陛下の感慨
コミカライズ2巻発売記念
皆様のおかげで、コミカライズ2巻が発売されました。
とても嬉しい事です。
ありがとうございます。
最近、陛下の出番が少なく、せっかくなので陛下の胸の内を覗いて頂けたらと思います。
評判の悪い陛下ですが、やっぱりお父さんなんだな、と思っていただけたら嬉しいです。
まあ最後は、やっぱり、陛下だな、となるとは思うのですが
これからも、よろしくお願いいたします。
私がこの国を治め、それなりの時間が過ぎた。生まれた息子が、もうすぐ成人になるほどの時間が過ぎているほどだ。最近は周囲の反乱もなく安定した国政を行う事が出来ている。こうして国内が安定していると、次に心配になる事は後継問題も含めて息子の事だ。
私の後を引き継ぐことができるのは息子だけだと思われている。実際には継承権に血縁関係が必要だ、と明言した事は無いので息子である必要はない。
だが、周囲はそう思っていないようだ。
私が明言をしていないので周囲が勝手にそう思っているのは分かっている。そこを利用しているとも言うのだが。宰相はその点に気がついているようだ。それについて私から触れる事はない。恐らくだが宰相も私と同じ考えなのだろう。
勝手に思い込んでいればよい。それで襤褸が出るのならなお良し、そう考えているはずだ。
私の息子は我儘で周囲に気を配る事が出来ず、自分の事しか考えられないような息子だ。
今までの息子は私の息子なのかと心配になるほど何もできない、人の言いなりにしかなれない人間だった。自分の立場を勘違いしているのか傲慢で自分勝手。感情的な部分が多く周囲に迷惑しかかけない人間だった。それだけに問題も多く、これでは私の後を引き継ぐことはできないと考えていた。
確認した事はないが宰相も同じ考えだろう。
この問題の原因が私にもあるのは理解している。妻の事で負い目を感じている私が、息子と向き合う事を避けていた事が原因なのだ。それは分かっている。
これが国の事であれば、先送りする事で問題が大きくなる事がわかり切っているので、それを防ぐために手を打つのだが、私は息子には同様の対応をしてこなかった。負い目がある事も理由の一つだが、息子にはしっかりとした教師陣を付けていた。いつか理解できるだろう、態度も改めるだろうと楽観視していた部分もある。私の考えが甘かったのは間違いない。
国は個人のものではない。国土を守り多くの民の生活を守り、健やかに暮らせるように環境を整える。その責任を果たせる者が、それにふさわしい地位に就くべきなのだ。
私の息子ではその責任を果たす事はできないだろう。
今までも、その点について何度も注意してきたし、指導もしてきたつもりだ。教育係からも同じように指導されているはず。それでも、大きな変化を得る事は出来なかった。
国の事には向き合う事が出来るのに、息子の事には向き合う事が出来ないとは典型的なダメ親だと痛感している。先送りする事が、いかに愚かな事だったか。私は身をもって実感している。
親の役目を放棄したツケが回ってきているのだ。猛省するしかない。
どうするか悩んでいたのだが、最近少しずつ様子が変わってきている様だ。そう報告があった。
侍従の報告では人に会う前は考え込むようになったり、分からなかったり気になる事は侍従に相談するようになったそうだ。
勿論、突然すべての事が出来るようになったわけではない。まだ失敗も多いし以前の我儘な癖も出ている様子もあるようだが、その点に関しては気が付くと後から反省している様子があるし、遠回しに指摘しても怒りだすことなく、真摯に話を聞くようになったとの事だ。
そういった態度の変化が見られると周囲の反応も少しずつ変わってきているらしい。
全員が好意的に見ているわけではないが、それでも努力しないよりは良いだろう。変わる努力に遅いという事はない。
私は息子の変化を歓迎しているが、疑問はあった。
初めの切っ掛けはなんだったのか。気になっていたのだが、その答えは簡単だった。
私の隣にあったのだ。
「そなたが息子を諭してくれたのか?」
「諭したわけではありませんが、お話しさせていただいたのは事実です。ですが、私がお話をさせていただいた時点で殿下自身も思うところがあったようです」
