学校生活の前に ④ /おまけ
いつも読んでいただいてありがとうございます。
登場人物が増え心情の閑話が増えています。
本編に入る前に必要ですので、もう少し
お付き合いください。
よろしくお願いいたします。
学校生活の前に 侯爵令嬢の場合
今日は入学式です。
いよいよ姫様が入学されます。
上級生の間でも噂、というのでしょうか。皆さん、姫様の事を気にされている様子が感じられます。本来なら入学式には総会の者以外は出席する事はないのですが、姫様の様子を見たいのか理由を付けて学校に来ようとする生徒が多数いました。
もちろん、そんな事は許されません。
入学式の日に登校するには許可が必要で、先生たちからも総会からも登校許可を出すことはありませんでした。
役員の一人であるわたくしは当然登校しますし、入学式の進行もします。
姫様が最優秀クラスで首席である事を、わたくしは知っていました。姪っ子さんがその二つ下のクラスである事も知っていました。席順の確認をするときに目にしていたので確認できたことです。
姪っ子さんは姫様と同じクラスになりたいと仰っていたので、さぞ残念に思っている事でしょう。せめて同じクラスにお友達が出来ると良いのですが。
姫様もさぞ心細い思いをされていると思います。同じクラスに知り合いがいない事になるのですから。誰も知り合いがいないのは寂しく辛い事です。
お友達を作るにもきっかけが必要になります、それがなにもない事になるのです。
女の子同士は敏感です。なじむまで時間がかかるでしょう。同じクラスの方達と仲良くなれると良いのですが。心配になります。
入学式で姫様の様子を拝見しました。首席である事に気が付いておられないのでしょう。自分が端の席に誘導された意味に気が付いておられないようです。
その事よりも校長にエスコートされたことを問題視されている様に感じました。笑顔を浮かべておられますが、わたくしがご一緒させて頂いたときの表情とは別人のようです。今のお顔は外向きの笑顔なのでしょう。
姫様はとても素直な方で、自分が信用された方には感情が素直に表情に出てしまわれるようです。わたくしも初めはその事に気が付きませんでした。
わたくしの前では表情を取り繕っておられた事もあり、気がつくことに時間がかかったのです。
気が付くきっかけはお菓子作りのときや外出の後からです。表情の違いに気が付くと姫様の感情の豊かさがわかる様になりました。特に筆頭様や隊長様の前では表情が豊かになる様子が伺えます。
隊長様も姫様の前でだけはお優しい言葉使いをされているようです。わたくしたちの前とは大違いです。姫様はその違いにお気づきなのでしょうか?
いえ、きっと気が付いておられると思います。あの姫様の事です。【他の人にも優しく】と顔をしかめながら言っておられる姿が想像できます。
あの隊長様がそのように注意されている姿を想像すると、おかしくなってしまいます。
姫様がわたくしの前でも表情が柔らかくなった事に気が付き、実感したときは嬉しくなってしまいました。姫様が気を許してくださったような気がしたのです。
立場上そのような事は聞けませんが姫様と交友を深めていければと思っています。
その上で学校生活が心配になっています。姪っ子さんとはクラスが違いますし、わたくしは学年すら違います。時折お訪ねする分には問題ありませんでしょうが、あまり関わりが多くなると姫様がお友達を作る弊害になりかねません。
ですが、姫様が簡単にお友達ができるかは難しいのではないかと気が付くと、なにかお手伝いが出来ないかと考えてしまいます。
最優秀クラスはプライドの高い者たちが集まっています。
家庭教師がつきっきりで勉強を教え、家柄に恥ずかしくない順位になるように言われている生徒が多いのです。特にクラス内での最下位となる生徒のプレッシャーは相当なものです。
わたくしは次席でしたのでそうでもありませんでしたが、殿下も成績を落とさないように注意されていることは知っていました。家柄的に首席以外はだめだと自分に言い聞かせている、となにかのはずみで聞いたことがあります。
成績が全てではないと思いますと、お友達にもお話ししたこともありましたが、成績が良いからそういうのだと、遠回しに言われたこともありました。
そんなこともあり、わたくしもお友達とは表面上のお付き合いでしかありません。そんなお友達でも作るのも苦労したものです。
そう思うと姫様はもっと大変かもしれません。肩書的には問題ありませんが、姫様のお国は小さいと耳にしたことがあります。その事で下に見る者もいるかも知れません。
陛下の対応を考えればそんな事をすると問題になることは理解できるはずですが、学校の中だからわからない、と思う者だっているのです。
わたくしは姫様の事が心配でなりません。なにか良い案はないかと考え、一つの事を思いつきます。
この方法が上手くいくかはわかりません。わたくし自身の立場を少しばかり利用するものではありますが、いつもこの立場のことで嫌な思いをしてきたのです。
今度ばかりは利用したって問題は無いはずです。
わたくしはそう思い、姫様のお立場が少しでも楽になれば良いと思い実行する事にしました。
おまけ 姪っ子ちゃん一家の場合
「残念です。お父様たちにも入学式に来ていただけると思っていましたのに」
「仕方がない。昔からそうだったからな」
「でも、頑張ったわね。良いクラスに入れたのだから」
姪っ子ちゃんの両親は嬉しそうだ。自分の娘が思ったよりも良い成績で入学できたのだ。口々に姪っ子ちゃんを褒め頭を撫でている。
入学式の前に席次の案内が来ていた。卒業生たちはその席順で大まかなクラスが推察できる。姪っ子ちゃんの両親も管理番も卒業生だ。席次の案内で姪っ子ちゃんの頑張りが理解できたのだ。
嬉しそうな両親と対照的に姪っ子ちゃんは入学式に誰も来れない事をがっかりしているが、少しだけ期待もしている。思ったよりも良い成績だったので、もしかしたら姫様と同じクラスになれるかもしれない。それを思うと勉強を頑張って良かったと思っていた。
今夜は明日の入学式を祝ってちょっと豪華な晩餐だ。その席には管理番も呼ばれている。管理番の休みに合わせたので今夜の晩餐となったのだ。
姪っ子ちゃんの成績が良くなったのは管理番のおかげと理解しているからだ。
管理番も姪っ子ちゃんが頑張ったのは理解していた。姪が姫様と同じクラスになりたがっているがその夢が無理な事を理解していた。だが、この席でその台詞が相応しくない事も。
なにせ、お祝いムード満載の晩餐だ。姪っ子ちゃんもその両親も良かった良かったと喜んでいるのだ。もちろん管理番も喜んでいる。家庭教師代わりをしていたのだ。いつもの成績よりも上がりクラスも良いところに入ったのだ。嬉しくないはずがない。
ただ、姫様と同じクラスになるには無理だと理解しているだけだ。
隊長様や筆頭様が教師となり、その二人から教えることがあまりない、復習だけで十分だと判断されている姫様だ。最優秀クラスで首席は間違いないだろう。明日はがっかりするのだろうと思うと姪が気の毒な管理番だった。