トリオ お久しぶりです ②
というわけで、今日の昼食会は私の思いつくままに作ったので取り合わせはバラバラだ。洋食、和食関係なし。思いつくまま、気の向くまま、だ。
メニューは昔なつかし日本人の心。ナポリタン。ナポリタンといえばグラタンだ。ということは本来ならグラタンだが、私は仲間のドリアも作った。単純な理由だが、私はグラタンよりもドリアの方が好きだからだ。
だったらスープもいるよね。ということで本来ならポタージュやコンソメスープなんかを作るところだが、私の気持ちは味噌汁だった。というわけで具だくさん味噌汁。
メインの料理も作らなきゃ、ということで春巻き。春巻きは春巻きでも中身は春雨などではなく、ソーセージや野菜を塩コショウで炒めて入れてみた。春巻きなら餃子かシュウマイ、と思ったが面倒だったので蒸し鶏を作ってみる。
そこまで来て、野菜が少ないことに気がついた。だったらサラダが必要。ということでサラダ。でも、野菜だけでは寂しかったので豚しゃぶサラダにしてみた。私はどこまでもガッツリ食べたいらしい。そう思いながら思いつくままに作っていく。
ナポリタンはケチャップをまだ作っていないので、トマトソースを代用している。中身は定番のベーコンや玉ねぎだ。私はカリカリベーコンが好きなのだが、今回は男性が多いのでゴロゴロベーコンにしている。ゴロゴロベーコンの方が満足感が大きいだろうと思ったからだ。
ベーコンを先に炒め、そこから出た油で玉ねぎを炒める事にしている。自分勝手な考えだが余計な油がない方が良い気がしているからだ。
ドリアの方は厨房のおかげでミンチが手に入る様になったので、ありがたく使わせてもらっている。ミンチを炒めてトマトソースを合わせる事で簡単ミートソースを作る。
ドリアのご飯はガーリックライスを作ってミートソースを流用する。ケチャップライスとホワイトソースが定番だろうけど、思い付きの料理なのでご愛敬だ。
春巻きは本来なら春雨を入れるのだろうけど、ナポリタンやドリアが炭水化物になるので、炭水化物は避けようと思い野菜やソーセージなどを炒めて中に入れる事にした。春巻きは皮で具を包むだけでメイン食材になるので嬉しい料理だ。揚げるのは油が多くて面倒なので揚げ焼きにすることにした。蒸し鳥は胸肉にフォークで穴をあけ、出汁醤油に漬けておいたものだ。それを蒸していく。後は冷ましてスライスするだけだ。こう考えると手の込んだものは一つも作っていない、簡単だけど品数が多いという感じだ。
サラダも同様だ。特別な作業は何もない。
順調に作っていたら、デザートが無いことに気がつく。甘い物好き、が二人ほどいるのでデザートがない、という選択肢はない。
だが、今日は私の希望で果物だ。そこを譲るつもりがないので諦めてもらって、簡単デザートを考える。と言ってもここまでくれば手の込んだデザートは作れない。
何にしようか。
ということで簡単デザート、という名のクレープもどきを作ることにした。クレープを作ってそこにカットフルーツや、湯煎したチョコレート、ジャムを載せる事にする。載せる物は各自に選んでもらう事にした。クレープなので食後に作ることにしよう。さすがに冷めては美味しくない。そこは私の温かいものは温かく、という考えがあり妥協できないところだ。
いや冷たくても美味しいのだろうけど、私は温かい方が好きなので直前に作る事にする。
私が好きなフルーツ盛りも合わせて用意する。先日入手したいちごもたっぷり、たっぷり入れておく。いちご好きの私は気のすむまでいちごを入れられて満足だ。
私は自分の欲望を優先させつつ作っているが、この品数から私のフラストレーションが溜まっているのが感じ取れると思う。
私のストレス具合はトリオも周知の事実で、そのため今日昼食会のリクエストが受け付けられないのも了解済だ。
リクエストを受け付けない事を謝罪すると、トリオは良い笑顔で「本来なら作っていただけるだけでありがたいことです」と言っていた。なのでなんの文句もないらしい。
