お友達ってこんなに大変なもの?
私は目の前の状況に戸惑いを隠せず令嬢に視線を流す。今日は何回令嬢に視線を流すことになるのだろうか? 先が思いやられる。
私の視線を受けながら、動じていないのか令嬢は微笑みを浮かべている。声を大にして救いを求めたいが、助けてくれと声高に叫ぶわけにはいかないので視線に想いを込めるしかないだろう。
だが、令嬢は分かってくれているようだ。鉄壁の微笑みを浮かべたまま今日の主旨を完遂しようとしてくれていた。
「姫様。せっかくですので皆様と一緒に学園内の案内をしてもらおうかと思っていますの。いかがでしょうか?」
「おまかせするわ」
私は他の言葉が思いつかず令嬢に丸投げすることにした。今日は彼女たちに案内をお願いすることになりそうだ。
いつかの離宮を思い出す。
私はあの時と同じように多くの人とともに移動していた。まさしく大名行列、といったところだろうか。
私の案内を勤めてくれるのは先程代表で挨拶をしてくれた女の子だった。
なんでも子爵家の長女で、私と同学年に妹さんがいるらしい。
これは予想だが、令嬢と仲良くできる感じの子ではないので、私と同学年の妹がいるという理由で選ばれたのではないだろうか?
令嬢の第一目的は私のお友達を作ることだ。妹がいるとなれば足がかりにはちょうどよい、と判断したような気がする。
そうは思うが、令嬢には申し訳ないのだが、何が悪いというわけではないのだが、彼女とは話のテンポが合わない。明確な理由がある訳ではないのだが、馬が合わないというヤツだろうか?
私は彼女の説明を聞きながら、こいつは合わないな。という結論を出していた。
だが、露骨に代わってくれというわけにもいかないし、頑張って話を聞いている。
次の階に移るときに説明をしてくれる女の子が代わったので、ワンフロアで一人、話をしてくれる感じのようだ。私はその事に安心しながら次の子と代わってもらった。
次の子は伯爵家の次女さんだった。なんと、私の隣の席の次男くんのお姉さんである。
次男くんにはお世話になったので、勝手に好感度があがってしまった。思わずにこやかに対応してしまう。先程の子爵家の子とは対応の感じが違う形になってしまったので申し訳なく思ったが、そこは許してもらいたい。
次女さんのお話では彼女は4人姉弟なのだそうだ。家では賑やかに過ごしているらしい。私も4人姉弟の次女なので更に勝手に親近感だ。
私たちは姉についてのあるあるを話しながらワンフロアの説明を終了した。
後も同様の感じだ。違うところと言えば、次の階からは案内してくれる子は二人になったところだろうか。4階は令嬢とペアで案内してもらった。やはり令嬢の話し方には安心感がある。ホッとしながら説明を受けたが、何となく初めの二人が令嬢の一押しなのかもしれない。校舎が4階建てなので後は二人になったのだろうけど。確かに後の方たちについては可もなく不可もなく。
今日の中で一番楽しく過ごせたのは次女仲間の伯爵家の子だろう。
彼女とはぜひともお友達になりたいものだ。
そう思いながら昼休みが終了する。
忘れていたが今日のお友達候補について筆頭に話さないといけない。
これって全員の事を話さないといけないのだろうか?
そう思っていたときもありました。
そしてその考えは間違っていなかった。
「お友達になれそうな方はいらっしゃいましたか?」
筆頭に話す前に隊長さんから帰りの馬車の中で確認をされた。
これって、ここで話をしたら筆頭にももう一度話さないといけないのではないだろうか? それって二度手間だよね?
