護衛騎士さんたちのその後 おまけ
今回は、思いつきで書いたものです。
本編とは関係ありません。
外出の後に自分たちだけ食べられなかったら、恨まれるよね。
と思い書いたものです。
暇つぶしに読んで頂けたら嬉しいです。
護衛騎士さん達の休憩時間
俺は午前中の業務を終えて休憩のために控室に入った。
異変は控室に入った時点で感じていた。その日の休憩時間はいつもとは少し違う空気感だったのだ。
なにが、というわけではない。
ただ、いつもと違う感じがするだけだ。
だが、俺はその理由を知っている。
原因は先日の姫様の外出にある。外出と言っても城下に出かけたわけではない。
最近、学校に通学され環境が変化された姫様を気遣って、筆頭様とウチの隊長が話し合って決めた外出だ。
でかけた先は城内なので外出、と呼べるかは疑問だが。だが、人のよい姫様はそれでも喜んでくださって、外出を楽しみにされていたようだ。
その楽しみ具合が分かるのが、姫様が俺たちにまで作ってくださったランチボックスで感じ取れる。
どこのお姫様が護衛の人間にまで食事を作ってくださるというのか。気にかけてくださる方でも料理人に命じるくらいだろう。それでも嬉しいくらいの気遣いだ。
それなのに、姫様は自分で作ってくださったのだ。
作ってくださったランチボックスは大きいものが二つ。その量を見れば俺たちの人数が多いことを気にしてくださったのはよく分かる。そのお気持ちだけで十分嬉しいのだが、俺たちには死活問題だった。俺たちが食べる量を考えると足りるかな? という量だ。
仕事上、俺たちの食事量は人よりも多いだろう。隊長は残すなよ、という副音声の命令があったが、残すよりも足りない方を気にする方が正しいと思う。
それでも料理は美味しかったし、携帯食もあるので俺たちは腹いっぱい食べて休憩を満喫させていただいた。
本来ならありえないことである。
だが、俺たちの本当の死活問題は仕事終了後に待っていた。
そう、今日出勤ではない連中にこの、お昼事件がバレたら大変な事になるのは間違いない。
姫様の料理は護衛部隊の中で知らないものはない、いつかは食べてみたいランキングに入っている。
いつだったか、姫様のクッキーを頂いたやつがいるのではないか? という疑惑が上がったときも、ちょっとした話題をさらっていった。その時は真偽は不明だったが、今回は人数が人数である。誤魔化すか、話すか悩みどころだ。
食事ぐらいで、と思うかもしれないが。食事が原因で戦争になった事があると、授業で習ったこともある。小さいことだが、バカにはできないのだ。
それに姫様の料理に関しては、人間の欲求には逆らえないし、いつもいい匂いが漂ってくるのだ、それを間近で見続けていると食べてみたい、と思うのは必定だと思っている。
ウチの隊長が時々食べていると聞くと余計にそう思うのも無理はないと思う。
そんな噂の的の料理を口にしたのだ、今日の非番の連中からどう思われるのか、戦々恐々となっても無理はないと思う。
任務の終了後、出勤の連中で話し合う、黙っておくべきかどうか。
だが、人の口に戸は立てられない、という。いつかはバレるのではないか? そんな思いも湧き上がる。
どうするべきか。みんなで話し合った結果。黙っておこう。口にはしない。ということでまとまった。だが、それが悪手だったのだ。
俺は今、それを痛感している。
「どうしたんだ?」
休憩している連中に声をかける。理由は明白だが知らないふりも大事だろう。そう思っていたが、一人が恨みがましい視線で俺の問に答えてきた。
「どうした? じゃないだろう? お前も黙ってるなんて人が悪いな。教えてくれたっていいだろう?」
ここで何の話だ? と聞くのは焚き火に油を入れるようなものだ。知らないふりもだめ。仕方がない。正直なところを言っておこう。
「まあ、気持ちは分かるけど。自慢するのもどうかと思うし、話しても嫌味だろうし。黙ってる方がいいかと思ったんだ。悪かったな」
