思いつき小話 なんちゃって姫様の一日
いつも読んでいただいてありがとうございます。
今回は姫様が国元にいたころの一日です。
本編とは関係ありません。
私生活が落ち着かず本編を書く気持ちの余裕が無くて、でも何かを書きたくて
この形になりました。
本編を書くときは分かりやすいようにしたいと思っています。
お付き合い頂けたら嬉しいです。
「二の姫様。おはようございます」
「おはよう」
「本日はいかがされますか?」
「おねえさまは、どうされるの? きょうはおねえさまとあそぶやくそくをしていたのだけど」
「一姫様は、お母様とお出かけになられました」
「もう? ちょうしょくのまえよね?」
「はい。農地の視察に行かれるそうです」
「じゃあ、あそんでいただくのはむずかしいのね」
そう言った私に侍女さんは困ったように微笑んでいた。
私はこの国の二の姫である。一応姫なので侍女が付いているが、この国が小さいので本当に『一応』という感じである。大きな国だったら裕福な貴族ぐらいの規模なのではないのだろうか。そんな事を考えながら、起きだし身支度を整え始める。
私は御年5歳である。5歳のくせになんでこんなに理論的な考え方が出来るかと言えば、私が前の人生の記憶を持っているからだ。いわゆる前世持ちというやつだ。
本来の子供なら約束を反故にされたと泣くところだが、私は仕事だし、それをしない事による国民感情を考えると仕方がないと割り切ることが出来ていた。そのためか、私は物分かりの良い子供として通っている。まあ、その代わりに積極的に勉強したり、甘えたりする事もなくのんびり過ごしているので子供らしくない子供としても評価を得ていた。
私はその辺は気にしていないので、というかこの評価がある事を良い事に、のんびりした生活を過ごす事にしている。その生活に一部からクレームではないがのんびりしすぎている、という評判が立っているのも知っていた。
しかし、5歳の子供がのんびりした生活を送って何が悪いというのか? 普通じゃないかと思うが、この評価は姉が関係している。姉は勤勉な人なので、真面目な生活を送っていた。勉強や国の運営も真面目に考えているのである。自分が国の中枢にいることを自覚して、その責任を果たそうと頑張っているのだ。それは後継者になっている兄も同じで勤勉だ。
その二人と違って私は一日散歩をしたり、番犬の散歩に行ったり、厩舎にいったりとプラプラしている。お兄様やお姉さまと違ってと言われるのは必然だろうと受け入れる事にしていた。
私は前世持ちだ。日本での忙しい生活を送っていたので、今度も同じ生活を送るつもりはない。
私の国は自然に囲まれた穏やかな土地だ。そんな穏やかな土地で以前と同じような生活をするつもりはない。
記憶を取り戻した時に決めたのだ。
今度は穏やかな生活を送ると。後は実践あるのみ。
「きょうはきゅうしゃにいくわ。おうまさんをさわらせてもらうの」
私は5歳のわりに舌足らずな事を恥ずかしく思いながら厩舎に行く事を侍女さんに告げていた。彼女は首を斜めにしながら、図書室を勧めてくる。読書という名の勉強をさせたい様だ。だが、雨の日や夜は必然的に読書になるので天気の良い日に、室内に籠るつもりはない。
人間は日に当たる事も重要なのだ。体内時計は日に当たる事で整うのだ。
「ほんはあめのひによむから。きょうはきゅうしゃにするわ」
「二の姫様。お姉さまは午前中は読書をされて、午後から外出されていました。二の姫様も午前中は読書をされるのも良いと思いますが?」
「わたしはおねえさまじゃないわ。おなじことをしないといけないわけではないでしょ? おとうさまがそうするようにいわれたの?」
「いいえ。そんなことは言われておりません」
「ではきゅうしゃにいってもいいわね?」
私は渋る侍女さんに文句の言われないよう、父親である国王の判断を持ち出し厩舎に行く権利をもぎ取る。侍女は渋い顔を崩すことは無かったが、私には関係ない。
朝食をすませ意気揚々と厩舎へ向かう。
