。私が手を取れば、だれも文句は言えまい。したたかな計算を含みつつ、令嬢を巻き込む。
「令嬢も、来て。お嬢様も」
「わたくしもですか?」
「ええ?」
令嬢は戸惑いながら、お嬢様は驚きつつ、一緒に飛び跳ねることにした。
2人はどうしていいのかわからないようだったが、私に手を取られ見様見真似でぴょんぴょん飛び跳ねる。
女の子たちが丸くなって、飛び跳ねているのは周囲から見るとどう見えるのだろうか。この絵面がどうなのか気になったが、頭から追い出すことにした。
楽しければいいのだ。
女の子が4人くすくす笑いながら飛び跳ねている。
男性陣は唖然としていたが、そんな事は知ったことではないのだ。
「火熾しの途中だった」
私は一通りはしゃいで満足するとBBQの準備をしていたことを思いだす。現実に立ち返ると耐火レンガの前、即席BBQ台の前にもどり作業を再開する。
火は綺麗に付いていた。
このまま焼いてもいいのだが、やっぱり炭火の方が美味しいので、炭を入れて火を移す。
生徒組全員は私の後ろに陣取り、一挙手一投足を見ている。
さっきと同じだ。やりにくい。
気まずさを感じながら炭を載せていく。これでしばらくしたら火が移るはずだ。私の後ろでまじまじと見ていた生徒組は不思議そうに聞いてくる。
代表なのか、質問の主は次男くんだ。
「姫様。それは何をされているのですか?」
「炭に火を移しているのです」
「そうすることで、なにか良いことがあるのですか?」
炭火の意味? 焚き火より火が安定する。 何より一番の理由はお肉が美味しくなる。
それだけだけど? なにか問題かな? 私は首をかしげたが、そうだった。
今日のお昼をBBQにすることを説明してなかった。それに彼らは炭火の効果を知らないし、BBQのことも知らないのだ。
私の行動の意味がわからないのは無理もない。





