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学校生活の前に ③

 新配属女性騎士さんの場合


 「どうぞ、こちらでございます」

 一人の女性騎士が侍従に案内されながら離宮の中へ入っていく。


 その女性騎士は平常心を装っていたが内心は戦々恐々としていた。

 彼女の身分では離宮に入ることなどできないのだ。そして、自分がこの中に入る理由がわからない。

 離宮勤めは厳選されたメンバーで構成されている。下働きに至るまで身分調査がされ身元引受人まで確認されている。勿論、その身元引受人の身上調査もされているのだ。最後は、当然の様に宰相閣下か隊長様、筆頭様のうちのどなたかの面接がある。本人が離宮配属を希望しても簡単に許可はおりない。身辺調査の所で落とされるか、面接で落とされることがほとんどだ。

 基本的には選ばれた者のみが面接を受けるのだ。そのためか離宮に務めるのは王宮に務めるよりも難しいと言われるほど厳選されている。

 詳しい理由は明かされていないが姫様の保護が目的ではないかと噂されている。なぜならその姫様の姿を見ることが少ないからだ

 そしてそれだけ保護されている姫様自身の噂はあまり広まっていない。いや、外側の噂は広まっている。殿下の婚約者候補。小さい方で料理をされるとか、厨房に乗り込んだとか、そんな噂は聞いているが姫様自身を見たことがあるという話は多くはない。

 正式な場に出てこられたのはデビューの時だそうだ。

 その時の姫様は落ち着いた装いをされており、とても穏やかな様子で、感じの良い方だとか。一部の話では地味だとか、場に相応しくない装いをしていたとか言っているようだが、実際は姫様にケチをつける部分がなかったので、そんな事を言っているようだ。

 その話をまとめると、あまり問題のある方のようではないようだ。だが、女性騎士は自分が呼ばれる理由はわからない。


 言ってはなんだが、彼女の身分はあまりよいものではない、良くもないが悪くもない。注目されるような家柄ではないのだ。彼女が騎士になったのも生活のためだ。家は大きくないため弟が継げば自分の行き場がなくなるので、騎士になったのだ。

 家族からは反対され婚姻を勧められ、お見合いもさせられた。だが彼女は相手が気に入らず断っていた。本来なら断ることは出来無いのだが、相手もお見合いに気が乗っておらず話し合いの上断ることが出来たのだ。彼女の両親もそれ以上は強引に婚姻を進めるような事はなかったので助かった。

 自分では今の生活は問題ないと思っている。新人の頃は女性の騎士が少なく大変な思いもしたし、同僚の男性騎士から嫌味も言われたりしたが、時間が過ぎるうちにそれも無くなっていった。今では問題なく任務もこなすことが出来ている。

 女性である事と身分の関係で、これ以上の出世は望めない。ただの騎士団の団員である。だが、自分の収入で自立して生活が出来ているのだ。可もなく不可もなく今の生活が気に入っているのだ。


 彼女は自分の立場を振り返る、やはり自分の立場上、呼び出される理由が分からない。思い当たらないが何か問題を起こしてしまったのだろうか? それで呼び出されたのだろうか?

 だが、呼び出されるのなら上司の部屋のはずだ。離宮に呼ばれるはずもない。

 そうして不可解な事を自分で解析をしながら歩いていると一つの部屋の前に案内される。


 案内されて通った場所は当然ながら裏方だ。実用的な部分なので華美な装飾はない。指示されたドアも大きなドアではあるが、装飾はなく実務的な感じだ。

 当たり前ではあるが、せっかく離宮に来たのなら綺麗な装飾を見てみたい気もしたが、そんな所に案内されたら、それはそれで大変な思いをするのだろうと考え直していた。

 

 正直怖気付いているので部屋に入りたくない。入りたくなくて色々な事を考えていたのだが、侍従に部屋に入るように促された。

 入りたくはないが侍従の手前と、自分の職業上入らないわけにもいかない。

 悲しいかな。彼女は騎士だ。上官の命令には従わないといけない。本日、彼女に与えられた命令は侍従の案内に従い、その場所へ赴く事だった。

 その侍従が入室を促しているのだ。命令を思い出す。入らないわけにはいかなかった。

 心を無にして命令を実行する。


 入室の許可と共にドアを開ければ、部屋の中にはこの国では知らない者がいないほど有名な人がいた。

 そう。彼女は騎士なのだ。その点から考えると目の前にいる人は当然と言える人物だろう。

 そしてこの離宮の主人を思い出す。そうなると行き着く先の答えは一つな訳で。 


 なんで? 私なの?


 女性騎士の疑問が解決されるのはもうすぐ。




隊長さんと筆頭の場合 (いざこざの後の二人です)


 「筆頭殿、心配をかけてしまったようだ」

 「いいえ。隊長様。無事に終わって安心しています。姫様は隊長様に申し訳ないと気にされておいででした。ですが、わたくしは今からの学校生活は、姫様が思っているような過ごし方はできないかと考えております。隊長様の心配は当然のことかと存じます」

 「筆頭殿も同じ考えのようだな」

 「はい。陛下の事もありますし、できるなら楽しい生活を、と思うのですが」

 「難しいだろうと思っている。どうにかして姫様に近づきたい者と、害意のある者だけだろう。純粋に仲良くなりたいと思う者はいないだろう。いや、いたとしても少数だろう。こうなると管理番の姪御の事も心配だ。管理番には姪への対応は伝えてある。令嬢の方は心配いらないだろう。あちらの対応は本人が慣れているだろうしな」

 「姫様へも対応をお教えするべきだとは考えてはいるのですが。もう少しご自身への警戒感を養って頂いてからのほうが良いかと思い行ってはおりませんでした。その関係もあり隊長様へもあのような反応になったのかと。そう思いますと、今回の件はわたくしにも問題があったのだと思います。申し訳ございません」

 「いや。それで良かったのだと思う。姫様は自分の事には無頓着な方だ。実感がないと反発されるだけだろう。次男の件もあり、私の方が気が急いたのだ。早く言わなければと思ってしまった。様子を見ながら行うべきだったのだ。反省している。姫様の言われることや心情は理解できるのだが、あのクラスでは危険な気がしているのだ」

 隊長の唇から自然とため息が零れる。

 姫様の事が心配でしかたがないのだ。その気持ちは筆頭も同じだった。

 「最優秀クラスですから。席次争いは熾烈ですし。仲良くなれる生徒ができるでしょうか? わたくしもそうですが、ある程度面識のあるもの同士から関わって行きますから」

 「そうでない生徒は何か理由があるものだろうしな。警戒は必要だろう」

 「はい。姫様には聞かせたくはないのですが、やはり知って頂く必要があるようです。折をみてお話させていただくようにします」

 「そうだな。その方向でお願いしたい」

 「かしこまりました」

 隊長さんと筆頭は真面目に姫様の方向性を検討していた。

 姫様の知らない二人の一幕。


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人質生活から始めるスローライフ2
― 新着の感想 ―
にこやかに過ごす事と警戒する事は両立する筈 外交やら政治の場なら、むしろそれが普通 貴族がどうとか言うなら、むしろそっちで良いはず 緊急時なら兎も角、そうでない場で護衛が護衛対象の目的を邪魔するのは…
[一言] 女性騎士さんの続き待ってます
[一言] 女性騎士さん回ありがとうございます。この国の階級社会の中での女性進出が如何に難しい事の典型的なモデル事例ですね。侯爵令嬢も才能はあるのに高位貴族家だからこそ家に縛られるというジレンマがあり、…
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