気分転換って大事だよね 2
外出先は庭園の奥の方という事だったので、ピクニック気分になっていた。その思いも相まって、せっかくなのでお外でご飯を食べようと思いついた。
この話を聞いた筆頭は難色を示した。
お外で食事なんて、という感じ。でも、そこを私が押し切った。試しもしないで決めるのはどうか、と説得したのだ。
試して嫌だったら次から方法を変えよう、と難色を示す筆頭を押し切ったのだ。
なので今回はピクニックだ。私は楽しみで朝からお弁当を作っている。
お弁当といえば、卵焼きに唐揚げ、おにぎりは鉄板だろう。おにぎりの具は悩んだが、シャケフレークはないので、塩むすびとコマ切れステーキを入れた物を2種類作った。甘辛で焼いたお肉を入れればボリューム満点で美味しいと思うし、お腹も満足するだろう。他にもチキンライスを炊いておにぎりにしている。のりの代わりに卵で巻いたものだ。これでおにぎりは3種類になった。
サンドイッチの方は私の定番、ジャーマンポテトもどきの卵とじを作った。この作り方は簡単だ。
なんでも良い、自分の好きな野菜を炒める。今回はべーコン、玉ねぎ、ピーマン、キャベツ、じゃがいもだ。これを良く炒め、塩コショウを少し強めに振る。そしてたっぷり目の卵で綴じるのだ。すぐに食べるのなら半熟卵で綴じても良いのだが、今日は時間が空くのでしっかりと焼いてある。半熟だと、お弁当箱の中で水分が出て衛生面でも不安があるし、ベチャベチャすると美味しさが半減してしまうので要注意だ。
野菜サンドも忘れてはいけない。筆頭もいるので野菜の需要は高いと思う。というか、私が食べたい。
というわけでトマトとレタス。チーズで作る普通の野菜サンドも作った。おかずはおにぎりと共有で問題ないと思う。
他にはなにが良いだろう。
保冷庫を覗きながらおかずを考える。やはり日本人の魂があるせいか、魚が食べたい。
魚を焼こう。そしておにぎりと食べよう。私はそう思うと鮭がないことを残念に思いながら白身魚を焼く。煮付けだと汁が溢れるから焼く一択だよね。とお弁当事情も考慮する。
白身ならフライにしてもよいのだが、唐揚げがあるので揚げ物ばかりも良くないと思っての判断だ。
本当はカツサンドかコロッケサンドも作りたいと思ったのだが、そこまで作る時間がないと思ったので諦めた形だ。それにコロッケとなると厨房の協力を仰がないといけない。自分の楽しみのために厨房の手を煩わせるのは気が引けたという側面もある。というわけでサンドイッチは2種類のみだ。だが、魚を焼いた私はポークステーキかチキンステーキを作るのも悪くはないのでは? と思い初めている。思いつくと作りたくなるのは人の性だ。
私は思いついた事を良いことにポークステーキを作ることにした。
一般的な作り方は知らないが私流の作り方をする。これはポークステーキじゃないと言われても、ここには正確な作り方を知る人がいないので問題ない。私が食べたくて作るので私が美味しければそれで良いのだ。
ついでに他の人も美味しいと言ってくれればさらに満足だ。
言い訳を胸のうちで垂れ流しながらポークステーキを作り始める。
一枚に切ってある豚肉に塩コショウを振る。そして片栗粉を薄く振る。人にもよるだろうが、こうした方がソースがよく絡むので好きなのだ。
焼いている間に玉ねぎをすりおろし、ソースの準備をする。本来ならたっぷりかけるのだろうが。かけるとお弁当箱の中がグチャグチャになるので別の容器に入れて食べる直前にかける形にする。
焼き上がったポークステーキも食べやすいサイズにカット。この食べやすいは私基準なので他の人にとっては、やや小さめのサイズになる。そこは理解を求めることにしよう。というかそのことに文句を言う人は少ないと思っている。
私が外出に備えて一生懸命お弁当を作っていると様子を見に来た筆頭が驚いていた。
私がお弁当を作る宣言をしていたのだが、まさかこれほどとは思っていなかったのだろう。
筆頭が思っているよりも量が多い理由は簡単だ。
当然だろう。私達の分はもちろん、それ以外にも騎士さんたちの分も用意したのだ。私達がお昼を食べる間に彼らもお腹が空いては申し訳ないので作った形だ。
同行の騎士さんたちにも、お弁当はあるのだろうけどお裾分けくらいは作ってあげたいと思ったのだ。
車寄せで私が大量に作ったお弁当を護衛騎士さんたちが持ってくれている。初めは私が自分で持って行こうとしたのだが、流石に量が多くて重いので持ってもらったのだ。ちなみに護衛騎士さんたちの分があるのはまだ内緒だ。初めに話をすると「必要ない」と言って置いて行かれては作った意味がないので、その場で伝えようと思っている。持って行ってしまえば撤回もできないので丁度良いと思ったのだ。
