コミック1巻発売記念 苦労人、宰相閣下の複雑な内情
いつも読んで頂いてありがとうございます。
お陰様、コミックの1巻の発売を迎えることができました。
これも読んでいただいている、皆様のおかげです。
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。
宰相閣下の気持ちをやっと書くことができました。
ここまで来るのが長かった。
実は苦労人の宰相閣下の偽らざる内情を楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
私は大陸の3分の1を治めている国の宰相を務めている。
陛下からこの職務につくように命じられた時、思わず後ずさりをして逃げ出そうと思ったくらいだ。それくらいこの職務の責任は重い。
だが、陛下から「他に頼めない。お前だから頼むのだ」と言われた時、腹を括ることにした。そこまで陛下に言われて断ろうとは考えなかった。
陛下が前線に赴かれ私が国を預かり、国内の平定に力を尽くし、それが安定するまで多くの問題を抱え解決に導くことができたのはひとえに【運が良かった】としか言えないだろう。
何か一つでも間違えれば私の首は飛び、陛下自身も退位に持ち込まれる可能性が何度もあった。その都度陛下と意見を交わし、すり合わせ危機を乗り越えてきた。
だからこそ、私は今でも忌憚ない意見を陛下と交えることができると思っている。
国内が安定するまでに陛下と対立した者は少なくない。その者たちは後ろめたさなのか、以前の事を持ち出されるのが怖いのか、陛下に意見を述べることができないでいる。
情けないと思うこともあるが、私も同じ立場なら意見を述べることはできないだろう。
陛下を退位させようと目論んでいたのだ。逆鱗に触れれば自分も同じことをされると思うと、何かを言い出すことはできないはずだ。その者達の事を、当たり障りのない言葉で例えるのなら自業自得だろう。
この現状は貴族たちの首を絞めているが、陛下自身の首も絞めている。
陛下に意見を述べる事ができないということは、新しい意見が生まれないということでもあり、政策をより良いものにできない、ということでもある。
正直に言えば陛下とまともに話をできるのは私ぐらいだ。息子である殿下ですら小さくなり意見を述べる事ができない。
まあ、それについては陛下にも問題があるのだが。いや、陛下が問題だと言うべきものだろう。
妃殿下が懐妊されいよいよ出産というときに、地方で反乱があった。出産の時期を狙っての反乱だったのだ。その時期なら陛下が来ることは無いとの目論見だったのだろう。だが、陛下は平定に赴かれ、無事に鎮圧し戻られた。
だが、その間に妃殿下は出産が原因で儚くなってしまわれた。その時、生まれたばかりの姫君も助かることはなかった。陛下は今でもその事を残念に思っておられる。
鎮圧に行かない、という考えはなかった陛下だが、妃殿下を励ましてあげられなかった事、最後に一緒にいることができなかったこと。生まれた姫君を一度も抱いてあげられなかったこと。すべてを残念に思っておられる。
陛下が今でも自分の【子供達】と言われるのは、この亡くなった姫君を思ってのことだ。一度も会うことがなくても、抱いてあげることができなくても、自分にとって大事な子供だと思っておられるのだ。
陛下は愛情深い方だ。妃殿下が亡くなられて10年以上は過ぎている。それでも後添いをもらうことはない。
周辺国からも、貴族の中からも自薦他薦を問わず、話は上がっているが首を縦にふることはなかった。それほど妃殿下を思われているのだ。殿下はこの事には気が付かれていない。
妃殿下が亡くなられた時、殿下はまだ小さく、基礎教育も始まっていない時期だった。そのせいか、陛下が戻られた時、泣きながら陛下を責めておられた。妃殿下が亡くなられたのが心細くて寂しくて色々な感情が混じり合い、そうなったのだと察せられる。陛下もそのことは理解されていた。陛下自身も自分自身を責めており、殿下の言葉が辛くのしかかっておられたのだろう。お二人がしばらくギクシャクしていたのが印象的だった。
殿下はその事を覚えておられていないが、陛下は忘れられないのだろう。
しばらくの間、殿下との関わりを避けていたように思われる。それが今のお二人の関わりの根本になっているのだろう。
そのことに付け込んで、殿下の周囲が煩わしかったこともある。陛下が排除されておられたが殿下はその事に気が付かれておられないようだ。
お二人のことを、どうすれば良いのか。このままでは大きな問題になると危惧していたが幸か不幸か、お二人の間に一石が投じられた。
異国の姫様だ。
あの方には驚かされる。陛下や私を前に物怖じもせず交渉をする。
もちろん本気になった陛下を前に怯え泣くこともあったが、それでも自分の必要だと判断する交渉は乗り切っておられた。
隊長や筆頭を守るために慣れない演技もしていた事もあった。入学前の子供のすることではない。
陛下に意見を述べるなどと、ありえないことだった。
異国の小さな姫様と侮っていたが、私にも交渉を持ちかけてきた時には、気に入らないが、本当に気に入らないのだが、陛下が気に入るはずだと納得してしまった。
確かにあの考え方は優秀だと思う。不足している部分は多くあるが、それでも自分が守る立場であること、国民の代弁者であるべきこと、その2つを理解しているだけで今は十分だ。足りない部分は今から育てれば良い。
筆頭からの報告では、【自分が身分を振りかざすことで救われる子供がいるなら私はこの身分を振りかざす、上のものが下のものを守るために身分は存在する】と断言したそうだ。
使い方を間違えなければ、その考え方は必要なことだ。
殿下では思いもしないことだろう。
ため息しか出ない。あの方がこの国の人間であれば何も問題はなかった。
陛下の望まれるように殿下の隣に立つ人物として相応しかっただろう。
しかし、あの方は異国の方だ。
国内も周辺国も平定している。盤石だ。だが、殿下の代になればわからない。付け入る隙はまだまだあるのだ。
殿下に大きな後ろ盾が必要だろう。あの姫様では、後ろ盾としては少し弱い。
もう少し力のある国の方だったら、私も喜んで賛成したのだが、姫様のお国では弱すぎる。
あの方の国は力がないわけではない。影響力は持っているのだが、それでも規模としては小さいし。力で押されれば負けてしまうだろう。今の段階では危険は冒せないのだ。
残念でならない。
姫様自身も、殿下の婚約者として自分はふさわしくない、と断言しているとのことだった。自分の立場を理解しておられるのだろう。そういう意味でも賢い方だと思う。
【殿下の婚約者としてふさわしくない】と判断する私と姫様の考えは一致している。
後は陛下だけだ。
なんとしても陛下の考えを翻意して頂く必要がある。そういう意味でも姫様とは協力できる。実際、私に協力を依頼してきたのだから。
あの方がこの国の姫様なら。もう少し大きな国の方であれば。
残念でならない。