私は作り上げたものをテーブルへ運ぶようにお願いする。今日はどれもたっぷり作っているのでなんの心配もない。
気分は食べ尽くせるのなら食べてみろ。といった感じだ。まさにその挑戦を受けて立つ。的な? 感じだ。
トリオも作られている料理を驚きとともに眺め、口をポカンと開けている。口を開けるもう一つの理由は、普段の量と違う事にもある。
私のストレスを感じて頂きたい。
私だけかもしれないが、料理をしているとだんだん楽しくなってくる。初めはストレスが原因で鬱々としているのだが、途中からは人には聞かせられない鼻歌(音痴)を歌いながら作り出すのだ。なんなら調子に乗って下手くそなリズムを取り出す始末。
見苦しすぎて人には見せられない姿だ。そのため今日は誰の手伝いも不要とし、キッチンは立入禁止区域になっている。
隊長さんが「手伝います」と言ってくれたが、丁重に強固にお断りした。私の見せられない姿は内緒なのだ。鶴の恩返し並みに見てはいけません、と言いたいところだが。カウンターキッチンなので見られてしまう。
今回の醜態は無理だろうが、ぜひとも忘れていただきたいものだ。
「「「いただきます」」」
料理を並べ、トリオが声を揃えて言っている。今日は量があるので誰も取り合いにならないだろうと私は予想している。そして、今日は取り合いにはならなかった。
当然だろう。かなりの量だ。品数もそうだが量もかなりだ。取り皿に乗せても大皿には料理が残っている感じだ。
大皿に残っている料理を眺めてトリオは満足な笑顔だ、お代わりが出来るので嬉しいのだろう。だが、他の料理もあるのだが食べきれるのだろうか?
まあ、残ったら残ったでお持ち帰りをしてもらえば良いだけなのでなんの心配もしていない。
私も余裕の気持ちで食事を始めた。
予想を外さないトリオ。
商人はサッパリ系の蒸し鶏。隊長さんは揚げ物も好きなので春巻き。管理番はナポリタンだ。誰もドリアに手を出さなかったので私はドリアを食べる。本当ならベジファーストが良いのだろうが、今日は欲望のままに食べると勝手に決めているのでドリアを優先する。
「姫様。この蒸し鶏とはサッパリしていて食べやすいですね。美味しいです」
「この春巻きも美味しいです。食べやすいですし」
「春巻きも美味しいわよね。私も大好きだわ」
「春巻きはこの揚げ物ですよね? 唐揚げみたいなものですか?」
「そうね。唐揚げの仲間。というか、どちらかと言うと、餃子の仲間かしら?」
「餃子ですか? 先日の?」
「そうよ」
私は輝かしいほどの笑顔で答えておく。餃子も好きだけど今日は手間を考えて諦めたのだ。機会があれば、また餃子パーティーをしたいと思っている。
管理番が餃子に反応する。
「そうですね。餃子は美味しかったですね。また、餃子パーティーとか楽しそうですね」
「そうね。私もそう思うわ」
管理番と顔を見合わせて餃子パーティーを開催する事を約束する。
隊長さんがやけに静かだと思ったら、なんと春巻きからナポリタンへ移行していた。これは初ではないだろうか? 他のを食べるように勧めていないのに、普通に別な物を食べるなんて。
私が珍しいとマジマジと見ていると隊長さんが不思議そうに私を見返してくる。「他のも食べるんだ?」なんて言えないので。
「美味しい?」
無難に確認してみる。輝かしい笑顔とともに肯定が返って来た。そして次の一言にトリオの心情が垣間見える。
私は気が付かなかったけど、もしかしたら、今までみんな遠慮していたのかもしれない。
「ええとても。どれも好きなだけ食べられそうで嬉しいです」
「そう。良かったわ」
他に返す言葉もなく満足してもらえて良かったと思う事にする。
私的には大盛祭り、と言わんばかりに作ったのだが、彼ら的には満足する量なのかもしれない。
隊長さんだけではなく管理番や商人も同様な感じだった。
結論。
彼らには適量だった。
テーブルの上は何一つ残る事はなかった。特筆すべきはデザートのクレープは作らずフルーツ盛で満足してもらえた事ぐらいだろうか。
成人男性の食欲を舐めてはいけない事を学んだ。