お友達紹介
今はランチの時間。その席で同級生の女の子二人と対面している。
今日は待ちに待った同級生のお友達を紹介してもらえるはず、だった。
いや、正確には紹介してもらっているので約束は守られているのだろう。私が疑問、というか残念に思っている理由は、同じクラスの女の子がいない点を残念と思うしかなかった。
もう一つはお友達は多ければ良いというわけではないけど、2人しか紹介してもらえないというのはどうだろうか? もう少し人数がいても良いのではないだろうか? もしかして私の変な噂が立って、お相手からお断りされているのだろうか? 若干心配になる。
そんな疑問に支配されている私は、考えても仕方がないので同席しているご令嬢に視線を向ける。令嬢は視線の意味を理解しているのか穏やかな、なだめるような視線を返してきた。
この視線は諦めろ、だろうか? 私はこの席でどう振る舞うべきだろうか? ここで変なことも言えないし。困り切った私は流れに身を任せることにした。
【事なかれ主義】と言われても仕方がない。わからないままに口を開いてこの場を拗らせるよりは、流れに任せて終わってから対応を考える事にする。
私の心情を知っているのか知らないのか、ランチという名の紹介会は始まっている。
前回、お姉さま方の紹介があまりにも仰々しかったので、今回はランチに招待したという形になっていた。それは本当に有難い事だ。
しかし、紹介される二人。私の同級生はカチンコチンに固まっている。無理もない。同席者は年上の令嬢。更に私の身分がある。同級生の中では最上位、いや学校内でも上位に食い込む。私と同等なのは殿下だけだ。そう思うと更に緊張が高まるだろう。
そんなつもりはなかったが申し訳ない事をしている気がする。
「「姫様。よろしくお願いいたします」」
女の子二人が軽く頭を下げる。因みに【軽く】には理由がある。
仰々しくないように、という理由でランチでの紹介なので、すでに全員が席に着いているのだ。全員学生で同じなのだから。という理由で着席してもらっているのだ。着席状態だから軽くしかお辞儀ができない形だ。彼女達は疑問に思っているかもしれないが、それで良いのだ。同級生なのだから。
私はその思いもあり【同級生らしく】という名のもとにいつも通りに振る舞う。
「ええ。こちらこそ、よろしく」
ついでににっこり微笑んでみた。いい印象を与えてると思いたい。緊張していた女の子たちも固くなっている頬を少しだけ緩めてくれた。どうかこのまま緊張が解れて欲しいと思っている。
たぶん、無理だろうけど。
私はそんな事を考えながら彼女たちを観察する。
一人は準男爵家の女の子だ。身分的にはかなり、というかぎりぎり貴族という感じだが、どうして彼女がここにいるのかと言うと、令嬢のお友達である伯爵家の次女さんと彼女のお姉さんがお友達で、じゃあ、同級生の妹を、という事で紹介してくれる形になったのだ。
彼女は成績も悪くない。隣の2組にいるので学年では良い方だ。その準男爵家の子は顔色が悪い。真っ白だが一生懸命笑顔を作ろうと頑張っている感じだ。無理もないだろう。学校に入ったらこんな事になるとは思っていないはずだ。もう巻き込んでごめんなさい、しか言えない。
もう一人は侯爵家の子だ。令嬢の妹かと思ったら違う侯爵家の子らしい。考えて見れば侯爵家もいくつかあるのだから、当然といえば当然だ。侯爵家のお嬢様は小さくて可愛らしい感じの女の子だ。身長は私と同じくらいだ。小さい小さいと言われ続けている私と同じくらいの身長の子を見つけたので親近感がある。彼女も成績は良いだろう。準男爵家の子と同じクラスだ。
彼女はいかにもお嬢様、お姫様、と言った感じのふわふわした感じの女の子だ。ご令嬢とは違うタイプのお嬢様だろう。令嬢は毅然としたお嬢様なら、彼女は守ってあげたい感じのお嬢様だ。同性から見ても可愛らしい。羨ましい。
私にない可愛らしい雰囲気を羨ましい、可愛らしいなと彼女を見る。
令嬢は私の反応を伺っているようだ。どう思っているのか気になるのだろう。無理もない。形式的に令嬢が仲介者となる。どちらの反応も気になって仕方がないはずだ。無理もない。
ここは歓迎の意味も込めて笑顔で過ごすのが当然というものだ。
「お会いできるのを楽しみにしていました」
にこにこしながら話す。
同級生の二人は、その程度では緊張は取れないのか表情は緩まない。すぐに笑顔になれと言うのは酷だろう。無理もない。
緊張感に包まれたランチ会が始まる。
ランチボックス的なものを全員で広げる。
内容は個性が出るかと思っていたがそうでもなかった。私以外は全員似たような感じだった。
サラダに小さなパンか、サンドイッチ。後はフルーツだ。
私が知らないだけでランチボックスは同じ内容と決まっているんだろうか?
不安になるほどだ。
私のお昼はハンバーガーもどきに唐揚げ2個、レタスとトマト、後は果物だ。品数は少ないがハンバーガーがボリュームがあるので問題ない。
私のランチボックスだけ中身が違うので同級生2人は気になるようだ。令嬢は何回か見ているので気にしている様子はない。
同級生2人はチラチラと私のボックスを見ている。行儀が悪いので露骨に見ていないが、気になるのは仕方がないだろう。そう思うとおにぎりにしていなくて良かったと思う。米自体は珍しいものではないが、おにぎりは馴染みがないらしくトリオも初めて見た時は驚いていたものだ。日常的に食べるものではなく、手が込んだもの、珍しい物的に食べることが多いらしい。トリオは昼食会で私が頻繁に出すので慣れたらしく珍しいという認識は薄れているようだ。
おにぎりが珍しいという事を覚えていたので、学校に持って行くのは控えたほうが良いだろうと思ったのだが、正解だったようだ。
なんちゃってバーガーに驚いているのに、おにぎりなんか見た日にはどんな反応になるか火を見るよりも明らかだ。それとも自分達よりも多いお昼ごはんの量に驚いているのだろうか? コメントがないがどっちだろう? 私が自分から聞くのはどうなのか?
ヘタなことを聞いて墓穴を掘るのも嫌なので、そこはスルーすることにした。
しかし、会話が少ない。
この雰囲気。ランチ会はどうなるだろうか。
何となく予想は付くが、不安がもくもくと湧き上がってくる。