そんなこんなで大荷物を持っての出発なのだが、私は楽しみにしていた馬に乗る。だが、いざその場になると尻込みをしていた。馬の大きさもあるが初めての経験なので緊張しているとも言う。
本当に乗って大丈夫だろうか。私が乗って重たいとかで嫌がられないだろうか? 心配になる。
私がなかなか馬に近づこうとしないので隊長さんが心配して私をのぞき込む。私はそれを良い事に真剣に隊長さんに聞いてみた。
「どうなさいました? 姫様?」
「私が乗っても本当に大丈夫? 嫌がられない? 重いとかで負担にならないかしら?」
「馬がですか? そんなことを心配されているのですか? 大丈夫ですよ?」
「でも、二人で乗るのでしょう? 大丈夫? 重くないかな?」
踏ん切りがつかない私はグズグズしてしまう。隊長さんは尻込みをしている私が珍しいのか、驚いたのか目を丸くしながらも問題ないことを強調してくれている。
「訓練で鎧を着て乗ることもあります。相乗りも珍しくありません。心配には及びませんよ」
「本当に? お馬さんは嫌がらない?」
「ご安心ください」
隊長さんが請け負ってくれたので私はやっと覚悟できた。
そして乗ろうとしたのだが。馬の高さがあるので当然の如く普通に乗ることはできない、ということで踏み台が用意される。
隊長さんが乗った後、踏み台に乗った私を自分の前に座らせてくれた。よく漫画で見る横座りだ。
映画や漫画のように抱き上げて相乗りをするシーンを思い浮かべたが、実際はそうはいかないようだ。
私は都合の良い妄想に笑いながら恐る恐るお馬さんを撫で、周囲を見回す。
馬に乗って驚いたのはその高さだ。
馬の背が私の身長よりも高いので、乗ったときは当然目線も高くなる。今の私の身長は低いが、以前の身長もそんなに高くはなかった。そうなると今の高さは私の人生経験上、初めての高さだ。
正直この高さが怖かった。馬に乗るときは背筋を伸ばして、なんて本やテレビで見たことがあるけど、そんな余裕はない。
馬に乗って見たかったけど、こんなに高いんだと怖さが先に立って落ち着かない。馬に乗っていることを楽しむ余裕はなかった。私はビクビクしながら掴まる場所を探す。
どこを捕まればよいか分からず手が彷徨っていると、私の様子を見ていた隊長さんは笑いながら自分に掴まるように言ってきた。
「落ちると危ないので、私に掴まってください。落としたりしませんからご安心ください」
「落ちたりしない?」
「はい。お任せください」
私は国内女子の憧れであろう隊長さんと相乗りと言う状態におののきながら、これまた隊長さんに憧れている女子にバレたら刺されるのではないか、と思いつつ隊長さんに掴まる。
隊長さんは私が掴まったのを確認してから出発の合図を全員に行い、馬を走らせた。
隊長さんのすぐ後ろを筆頭が、さらに全体を囲むように馬が数騎走る。客観的に見るとかなりの数の馬が走り大きな音が響く。私はその音に驚かざるを得ない。
昔、競馬場に行ったことがあるが、あのときも大きな音だと思ったけど、その時よりもさらに大きく感じる。距離が近いからだと思う。
競馬場では距離があったけど、ここは音のど真ん中にいるので響くのは当然だと思う。
私は距離が違う事での驚きがある事を実感しながら、隊長さんの制服の端をギュッと掴む。私の不安を感じたのか隊長さんが心配ないと背中を軽くポンポンとしてくれた。子供を宥めるときに行うような感じのやつだ。当然といえば当然だけどお子様扱い100%間違いなしだ。
私は隊長さんの行動に余裕を感じる。こんな余裕があるのなら大丈夫だろう。落とされたりしないのだとホッとした。そうなると周囲を見回す余裕ができる。
筆頭は宣言していたように颯爽と馬を走らせていた。楽しむ程度と言っていたのは、本人としては遊ぶ程度に嗜んでいる、という事で自慢できる程でもない、とないと言う事なのだろうが、それでも私からすると本職の騎士さんたちと変わらず走らせているのですごいと思う。まあ、私は人に乗せてもらう事しかできないので、羨ましいと思っているのもあるけど。
騎士さんたちも余裕の表情で馬に乗っている。初めは速いと思っていたこのスピードも他の人たちからすると、たいしたことではないのだろう。
こんな速さで走らせていたらあっという間に着いてしまうのではないだろうか?
それならそれで問題はないけど、ゆっくり行って景色を楽しみたいと思うのは私の我儘なのだろうか?