俺はそう答えるしかなかった。そう、話しても姫様の料理をいただける訳では無いし、自慢みたいになるし。だったら黙っていたほうが良いだろうとなったのだ。
悪気はなかったのだが、気を悪くしたようだ。気持ちは理解できる。俺も同じ立場なら、同じことを言うだろう。
恨みがましい視線を流しつつも、言う意味も理解できるのだろう。それ以上の文句は聞かなかった。だが、これは問題だ。
その日、休日だった人間は出勤した人間に良かったな、と言いつつも表現のしようのない視線を投げかけている。
その日出勤だった連中も一歩間違えれば自分も恨んでいる側の人間だったので、気持ちも理解出来るし、と困っているようだった。
あの日は休日出勤の人間もいた。普段は離宮からでることの少ない姫様なので、通常で予定が組まれていたのだが、急遽の外出だったので休みを振り替えての出勤だった連中もいる。
その連中はラッキーだったな、なんて言われていた。
恨みがましいことこの上ない言葉だろう。なんとなく居心地が悪い。
悪いことをしているわけではないのだが、気持ちの問題だろう。
小さな事だ。しかも、よくある話。仕事のタイミングでラッキーがあるのは本当にタイミングなのだ。だが。積もり積もった憧れ、ではないが、姫様の料理を食べた者と食べていない者が分かれるのは、気持ちの問題上大きな事になるかもしれない。
今は、いいな、で済んでいるが。いつこれが恨みに変わるか。
良くないかもしれない。
俺は周囲の二分される様子を見ながら、小さなことだけど、とも思いつつ、隊長に相談することにした。
「なるほどな。言う意味は分かるし。気持ちも理解できる。少し時間をくれ。よく知らせてくれた」
相談した結果、隊長の返事は簡単なものだった。
簡単なものだが、バカにする様子はなかった。
本当にこの人は高位貴族なのだろうか? と思う瞬間である。この人は本当に俺たちを尊重してくれる。小さな話も聞いてくれる。
これが、他の偉そうな貴族なら、食事くらいで、バカバカしいと話を一蹴されるだろう。
そんな連中が圧倒的に多いのだが、馬鹿にすることなく真面目に聞いて対処してくれるこの人は貴族の親玉、と言っていいくらいの身分だ。だが、俺たちの目線で話をしてくれる。どんな経験でこの考えを身に着けたのだろう。
そういえば、姫様もそうだ。いつだってオレたちのことを気にしてくれる。寒いだろう。お腹が空くだろう。雨が降れば大変だ。直接お言葉をいただくことはないが、心配そうな視線や、隊長から漏れ伝わって来る話でその事はわかっている。
今回のランチボックスだって、姫様からは理由を直接聞いたわけではない、ただの好意として渡されただけだけど、いつもありがとう、という気持ちは感じていた。
その姫様のご厚意で問題が起きては姫様も気にされるだろう。そういう事にはなりたくないと思う。
あの姫様にあの隊長、案外考えは似ているのかもしれない。
どんな小さな話でも聞いてくれるのだ。どうしてそうなのか、一度理由を聞いてみたい気がするけど、怖いから聞けなかったりもする。
まあ、隊長が考えてくれると言ったのだ。後は任せれば心配ないだろう。俺はそう思っていた。
そして、それは間違っていなかったし、思いもよらない方向から対処された。
翌週、外出の日に休みだった連中に小さな紙袋が渡された。
なんだろうと思っていたら姫様からだという。
「これは姫様からのお心遣いだ。感謝するように」
その一言だった。理由も経緯も説明はない。
だが、休みだった連中にだけ渡されたので、まあ、理由は推して知るべし、だろう。
しかし、作ってくださる姫様もすごいが、それをお願いする隊長もすごいな。
普通ならお願いできないことだし、作ってもくださらないだろう。
当然俺は貰えなかったが、休みの連中が喜んでいたので良かったと思う。
これで隊内が二分することはないだろう。
隊長の下で働けてよかったと思う。