二度手間が面倒くさい私は筆頭と一緒に話をすることを告げる。
隊長さんは先に話してほしそうだったが、同じことを何度も話すのは手間だと判断した私はそのまま正直に答えていた。
「同じことを2回も話すくらいなら二人一緒に話したほうが良いし。別々に話すと受ける印象が違うかもしれないでしょ? だったら同じ時に話したほうが問題ないと思わない?」
「それは、たしかにそうですね」
「でしょう?」
私は胸を張って同意を得ると筆頭を交えて話をすることにした。
「姫様。お友達になれそうな方はいらっしゃいましたか?」
隊長さんとまったく同じことを聞かれながら、その問いに大きな頷きを以って返す。
二人が揃ったので今日のことを話すことにした。
「今日は令嬢の紹介で5人の方に会ったわ」
貴族の子に会って校舎の案内をしてもらったこと、私と同じ年の兄弟、姉妹がいる子が選ばれていたことも説明する。私の言葉に筆頭は頷きながら、どの子と過ごしやすかったのか確認してきた。楽しかった子ではないのか? と少し疑問に思ったが、正直に伯爵家の次女の子が楽しくて過ごしやすかった事を伝える。
筆頭に他の子はどうだったのか聞かれたが、子爵家の子が少し苦手に感じただけで、問題が無いことを伝える。
筆頭は考えている様子だ。
「姫様。お友達は伯爵家の子がよろしいと思われていますか?」
「そうね。彼女なら話しやすいから助かるけど。学年が違うから会う機会は少ないわよね?」
「そうですね。姫様と同級生になる方は男性ですし。他の方はいかがでしたか? 子爵家の方以外は問題ないようですので、他の方も候補としましょうか?」
「4人もいるけど、4人全員で良いの?」
「今の段階ではあくまでも候補ですし。その方たちが問題なければ、姫様の同級生の方を紹介していただけるかと」
「まだ候補なの?」
ある程度のスクリーニングは終了しているはずだが、それでも候補らしい。
これ以上、何を確認するのだろうか? 疑問で気になって仕方がないので、ここは素直に聞いてみようか? もしかしたら令嬢が言っていたスクリーニングのことを教えてくれるかもしれない。
「候補って言っていたけど。どうしたらお友達になれるの? なにか基準があるの?」
私は何も知りませんよ、的なポーズを示す。
隊長さんと筆頭は顔を合わせ、隊長さんがスクリーニングの事を教えてくれた。もしかしたら教えてもらえないかと思っていたが、簡単に教えてくれた。知っておいたほうが良いと思ったのだろう。
「姫様のお友達に相応しい人物なのか。周囲に問題が無いのかを確認するのです」
「本人はわかるけど、周囲って?」
「家族や親戚に問題が無いかということです。家族に問題があると、その問題を解決したいばっかりに姫様の名前を悪用しようという考えが浮かばないとも限りません。加えて、ここが大きな理由ですが。姫様のことです。相談されると自分にできることは、と仰って無理をされたり、解決されたりすることも考えられます」
「解決してはいけないの? 私でできることなら手伝ってあげたいと思うわ。それはだめなの?」
「だめとは申し上げません。ですが、内容によっては、どうでしょうか?」
「内容?」
「そうです。これが、その家の借金であったり、領民に無理難題を押し付けた結果であったり、違法な事でその罪を誤魔化そうとしていたり。そんな問題を誤魔化しながら姫様の名前を利用しようとしていたらどうでしょうか?」
「確かに。それは問題だわ。気がつけば良いけど、気が付かなかったら大事よね?」
隊長さんのたとえ話にぞっとした。確かにそんな考えは思いもしなかった。
私の名前を利用する事だって考えられるのだ。そう言われるとスクリーニングが必要な理由に、大いに大いに、納得できる話だった。
私が青ざめたので隊長さんが納得できる理由を追加していく。
「はい。その可能性も考えられます。そのための身辺調査です。クリーンなだけの人間はいませんが【違法行為をしていない】と言うだけでも、大事なことです。姫様は利用する価値のある人間だという立場にあります。その事は忘れないようにご注意ください」
「必要性を実感したわ。私だけでは気が付けないわ」
「ですので、時間をいただきたく思います」
筆頭がにこやかに話を締括った。
筆頭、顔はにこやかにしているけど、内容は全くと言っていいほどにこやかな内容ではないわ。
安全面でもそうだったが、名前を利用されるという面でも私は注意をしなければならないという事を実感した。
面倒な立場だが、どうする事も出来ないので利用されないように注意しよう。