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侯爵令嬢の計画

 テーブルのセッティングもすみ、お茶も入ったので二人でお昼をいただくことにした。

 令嬢も私もランチボックスという名のお弁当だ。

 令嬢は普段は学食に行くらしいが、今日は私に会いに来てくれるためにランチボックスになったようだ。


 「普段は学食ですが、このようにランチを楽しむのも良いですね。気兼ねなく楽しめるのが良い気がいたします」

 「そうね人の目が多いのはちょっと、と思うものね」

 気兼ねなく楽しめるお昼を喜びながらランチボックスを眺める。私と令嬢のお昼は洋風と和風で見事に真逆だ。

 私のお弁当は定番(?)のおにぎりに、唐揚げ、卵焼きなどだ。お弁当には外せないと思っているラインナップだ。令嬢はサンドイッチ、別な入れ物にサラダ、果物と女の子らしい(勝手に私がそう思っている)お昼だ。

 「姫様。失礼ですが、その黄色いものはなんでしょう? 初めて見ますわ」 

 「卵焼きよ? 見たこと無い?」

 「はい」

 「食べてみる?」

 私の卵焼きを見ながら不思議そうな顔をしている。そう言えば彼女たちとは軽食やお菓子が中心で、おかず系の物を見せた事はなかった気がする。

 私は今までを振り返りながら、卵焼きを一つ差し出す。令嬢は申し訳ないと思ったのか果物と交換してくれた。

 卵焼きと果物を交換した令嬢は、なんだか嬉しそうに卵焼きと果物を見ていた。

 もしや、この果物は好きな果物だったのだろうか? いや、だったら嬉しそうにはしてないだろう? どうしたんだろうか?


 「姫様。わたくし初めてですわ。お昼の交換って」

 クスクス笑いながら、一度交換してみたかったのだと教えてくれた。学食で別な子たちがしているのを見ていたらしい。

 一度は経験したかったとか。普段一緒にいる子達とではできなかったようだ。

 なるほど。それなら楽しそうなのもうなずける。おかずの取替っこなんていかにも学生生活って感じがして嬉しくなると思う。

 その話に同意していると、令嬢は早速とばかりに卵焼きを小さく口に入れていた。この小さくが令嬢らしいと言えるだろう。私なら一口で食べるな、と思いながら感想を待つ。

 自分で作った物は感想が気になるものだ。これは何回作っても変わらない。やはり美味しいと思って欲しいと考えてしまうのだ。

 令嬢の口に合うだろうか? 少しドキドキしながら見ていると、令嬢はニッコリとしていた。どんな感想よりもその表情が雄弁に物語ってくれていた。

 目は口程に物を言う、というが表情も同様だと思う。その後令嬢は感想を聞かせてくれて、本当の事を言ってくれているのだと実感しながら聞いていた。


 令嬢の感想でご機嫌な私がお昼を頂いていると、令嬢は学内の案内を本当にしてくれるという。

 私はてっきりお昼を一緒に食べる口実だと思っていたので驚いてしまった。

 そして令嬢の計画を聞いて二度驚く。


 「令嬢。ご迷惑ではない?」

 「そんな事はございませんわ。それにわたくしはきっかけを作るだけです。こう言ってはなんですが、その後は姫様次第になってくるかと思います。姫様ならなんの問題もないと思いますが」

 「そうだけど、大丈夫かしら?」

 「はい」

 令嬢は私の心配そうな返事に満面の笑みで返してくれた。よほど自信があるようだ。


 まあ、令嬢の計画は至って普通? 真っ当? なものだった。

 簡単に言うと令嬢が昼食を一緒に食べるという名目で私と仲が良いアピールをして、その後に令嬢の知り合いを紹介してくれるという流れだ。

 私のクラスでは年下ばかりなので直接的な知り合いはいない。そのため令嬢の同級生や後輩を紹介してくれるという。そしてそのお友達の後輩や妹を紹介してもらう、ということだそうだ。

 なかなかに手間はかかるが、その間に隊長さんや筆頭のスクリーニングが行われるのだそうだ。

 私はそんな事が行われるということは知らなかったのだが、令嬢にいわせればお友達候補が選別されるのは普通の事なのだそうだ。『だそうだ』がとても多いが私は知らないことばかりで、そういうフレーズになってしまう。


 実際に令嬢も両親からの紹介や許可がない人とは交流がないと。これは危険排除とともに、交友関係を広げるのに優位な人間かどうかも判別の一つにされるらしい。


 貴族社会は恐ろしい。私はそんな事がなされているなんて想像もしなかった。これは令嬢だから教えてくれたことだろう。隊長さんなら【知らなくて良いこと】と判断されて教えてもらえない気がするし、筆頭なら【もう少し後に】と言って教えてもらえていない気がする。これは知らないふりをしておこう。

 令嬢から聞いたと言うと彼女が注意されそうだ。私は自分の胸一つに収めることに決めつつ、令嬢の計画に乗っかることにした。


 「では、今日は特別棟をご案内させていただきますね。そして明日はわたくしの使用している校舎をご案内したします。その際に、わたくしのお友達を紹介させていただきますわ。お友達たちは筆頭様の許可を得て、ご紹介させていただきますので。ご安心くださいませ」

 「そうなの?」

 「はい。許可のない方たちを紹介などできませんわ」

 令嬢はニッコリと笑って自信をのぞかせた。つまり許可を得た上でさらにスクリーニングがされた、ということなのだろう。

 料理や日常生活は私のほうが得意だが、この学校生活は小さな貴族社会だ。令嬢の知恵を借りる必要がありそうだ。

 明日から彼女のことは先生か先輩と呼んだほうが良いだろうか?



 「姫様。特別棟は一階はダンスホールや更衣室。客室やサロンを模したもの。後はいくつかのダンスの練習室。2階は先程使用していたサロンになります。サロンは申請さえすれば誰でも使用できますわ。勿論、使用できるサロンには、いくつかの区別がございます」

 「身分で使用できるサロンが違うということかしら?」 

 「はい。同伴があれば、その方の身分に合わせた部屋が使用できます」

 「姪っ子ちゃんも、私が一緒なら同じ部屋で問題ないということね?」

 「はい。一番身分の高い方に合わせる形になります」

  サロン一つでこのルールとは。他のことも考えると、そら恐ろしい気分になる。面倒な事がたくさんありそうだ。


 私は自分の中で、面倒くさいなぁ、と思いつつ案内を聞いている。

 特別棟というだけあって、各部屋は使用目的に合わせて豪華なものから、必要な道具をふんだんに揃えた部屋まで色々あった。

 こんなにも多くの物を揃えられるだけの経済力が凄いと思ったが、王宮からの支援もあって成り立っているのだと説明を受けた事を思い出す。

 そういう事は他の貴族からも寄付を受けたりしているのだろう。寄付の裏にある忖度を考えてしまう。学内は平等を謳っているが、現実はそうもいかないのだろう。


 世知辛い大人の事情を感じながら令嬢の案内は続いている。



 

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人質生活から始めるスローライフ2
― 新着の感想 ―
[一言] だから3日かかったんですねぇ
[気になる点] 追記です。 禍い転じて福となす。についてですが、同じ様なストーリー展開が何度かあることに気が付きました。 一つは陛下が姫様の料理を食べたいから厨房にレシピがあれば作れるだろうと言ったこ…
[一言] 感想欄を読んで、デビューで侯爵令嬢と知り得なかったら学園生活確実につんでましたね。姫様が侯爵令嬢に出会ったきっかけは殿下の嫌がらせ挨拶のお詫びが発端だし姪っ子ちゃんと仲良くなれた遠因も侯爵令…
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