トリオ、お久しぶりです
今日は久しぶりの昼食会の予定だ。
トリオたちと久しぶりに会うので楽しみにしている。
「みんないらっしゃい。お久しぶりね。元気にしてた?」
入ってきた管理番と商人に私は声をかける。二人共会釈しながらLDKに入って来た。
「お久しぶりでございます。姫様」
「学校の方はいかがでございますか?」
学校のことを心配してくれているのは管理番だ。心配性は変わらないらしい。だが、私はこの心配性をありがたいと思っている。なんとなくくすぐったい気分だ。
「ありがとう。二人とも。私は元気だけど。学校の方はまだ慣れない感じかな?」
「授業が大変なのですか? ですが姫様は首席で入学されたと聞きましたが?」
「もしかして。クラスに馴染むのが難しいのでしょうか?」
ずばりの管理番だ。
心配していた姪っ子ちゃんは、お友達ができたそうだ。隊長さんが管理番に確認してくれていたので知っている、姪っ子ちゃんの事を確認したので、私の方は大変だと察してくれたのかもしれない。
私は嘘をつくこともできないので、苦笑いで済ませるが、それで理解されたようだ。私の身分上難しい事があるのも理解できるのだろう。
「難しいものですね。私はそういう経験がないので」
「私もです。ですが、隊長殿ならわかるんじゃないですか?」
商人が隊長さんに話を振っていた。
早くから来ている隊長さんは私の後ろに控えている。商人の言葉で、私は後ろを振り返ると困り顔の隊長さんが居た。
隊長さんはお友達は必要ない派だ。その事で筆頭に注意されていたので商人への返答に困ってしまうのかもしれない。
その事を知らない商人は隊長さんの困り顔に不思議そうだ。無意識なのだろう。首を斜めにしている。
困り顔の隊長さんと首を捻っている商人の対比が面白くて、私は吹き出しそうになるのを堪えていた。
困り果てた隊長さんは、学生時代の話をしてくれた。結果、予想していた内容の話だった。
「私は学生時代に友人はいなかったし、特に必要だとも感じていなかったからな」
「友達、いないんですか? まあ、隊長殿の立場なら仕方がないかもしれませんね。取り巻きになりたがる連中の方が多いでしょうし」
商人は遠慮のえの字も感じさせない様子で言っている。私のほうがハラハラする言いまわしだ。私と違って隊長さんは気を悪くした様子もなく。商人の言葉を肯定している。
「そんな感じだ。父の立場を思えば、そうなるのも無理はないだろう」
「ですが、学生時代からそうだと嫌なものですね」
管理番がしょんぼりとした様子で感想を口にする。その意見には私も激しく同意する。
しかし隊長さんの立場でそうなら、私も同様の事になりかねない。いや、今からその匂いがプンプンしている。もしかしたら普通の学校生活は望めないのか?
私は隊長さんの取り巻き発言で心配になってしまった。令嬢もお友達を作るのが大変だったと言っていたし、もしかしたら紹介された子たちは取り巻き候補なのだろうか?
ここは隊長さんに聞いてみよう。
「隊長さん。もしかして私にもそんな事が起きたりするのかな?」
自ら取り巻きができるのか? とは聞きにくくオブラートに包んで聞いてみる。
だが、隊長さんは容赦がない。
「その可能性はあります。というよりはそういった人物のほうが多いでしょう。大なり小なり。姫様の名前は色々な意味で大きいので」
やっぱりそうなるのね。私的にはそんなものなんて、いらないのだがそうはいかないのだろう。釈然としない。
しかし今までは庶民だから、と気にすることはなかったが、ここまで来ると自覚を、というか認識を改めないといけないだろう。
自分自身の考えは別にして、この身体の肩書は【姫】なのだ。私自身の気持ちに関係なく肩書に合わせた対応がなされる。当然のことだ。私もそれに合わせ対応を行わなければ周囲に迷惑がかかる。
それも人の人生を左右するような迷惑が、だ。
デビューや外出のときでも理解をしていたつもりだが、所詮つもり、でしかなかったようだ。
大げさな話だと他人事のようだったが、取り巻きなんて身近すぎる話だ。
取り巻きで実感ができるなんて不思議だが、自分の身分における実感を持った私は気を引き締める。
今までは周囲が大人ばかりで気楽だったのだ。だが、子供が身近にいると、将来のある子供には気を使うので、別な自覚とともに実感したのかもしれない。
私は自分の気持を分析する事に夢中になって、無口になってしまった。その事を心配そうに管理番が見ている。その視線に気がついた私は安心させるように口角を持ち上げる。
「ご心配ですか?」
管理番の単純で簡単な一言だが、私の気持ちを代弁するには十分な一言だ。本来ならその言葉に同意するのはいかがなものかと思うが、同意することしかできない私は頷いた。
「そうね。私に取り巻きなんて単語が出てくるなんて思わなかったから。心配というか、自分の立場について認識を改めていたところよ」
「それはありがたいことですね。姫様は御自分の立場を軽く考えていらしゃるところがあるので。認識を改めていただけたら嬉しく思います」
隊長さんの同意は私への圧力を感じさせる事に大きく活躍していた。その事からも隊長さんと私の身分についての認識の差が大きかったことが感じられる。
だが、私にも言い分がある、庶民にそんなことを求めるな、と言いたい。
無理だけど。
隊長さん達からすれば、そんな事がわかるはずもないけど。言い訳がましいが、私の気持ちの上ではそうなっている。
もちろん、無茶を言っているのは私の方だ。知っている。言い訳がましいが、言いたいだけなのだ。いや、言えないから、思いたいだけだと言うべきだろう。
私は誰にも言えない思いをグチグチと胸の内で呟いている。それくらいは許してほしい。
だが、こんな事を言っていても何も進まないので、気分を入れ替えよう。
隊長さんから聞いたが、姪っ子ちゃんは無事にお友達ができたらしい。喜ばしいことだ。その事を話をしたほうが有意義に決まっている。
「そういえば、管理番。姪っ子ちゃんはお友達ができたそうね。楽しんでいると聞いているわ。良かったわね」
「ありがとうございます。隣の席の方と友人になれたようです。特にトラブルもないようなので。安心しています。心痛をお抱えの姫様には申し訳ないのですが」
「そんなことはないわ。良いことだと思うもの。学生生活は楽しいのが一番だし」
「ありがとうございます」
管理番は私の一言に安心したように微笑んだ。その笑顔を見ると私もホッとする。
ホッとしたところで今日の昼食会を始めたいと思う。
今日は私の好きなメニューだ。
なぜなら、みんなには申し訳ないが私のストレス発散を兼ねているからだ。
私はストレスが溜まると無性に料理がしたくなる。それも手が込んだものとかそんな感じではない。思いつくままに好きなものを作りたいのだ。
それだけだ。
申し訳ないが、皆には付き合ってもらおう。