いざこざの後に/ 学校生活の前に
いつも読んでいただいてありがとうございます。
前回は急なお休みで失礼しました。
今回は閑話的なお話になります。
お付き合い頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
私は隊長さんとの初のいざこざも無事に解決し安心していた。
ホッとした気持ちのまま自室へ戻る。
今日は夕食も厨房へ依頼しているので慌てることなくゆっくりと過ごすことができる。隊長さんも通常に戻って私の後ろにいた。ちなみにあの女性騎士さんもいる。
女性騎士さんでは長いので、今度から騎士さんで良いのではないかと思っている。
私の部屋は広いが護衛の人が二人もいると若干暑苦しく感じるのは気の所為ではないと思う。だが、二人は多いというわけにもいかないので今日はこのままなのだろう。
普段は隊長さんは一人で、その他の騎士さんは部屋の出入り口に控えてくれる感じだ。部屋の中が手薄な分、外に多く配置している事になる。
一度その理由を聞いたら、部屋の外に多いと中も同じように多いと勘違いしてくれるのと、中に侵入する時間をかせぐことができるからだそうだ。加えて私は人が多いことを好まないことを考慮しての判断だそうだ。
隊長さんの配慮は行き届いていると感じてしまった。
ありがたいことだ。
私はそんな事を考えつつ新しい騎士さんに興味津々だった。
多分だが、私の護衛の中で女性は一人しかいないと思う。それぐらい珍しいのだ。だが慣れない人に図々しく聞くわけにもいかないし、上司に当たる隊長さんがいるので答え辛いとも思う。というわけで隊長さんに話を聞いてみよう。
「ねえ、隊長さん。女の人の騎士さんは多いの? 誰でもなれるものなのかしら?」
「珍しい事をお聞きになりますね?」
「だって女性騎士さん、って初めてだから。普段も見かけないし」
私の興味津々の質問に隊長さんは目を丸くして聞き返してきたので、私も正直に答える。興味本位と感じているだろうけど嫌な顔もせず女性騎士誕生までを教えてくれた。
「そうですね。学科を卒業して試験に合格すれば資格は得られます。ですが、その試験が大変なので数が少ない、というのが本当ですね」
「試験があるの?」
「勿論です。身分は問いませんが身元引受人の審査もありますし、面接もあります。誰でも良いのですが、誰でも良いわけではありません。特に護衛騎士となると違った部分で審査もありますし」
「どんな試験なの?」
「学力・マナー。この辺は他の学科と変わりませんが、騎士科の特徴で武力・体力といったところもあります。当然ですが強くなくては務まりませんので」
なかなか難しい話のようだ。誰でも良いが誰でも良いわけではない、真理だと思う。普通の騎士さんだけでなく、護衛となるとまた違った気の使い方があるのだろう。
その試験をパスしたこの騎士さんは優秀な人だという事なのだろう。
うんうんと私は納得し、女性騎士さんを眺め、隊長さんを眺める。
騎士さんを選んだ理由はなんだろう。女性というだけで選んだわけではないと思うし、それ以外の理由もあるのだと思う。その理由はなにか聞きたい気もするが本人がいる前で聞くわけにもいかない。
今度機会がある時に聞いてみようと思う。それにしてもこの騎士さんはどういう位置づけになるのだろうか?
普段の護衛は基本的に隊長さんが行っている。隊長さんが休みのときは代わりの男性の騎士さんが交代についてくれる形だ。
この騎士さんも交代で護衛に付いてくれるのだろうか?プライベートな部分の護衛をしてくれると言っていたけど、騎士さん一人だったら交代の時はどうするのだろう?
女性騎士さんを増やしたりするのだろうか?