兄や姉が優秀だとその下は苦労するのだと実感していた。こんなに比べられると捻くれた子供になるのだろうと想像できる。私は大人の記憶があるから気にしないが、デリケートな子供は評価を気にする。敏感な子供になるだろう。
「これは二の姫様。いらっしゃいませ」
「おはよう。おうまさんをなでてもいい?」
「今ブラシをかけていますので。その後でも良いですか?」
「もちろん。おしごとのじゃまはしないわ。みててもいい?」
私の質問に了承をもらい、馬丁さんの仕事を眺める。丁寧に馬にブラシを掛けながら蹄のチェックをしていた。私はその丁寧な仕事に感心する。馬房の外から馬を眺めていると馬の方も私が気になるのか鼻をひくひくさせながら首を振っていた。
厩舎にいる馬はサラブレッドという感じはなく、ポニーよりは大きいけどサラブレッドよりは小さい。という感じだろうか。馬の種類は詳しくないが可愛いからそれでいいと思う。
撫でたい。馬が可愛すぎる。
私は手がうずうずするのを感じながら馬丁さんの仕事が終わるのを待つ。仕事の邪魔をしてはいけない、という自制心をフルで働かせていた。だが、私がうずうずしているのは丸わかりなのだろう。馬丁さんは笑いを堪えながら許可をくれた。
「二の姫様。どうぞ」
「いいの? しごとはおわったの? じゃまをしていない?」
「大丈夫ですよ。こいつも撫でてもらいたいそうです」
私の前にいるお馬さんも私の方へ首を伸ばしてきていた。それを良い事に私も手を伸ばす。が、届かない。私の背が小さくて『ちーん』という図式になっている。自分の身体の大きさを見誤ったための悲しい図式だ。
馬丁さんは私の横で噴き出したいのを堪えているのがわかる。口元に拳をあてて耐えていた。少し噴き出す音が聞こえたのは気のせいと思いたい。
私は自分の失敗を誤魔化すようにお馬さんに歩み寄り、もう一度手を伸ばす。今度も手が届きそうで届かないのだが、お馬さんも気を使ってくれたのか、私の方へ首を伸ばしてくれた。
思ったよりも硬い毛の感触がするが手触りが良い。艶々した感じだ。その感触を楽しみつつお馬さんに話しかける。
「きれいなけなみね。いつもぶらしをかけてもらうからきれいなのね」
その言葉に気をよくしたのか顔をぐりぐり押しつけてきた。私も嬉しくなって更に撫でようと思ったのだが、5歳の子供では限界があった。お馬さん的に手加減してくれていたのだろうが、私には圧が強かったのか、ぺたんと尻もちをついてしまったのだ。
「「二の姫様」」
馬丁さんと私に着いてきた侍女さんが焦って声を上げる。
大きな声を出さないで頂きたい。お馬さんが驚いてしまう。私はそんな事を想いながら立ち上がりお尻の汚れをポンポンと払う。侍女は私の傍により怪我がないか確認をし、きつい目をしながら馬丁さんを振り返る。
これは馬丁さんを責めるつもりだな。
私はその事に気が付き先に声を発する。
「ばていさんもおうまさんもわるくないわ。おうまさんはわたしとなかよくしようとしてくれたのよ。わたしがたっていられないなんて、おうまさんはわからないわ。ばていさんも、おうまさんがてかげんをするのがわかっていて、ようすをみていたの。こんかいはぐうぜんよ。わたしもけがをしていないし。もんだいないわ」
「二の姫様」
侍女さんは私の牽制に言葉が繋がらず、馬丁さんは上着の裾を握りしめていた。
「おしごとのじゃまをしてごめんなさい。またおうまさんにさわりにきていい?」
「もちろんです」
馬丁さんから色よい返事をもらい。もう一度お馬さんを撫でてからその場を後にする。
心配性の侍女さんは私に何かを言いたい様子だが、それを聞く気はないので、庭に散歩に出る事にした。
広い庭を歩きながら侍女さんに釘をさす。
「さっきのことは、おかあさまにほうこくしなくていいわ。けがもしてないし、だれもわるくないし」
「いいえ。二の姫様。お気持ちは分かりますが、わたくしには報告の義務がございます。怠るわけにはいきません」
彼女は言い切った。まあ、言いたいことは分かる。報連相は仕事の基本だ。
だが、5歳の私にその言いようはいかがなものか?
私のスローライフは始まったばかりだ。