紹介の裏側
お友達の紹介をされた翌日、私はお昼を令嬢と一緒に過ごしていた。入学してから愛用しているサロンでのひと時だ。
今日、私は令嬢に確認したいことがあった。もちろん昨日の出来事である。何故にあんな事になったのか教えてもらいたい、と思っているからだ。それはもう切実に、教えて頂きたいと思っている。
「令嬢。昨日はいったいどうしたの? 予定では校舎を案内がてらお友達を紹介してくれるという話ではなかったかしら? 私はそう思っていたのだけど」
「姫様、わたくしもその予定でしたの。姫様は大げさなことを好まれないので、できるだけ自然な形で、と思っていましたわ。ですが予定外の意見がありまして」
「予定外?」
思わず聞き返した私に、令嬢が形の良い眉を顰めながら予定外のことを教えてくれる。
「実は子爵家の方が、姫様に初めてお会いするのに正式な形ではなくて良いのか? と言われまして。正式な形でなくて良いのか? と問われれば、その方が間違いないですし」
最後のほうの言葉が濁される。つまりは【正しい方を】と言われると反論しにくい感じになるのは仕方がないだろう。私も同じことを言われると、なんとも言えずに頷くしかない。そしてあんな初対面の形になった、と言う訳だ。
理由的には納得するしかないが、だが、ありえん。どこの国の王族かと思う。と、思うが私の肩書は王族の一員だった。だが、私の気持ちは一般ピーポーだ。あんな初対面が二度とないようにお願いしたい。切実に、切実にそう思い令嬢に切実にお願いしておいた。
「令嬢、言われる意味は理解しているのだけど。正論を言われると反論はできないのだけど。そこも理解しているのだけど。でも次回からは、あんな形はない方向でお願いしたいわ。昨日はいたたまれなくて、どうすればよいのかも分からなかったの」
「仰る意味はわかります。申し訳ありません。姫様はあのような形はお好みではありませんもの。そうは思うのですが。いえ、次回は姫様のご負担にならないように努めます」
謝罪をしながら令嬢は約束してくれた。令嬢としても、どうしようもなかったのだろうと思うが、私も困ってしまうので頑張っていただきたい。
他力本願で申し訳ないが、他に頼みようもないのでよろしくお願いいたします。
肝心の話が終われば、令嬢も紹介したお友達がどう思われたのか気になる様子。筆頭と同じ内容の事を聞かれてしまった。
「それで、姫様。どの方がよろしかったですか? わたくしの見た感じでは伯爵家の方と楽しそうにされていた様子ですが?」
「ええ。あの方とは楽しくお話をすることができたわ。でも、令嬢には申し訳ないのだけど、初めの子爵家の方とは話しにくくて」
「そうだったのですか? わたくしからは気が付きませんでした。皆様と同じような感じに見えました。その中でも伯爵家の方と楽しくお話されているように見えましたので」
令嬢から全員と同じように過ごしているように見えたのなら、私の鉄壁の表情は取り繕えていたらしい。そこは安心材料だ。大人として紹介された人に嫌な態度は取るべきではないと考えている。それが上手に出来たかどうかは別にして、である。
令嬢以外の別の人なら、紹介された人が苦手だということは言わないが、紹介してくれた令嬢には正直に言うべきだろうと思っている。
令嬢は私の言葉を否定することはなく納得したように頷いていた。その反応だと令嬢は私が彼女と合わないと考えていたようだ。それなのに、なぜ私に紹介したのだろうか? 疑問だ。その疑問は令嬢の続きの言葉で判断できた。
「クラスは別ですが、彼女の妹が姫様と同じ学年なのです。姪っ子さんとは同じクラスですし。もし反応が良いようであれば紹介できるのでは? と思ったのです。ですが、この様子では見合わせたほうが良さそうですね」
「待って。彼女と合わないからと言って、妹さんとも合わないとは限らないわ。会ってみないとわからないでしょう?」
私は人間関係の基本的考え方を話したつもりだったが、令嬢の反応はいまいちだった。というよりも、静かに首を横に振り真っ向から否定された形だ。その反応が意外で素直に聞いてしまう。
「だめなの?」
「だめ、とは申し上げませんが。賛成はしかねます。やはり姉妹ですし、先に姉の方と知り合いになっているとなると、お茶会などに招待する場合、姉を無視するわけにはいきません。どちらも招待しなければなりません。妹はいいけど姉は嫌だ、というわけにはいきませんでしょう? 交友関係的に角が立つかと」
「あ、それはそうね」
私は令嬢の例えにすぐさま同意した。そんなつもりはなくても片方を無視したとなれば、姉妹間でも関係性が悪くなるだろう。姉妹関係を悪くする元凶にはなりたくないので、お付き合いは遠慮するのが一番良さそうだ。
妹さんには会ってみたかったが、残念だ。姪っ子ちゃんのクラスなら今度噂ぐらいは聞けるかもしれない。機会があったら聞いてみよう。
次回の話題ができたと思いながらもう一つ気になっていることを聞いてみた。
それは紹介された順番だ。
私に初めに挨拶をしたのは子爵家の令嬢だった。ここが小さな貴族社会とすれば、最初に挨拶をするのは一番身分が高い人ではないだろうか? それなのに子爵家の子が挨拶をし案内をしてくれた。その次が伯爵家の次女さんだった。順番的に疑問があったのだ。
だが、それには明確な理由があった。
「成績順ですわ。ここは貴族社会の序列も反映されますが、基本は学校ですので成績順が優先される事もあります。子爵家の彼女は次席ですので。あの形になりました」
「なるほど。納得だわ」
知られざる事実に納得する。成績順なら誰でも納得するしか無いだろう。ということは伯爵家の次女さんは3位以下ということ。令嬢は女子では首席だろうし。全体の順位では殿下が首席だ。
しかし、こう思うと殿下は意外にオールマイティーなのだろうか? 成績も良くて総会の会長で、令嬢の話では総会は生徒の全てを担っているという。生徒に支障が無いようであれば仕事も真面目にこなしているのだろう。
なるほど、殿下は結婚相手としては意外に優良物件だ。身分も成績もよく。外見もそれなり。貴族のお嬢様方からは狙われていて、裏では熾烈な婚約者候補の戦いがあるのだろう。
間違いでも、私が婚約者候補と名前が挙がれば目の敵にされるはずだ。納得した。
私の今年の目標は達成できるように頑張ろう。