地味に疑問だ。護衛の配置は隊長さんの領分で私には分からないし、基本的には筆頭も口を挟むことは無いはずだ。隊長さんの考え一つだ。
ちょっと気にはなるが隊長さんの判断に任せよう。
余談だが、隊長さんの基準はわからないが私の護衛にきてくれる人は基本的にみんなイケメンだ。これは個人の基準があるのでなんとも言えないが、私はそう思っている。
ちなみに、この騎士さんも美人さんだ。筆頭とは違う系統の綺麗さがある。
筆頭は優しげだけど芯の強さを持った綺麗さを持っていると思うし、騎士さんの方は生命力に溢れた力強い美しさがあると思う。どちらも私にはないものなので羨ましい限りだ。
私はないものねだりをしながら、お腹がすいてきたことを自覚する。
そうなると夕食が気になって仕方がない。
今日の夕食はなんだろうか? 厨房がはりきっていると侍女さんから聞いている。楽しみで仕方がない。
学校生活の前に 厨房の場合
「料理長。離宮からの連絡です。筆頭様からなのですが、姫様が入学されたので、それに合わせた食事をお願いしたいとのことです。急にお願いして申し訳ないと一言添えてありました」
副料理長の言葉に厨房全体が色めき立つ。厨房全体で、離宮からの姫様からの依頼を今か今かと待ち受けていたのだ。
待望の依頼だ。それも筆頭様直々の依頼である。ということは、姫様から直接の依頼といっても過言ではないだろう。料理人たちも姫様の好意を忘れてはいなかった。
料理人たちは急な依頼とか、時間がないとかは一切気にしていなかった。厨房の威信にかけて姫様に褒めていただける料理を作ろうと気合いが入る。
それは料理長も同様だった。
陛下には申し訳ないが、今日ばかりは姫様を優先しても良いだろうと、ちょっぴり不敬な事も考えていた。もちろん、そんな事は口にできることではない。
だが、そう思っていても誰も責めはしないだろう。
なぜならその気持は厨房全体で共有されているものだからだ。
副料理長も気合が入っている。
「料理長。どうしましょうか? 姫様がお好きなものを作るか、姫様が普段目にされないような豪華な料理にするか。どちらかだと思います」
「そうだな。しかし、今日は入学式にふさわしいものを、と筆頭様からの依頼だ。姫様のお好きな料理を入れつつ、少し華やかな飾りをしようと思うが、どうだろうか?」
今までの料理長ならこんな事を聞くようなことはしない。
決定権は料理長にあるのだ。自分で考え、自分で決定するのが常だった。しかし、見習いの一件以降料理長にも変化があった。
自分の説明不足と傲慢が誤解を生んだのだ。それを改める必要があると考えていた。その対策は自分の考えを部下に相談という形で話すことで考えを共有する事を思いついたのだ。
そうすることで誤解を防ぎたい考えだ。それは概ねうまくいっていた。
初めは戸惑う者も多かったが、最近は慣れてきたのか、逆に彼らから相談されることも増えてきていた。
それは良い変化のようにも思えるし、新しい刺激を産んでいると思っている。
現に新しい料理や故郷の料理をまかないという形で披露されるようになっていた。そうすることで今までと違う風が吹いているのである。
料理長は今までの自分がいかに驕っていたのか痛感していた。
姫様のおかげで厨房も新しくなったのだ。その成果をお披露目したいという思いもあった。
料理長と副料理長は気合を入れてメニューを用意する。
他の料理人たちも協力体制は万全だった。
「失礼いたします」
料理長と副料理長が配膳係と一緒に入ってくる。
姫様は驚いていたがもっと驚いたのは運ばれてきた料理だった。
それは家庭料理と一線を画すものだった。『お祝いに相応しいもの』を、と言われただけのものであった。二人は姫様が目にしないメニューにしようと試み、それは成功していた。
加えてメインの料理には姫様が好きな物をということで当然コロッケも入っていた。
勿論サラダやスープなどの副菜も忘れてはいない。
厨房の気合の入った料理は姫様の度肝を抜いていた。
そして華やかな料理に目を奪われ笑顔をみせている。
料理長はその笑顔を見て満足した。
どうやら姫様に気に入っていただけたようだと安堵していた。