入学式 ④
いつも読んでいただいてありがとうございます。
今回は少し短めです。
話の切れ目の関係で短くなってしまいました。
お付き合い頂ければ嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
教科書が配られ生徒同士の挨拶も終わり、ホームルームも終了だ。
姪っ子ちゃんはどのクラスなんだろう。できればクラスだけは知っておきたいのだけど、その方法もわからない。他のクラスに勝手に行っても良いのかわからない。今度会った時にクラスを聞くしかないだろう。
仕方がないので私は車寄せに向かう。
迎えに来ているだろう隊長さんを待たせてはいけないと思ったのもある。
だが、教室を出て大きな問題に気がついた。どっちに向かえば良いのだろう? 何を隠そう、私は方向音痴なのだ。あの離宮もマッピングをするのに時間がかかった。毎日歩けば覚えるのだが、それまでは右も左もわからない状態だ。
教室のドアを出て困ってしまった。どうするか? 考えても道は分からないので、こんな時は来た道を戻るのが王道だ。私は時間がかかるのを承知の上で一度講堂に戻り、そこから車寄せに向かうことにした。
どうするか決めると行動は早い。
私は右を向き、歩き出そうとすると声がかかる。
「姫様。話しかける失礼をお許しください」
「どなたかしら?」
かかった声に振り向くと、隣の席。伯爵家の次男くんだった。
「あら? あなたは隣の席の?」
「はい。お声掛けさせていただく失礼をお許しください」
「かまわないわ。なにか御用かしら?」
「はい。姫様。そちらは実習棟になりますが? 一年生は実習棟を使用することはありません。そちらになにかありましたでしょうか?」
「あら。そうなの」
私は講堂に向かうつもりで違う方に進もうとしていたらしい。
これは困った。どうするか? 普段なら素直に道案内を目の前の彼にお願いするところだが、この子の事を私は何も知らない。クラスメイトだが、いきなり道案内をお願いしても良いものだろうか? めんどくさがりの子であれば嫌がられるのは間違いない。
いや、身分的に私を相手に拒否は出来ないだろうが、パワハラは良くないと思っている。拒否できない以上はパワハラ案件で間違いないはずだ。どうしようか?
だが、ここでウジウジしていても車寄せには着けない。彼にお願いして良いものか考えていたが、私には選択肢がなかったことに気がついた。
無闇矢鱈に動いたら迷子は確実なのだ。
「そうなのね。私は車寄せに行きたかったのだけど。違う方向に行こうとしてたようだわ。あなたは場所をご存知かしら?」
「はい。よろしければご案内させていただきます」
「お願いするわ」
次男君は気を悪くする様子はなく、私を案内してくれるようだ。
同級生が気の良い人で良かった。しかし、これで明日のクラスには私の方向音痴は知れ渡るだろう。
口止めをするわけにもいかないし、仕方がない。事実だし。諦めよう。
私は次男くんの誘導に従いながら車寄せを目指す。次男くんは曲がる目印を教えてくれながら車寄せへ向かってくれた。はっきりと伝えたわけではないが、方向音痴は感じてくれたのだろうと思ったら理由は違ったようだ。
「姫様のような方が、お一人で歩かれる事はないので不便を感じていらっしゃるのではないですか?」
「そうね。一人で歩くのは初めてかもしれないわ」
そうなのだ。今言われて気がついた。私はこの国に来てから一人で歩くことはなかった。離れの頃は本当に監視の意味で侍女長が付いてきていたし。離宮になってからは心配性の隊長さんが私の傍を離れることは殆どなかった。隊長さんがいないときは筆頭がいるし、一人でいるときは寝るときぐらいだろうか?
なるほど、今日講堂に行くときに隊長さんが付き添いに拘ったのは、私が一人で歩くことがないから大丈夫か心配だったのかもしれない。
返事をしながら心配性の隊長さんの真意に気がついた。
そうこうしていると見覚えのある場所が見えてきた。車寄せだ。
その車寄せは広いターミナルのような場所になっていて、馬車で通う生徒が多いことを示している。そして停められる場所は身分によって決まっているのだそうだ。次男くんが教えてくれた。
次男くんは場所が決まっているので安心です。みたいなことを言っていたが、決まった場所でないと問題が起こったのだろう。こんなことでも、とも思うがお貴族様は体面を保つのが大変らしい。舐められては困るのだろう。
ニコニコしている表情とは違い、お腹の中は真っ黒な事を考えてしまった。これはクラスメイトには言えないことだ。
私が乗って来た馬車が見える。当然の様に一番乗り降りのしやすい場所に止めてある。そして目立つ。キンキラだ。
私はこの馬車しか知らなかったが、他の馬車と見比べるとキンキラ具合が違うことに気がついた。
これしか知らなかったから比べられなかったけど、私が使っているのってかなり派手なのね。
その事実に気がつくと冷や汗が流れてきそうだ。次男くんは気にした様子もなく笑顔だ。
「姫様の馬車は到着しているようです。安心しました」
「案内、助かりました。お世話になったわね」
「いいえ。お役に立てて嬉しいです」
次男くんは照れたように笑ってくれた。
自分に出来る事で褒められたので嬉しかったのだろう。私にも覚えがある。自分に出来ることで褒められると嬉しかったものだ。その様子が微笑ましくてニコニコしていると隊長さんが迎えに来てくれた。
「姫様。何事もなかったようで何よりです」
「隊長。入学式に出席しただけよ?」
隊長さんの大層な出迎えの言葉に驚きながら返すが、隊長さんは私の言葉を聞いていなかった。私の横にいる次男くんを見ている。その視線に次男くんは慌てて挨拶をしていた。