「そうか。では侍従が言っていたように、そなたと話しそののち、姫に諭されたのが大きかったようだな」
「姫様との話からなにか得るものがあったのでしょうか?」
「そのようだ。話し方は丁寧だったが、他の者が言わないような事を遠慮なく言われていたと聞いている。同じ身分の姫だから出来る事だろう」
「そうなのですか」
宰相も驚いている様だ。
今まで息子の周囲には身分を恐れて思い切った事を言う者はいなかったし、傲慢な態度に嫌気が差し問題を指摘する者がいなかったのだ。
だが、その壁を乗り越える者が現れた。その遠慮のない話の内容に自分自身の問題点を実感する事が出来たのだろうか。そのお陰であの息子が少なからず努力をして、変わろうという姿勢を見せる結果に繋がったのだろうか。
どちらにせよ姫が変化の切っ掛けで間違いないだろう。
今までは息子の態度が改まる事はなかった。
注意するたびに小さくなりおどおどして私の顔色をうかがう有様だった。その癖、教育係には反発するばかりだったと聞いている。
学校の方は最高学年になる。その年齢になっても卒業直前になっても態度が変わらないのであれば、修正は望めないだろう。私は息子の成長を諦めようとしていた。
だが、姫が入学した後から。息子が少しずつ変わり始めたのだ。
初めは宰相からの報告だった。息子と少し話をしたと聞いていたのだが、その後は別の者からの報告だ。隊長の仲介で姫と話をしたと聞いていた。
それくらいで、あの息子が変わるとは思えなかったが、少し様子が変わってきているのは間違いなかった。
なにより驚いたのは練習室を使いたいと言い始めた事だろうか。
それも正式な手順を踏み、典礼部に許可を取り部屋を押さえ、その上で私に練習会を定期的に開きたいと許可を求めてきた事だろう。
人を挟むのではなく、手順を踏み私に許可を求めてきた事には驚いた。以前の息子なら侍従に伝言を頼むだけで、自ら動く事などしなかっただろう。
その上、侍従の報告では手順に問題がないか、許可の求め方なども相談してきたと言っていた。息子の変わりように侍従も驚いていたものだ。
慣れない申請書も書き方を習いながら自分で書いていたそうだ。息子の変わりように関わった者たちが驚いていた。
その報告を受けた時、姫と話をしてから自分なりの努力をしていると、周囲を顧みようとしなかった自分を反省している様子だというのだ。
私達がどれだけ話をしても聞く耳を持たなかった息子が、姫と話をしただけで変化が見られたのは驚きでしかない。
今までは私の話し方が悪かったのか、それとも目新しい人物から話をされたから聞く気になったのか、どちらかだと思ったのだが侍従の話ではそうではないようだ。
全てはタイミングではないかと。そう言う声が返ってきた。
宰相から話をされ姫に悪いことをしたと思い、謝罪に行った。その上で相談したらしい。聞く気になった時にタイミングよく話ができたからではないか、そう言っていた。
その側面もあるだろう。だが、それだけではないはずだ。
私にはできなかった事を姫はあっさりしてのけた。
なにかあるのだろう。
これは私があれこれ推測するよりも姫に直接話を聞く方が良いだろう。
折よくもうすぐ姫の誕生日のためにリクエストを聞く時期だ。
それにかこつけて話を聞くのも悪くはないだろう。
姫が息子を諭してくれる事が出来るのなら、あの息子の事を考えてくれるのなら、姫を諦める必要はないのかもしれない。
あの息子では姫の相手にはならないだろうと思っていた。実際、関係性は良くなかった。息子の態度に不快感を覚えていたと聞いてもいた。
だからこそ、姫と息子では良い関係性は築けないと思っていたのだが、不快感を覚えながらも息子の相手をしてくれたのだ。
その上で姫の忠告を聞き、息子の態度が改まるのなら関係性を再構築できるかもしれない。
そうなれば、今後の事を検討する余地はあるかもしれない、
やはりあの姫は面白い。
私にはできない事を、思いつきもしない事をしてのける。
出来る事なら諦めたくないと思い始めている私がいる。
トリオと姪っ子ちゃん成分が不足しています。
突発的に書きたくなるかもしれない。
と思う、今日この頃です。