筆頭の配慮
いつも読んでいただいてありがとうございます。
私も皆さんのコメントを楽しみにしています。
励まされたり、新たな視点を頂いたりと気付きを頂くことも多くあります。
これからもよろしくお願いします。
「姫様。いまごろ隊長様は落ち込んでおられると思います」
「隊長さんが? どうして?」
彼が怒るのならともかく、落ち込む理由があるだろうか?
私は頭の上にクエスチョンマークを並べながら聞き返す。筆頭は唇の両端を上げながら隊長さんの気持ちを推察していた。
「姫様は今まで、隊長様以外の付き添いをお願いされたことはありません。ですが、今日は馬車を自分で降りられました。隊長様の付き添いを断られたのと同じことです。隊長様のショックは大きいと思います」
「そうなるの?」
私は筆頭の言葉に先ほどと同じ言葉を返していた。隊長さんを拒否したつもりはないけど、知らず知らずにそんな事をしていたのなら申し訳ない気分になる。
筆頭の言葉は続く。
「はい。今頃は頭を抱えていらっしゃるかと。姫様に嫌われたのだろうか? 信頼を失くしてしまったのだろうか? 自分の何が問題だったのか、と考えていらっしゃると思いますわ。隊長様なりに姫様の事を真剣に考えていらっしゃいます。苦言を呈しても、姫様はその事も受け入れてくださると信頼されています。その事を疑った事はないと思いますわ」
「勿論よ。苦言はいつでもありがたいと思っているわ。今日の事だって言われる意味はわかっているの。問題はそこじゃないわ」
筆頭は私に理解を示しながらも、諫める立場を変えることはしない。ありがたい事だ。私は苦言を呈してくれる筆頭に感謝しなければ。
「ええ。理解しております。姫様自身を警戒されていたことが悲しいのですものね。ですが、隊長様はその事をご存知ではありません。知らなくては理解はできません」
「そうね。その事で理解を求めなかったし、本人には言っていないわ。自分の言っている事が子供じみていて恥ずかしくて言えなかったの。隊長さんの立場で初対面のときは必要なこと。それをくどくど言う私が間違っている。分かっているの。後で隊長さんに謝らなきゃ」
「よろしいのですか? 姫様のお立場では自分に合わせろということもできますが?」
筆頭は私を試したいのか、私の言う事の反対の事を言ってくる。誘惑をしているのだろうか。
自分は悪くない、悪くても相手に合わせろと言うのは楽な事だ。人間は楽な方へ流されやすい。だが、楽な事は往々にして良い結果は生まれないと思っている。
それにもう一つの信念、と言うほど立派なものではないが、自分に恥ずかしい人間にはなりたくない。
「そんな最低な人間にはなりたくないわ。私は立場で物事や考えを強制したくないわ。立場で考え方が変わるのも理解しているし。人が間違えることがあることも。そう考えれば今回は私が間違っているわ。彼の立場では必要なことだし。その事を私が受け入れることはできなくても理解を示す必要はあると思っているの」
「その御心を大事になさってくださいませ」
筆頭は満足そうな笑顔を浮かべ私の背中を後押ししてくれる。
私は湯舟から立ち上がり、隊長さんに会いたいと言伝を依頼する。
筆頭からは了承の返事があった。
私は今、護衛騎士さんの詰め所へ向かっている。
筆頭からは隊長さんを呼び出してくれると言われたのだが、今回の件は私にも非があるので会いに行く事にしたのだ。
軽々しく出向く場所ではないと言われたが、関係改善のために会うのに呼び出すのはいかがなものか?
筆頭にその旨を説明すると、確かにと思ったのか、私だから諦めたのか、それ以上の反論はなかった。
了承がとれたので詰め所へ向かう。
だが、詰め所へ向かう距離の長さに離宮の広さを感じる。
控室そのものは私の部屋の近くに小さいものがあるのだが、本格的なものは離宮の裏方にあたる部分にあるそうだ。
筆頭もあまり出向く場所ではない場所だと教えてもらった。そこへ護衛騎士さんの案内で歩いて行く。
その騎士さんも本当に良いのだろうかと不安げな表情だ。
確かに私のような人間が出向く場所ではないのだろう。隊長さんから怒られないか不安そうだ。私が説明するからとなだめつつ進んでいく。
ちなみに、この騎士さん最近新たに配属された女性の騎士さんだ。初めて会ったときは女性でも騎士さんになれるのだと驚いてキョトンと彼女を見つめてしまったのを覚えている。
彼女は驚いた私に微笑みながら、高貴な女性をプライベートな場所でお守りする事が必要なときもあるのでと、と教えてくれた。
プライベートって、と不思議だったけど入浴や着替えの時に必要なのだと理解した。仮縫いのときにはいなかったので、私がデビューすることによって大人へ近づいていることを感じて、必要だと判断したのだと思う。
そう考えると隊長さんは私の成長に合わせて配慮してくれているのだと思う。
私はその判断にふさわしい上司であり、大人であることを示さなければいけないと思う。
自分の感情に振り回されるのではなく、感情と必要性を分けて考えられる人間にならなければならない。これは人の上に立つために必要な考え方だと思う。
私は先程までの子供っぽい態度を振り返り、反省する。
隊長さんも筆頭も優秀な人達だと思う。私にはもったいない人たちだ。
その二人は私に真摯に向き合ってくれているのだ。二人に恥じない上司であり、この人に付いていて良かったと思われる人で有りたいと思う。
その第一歩として隊長さんに謝らなければ。
そうは思うが不安はつきまとう。
「許してくれるかしら?」
「大丈夫ですわ。隊長様も気にされているはずですから、姫様がおいでになればホッとされると思います」
「そうだと良いのだけど」
私は先程までの怒りはどこへやら、自分のしたことが恥ずかしいことだと気がつくと許してもらえるか心配になりながら歩いていく。
しょんぼりと肩が落ちてしまう。その肩を大丈夫だと撫でてくれる筆頭がいる。
その行為に勇気づけられながら逃げ出さないように、これは自分の失態だと繰り返し考える。
自分の不始末は自分で片づけなければ。
私が反省を繰り返していると控室に着いてしまった。いくら広くてももんもんとしている間に着いてしまうものである。
着いた部屋、ドアは地味な感じだった。隊長さんがいる部屋にしては地味だと思ったが、実務のための部屋なので問題ないのだろう。
私がドアの観察をしている間に、女性騎士さんがノックをしている。
中から応えがあり女性騎士さんは素直にドアを開けていた。
「失礼します。姫様がおいでになりました」
なんの段取りもしていなかったので、女性騎士さんは素直に私の訪室を告げていた。
初対面のとき以外、隊長さんに緊張したことのない私だが今日は若干緊張していたので、焦ってしまう。
だが、言われてしまった事は仕方がない。私は素直に女性騎士さんの後ろから出る。
今回は姫様の落ち込み具合を感じていただけたらと思います。
反省しているせいか、かなりしつこい感じになってしまいました。
それだけ落ち込んでいるのだと思っていただけたらとご理解ください。