入学式 ③
隣の男子と微妙な空気になりながら入学式が始まる。
迂闊な事に、私は入学することが目標になっていて学校の作りや内容を気にしていなかった。学生数やクラスの数、クラスの人数など、まったく気にしていなかったのだ。
まあ、入学出来れば後は追い追い分かるだろうと、開き直る事にした。
定番の祝辞や先生の紹介などがあり、順調に式は進み学校長の挨拶がある。新入生代表挨拶はないらしい。
だが困った事というよりも、ありえない事があった。なんと学校長の挨拶の中で私の紹介があったのだ。
冗談ではない。私は他の生徒と同じ扱いを望むと言ったばかりなのに、私の紹介なんてすれば他の生徒と仲良くなれなくなるじゃないか。
私は叫びたいのを堪えながら、他の生徒の視線を一身に浴びる。学校長の紹介の後、生徒が私の方を見たからだ。
私は多くの視線に怯みかけたが、ここで慌ててはいけない。【私は女優】という呪文を脳内で唱えながら微笑を浮かべ、立ち上がり軽く膝を折る。胸の内では【覚えてろよ学校長】と思いながら笑顔の仮面、その表情をキープする。
こういう場面では不自然ではないので、周囲を見渡しながら姪っ子ちゃんを探す。人が多すぎて見つけることが出来なかったのが残念だ。
まさか、入学式に来ていないとか? そんな事はないだろう。
見つけられない事を残念に思いながら、視線を学校長に戻すと挨拶が進み終了する。これで入学式は終了だ。
後はクラスに入り、授業の内容や先生の話があるらしい、要はホームルームという事だろう。担任の教師の誘導に従いながらクラスへ移動する。
当然ながら講堂の席はクラスごとに分かれていたようだ。この年齢なら移動中は隣の子とお喋りをしながらの移動が普通だが、家庭の教育が行き届いているらしい。無駄なおしゃべりをする子はいない。話声は聞こえてくることは無かった。その中で話しかける勇気のない私も黙々とクラスへ移動する。
クラス内の席順は講堂と同じという事で私は窓側の席に座る。
窓側と言うが私の席には窓はなかった。壁、というか柱があり外は見えなかった。この席で外が見えたら楽しかっただろうな、と思いながら先生の話を待つ。
生徒が順に席に着くと先生の話が始まる。話の内容はごく一般的な内容だ。
授業内容、時間割、期末試験の説明。
そしてなんと、期末試験の結果で学期ごとに生徒の入れ替わりがあるそうだ。
私は初めて知ったのだが、クラスは成績順上位から一クラスごとに分かれるらしい。
一クラス30人。期末試験の点数が下から5人~10人が入れ替わるらしい。人数がはっきり決まっていないのは同じ点数の人がいた場合はその人数ごと、移動させるからだそうだ。なかなかシビアだ。
私のいるこのクラスは最上位クラス、進学校で言う特進クラスにあたるそうだ。そう言う理由で他のクラスの授業内容とは少し違うらしい。
特進クラスらしく中身が濃いらしい。らしい、というのは私に実感がわかないのだ。その理由は内容がそう難しいものに感じないからだ。
隊長さんや筆頭から勉強を教えてもらっていたが、内容が理解しやすいもので、難しく感じた事がなかったからだ。そして衝撃の事実。私は首席だったらしい。
だから一番端の席だったようだ。なんてことだ。と一瞬思ったが、ラノベあるあるだ(前も同じことを思った気がするが)甘んじて受け入れよう。
それに私の成績が悪ければ隊長さんや筆頭の評判が悪くなる。私が原因で二人の評判が悪くなるのは遠慮したいのでこれで良かったと思う事にしているが、もう一つの問題が浮上する。
そうなると私は成績を落とせないという事だ。私の席次が落ちたりクラスが変更になると、二人の教え方や先生の授業内容が問題になるだろう。
先生の話を聞きながら首席をキープしていかないといけない事を私は悟った。そして、前世の生活では予習復習なんてした事なかったし、試験勉強なんて一夜漬けが基本だったのに、今回の生活では真面目に勉強をしないといけないようだ。なんてことだろう。スローライフを望んでいたのに勉強をしないといけないなんて。
泣きたい気持ちになりながら周囲の生徒を確認する。席順も成績と関わる。
私の横は先程の男の子だ。縦に並ぶと思ったら、横の席順となるようだ。席次の良い生徒は前でよく授業を聞けるようにという事なのだろうか? それなら逆にして成績の底上げをした方が良いのに、と思ってしまう。
学校側にはなにか考えがあるのだろう。
勉強生活が決定したので脳内逃避してしまう。そうでもしてないとやってられないからだ。だが、不思議なことに成績順と言う割にはキレイに男女交代で並んでいる。こんなにキレイに交代で成績順になれるものだろうか?
頭を捻りながらも先生の話は続き、終わりを迎える。やっと終りと思ったら、私の早とちりだった。
学校入学定番の自己紹介というやつである。私の紹介なんていらないんじゃないの? 講堂で学校長がぶちかましたよね? と思うものの、端から順に、と言われれば逆らうわけにもいかない。私は温厚なので流れには従う主義だ。要は事なかれ主義、とも言う。
私は立ち上がりクラスメイトの方へ向き直る。【クラスメイト】この単語を使う日が来たのだ、と少しばかりの感動を覚えながら自己紹介をする。
だが、大げさなものではない。出身国が違うこと、慣れないのでよろしく、ぐらいの挨拶である。仲良くしてください、と付け加えたかったがこの単語は筆頭からNGワードとして指定されているので使えない。
軽々しく言ってはいけないと釘を刺されているのだ。ついでに入学式に向かう馬車の中でも隊長さんに念を押されている。あの二人が禁句指定しているので、それに逆らうほど私は勇気はない。
私の挨拶が終わると隣の男の子だ。彼は伯爵家の次男だそうだ。将来は騎士職を目指しているそうだ。次男だけに家を継がなくて良いので目指せるのだろう。そう思うと生まれ順も人生に大きく作用するのだな、と思ってしまった。
良かった、私は女の子で三番目だ。おかげで自分の好きなように生きれるな、と考えたが私は人質だった。大事なポイントを忘れていた。人生好きなように生きる以前の問題だった。
最近、大事にされている、と思うことが増えてきたので根本を忘れそうになっている。
気を引き締めないと。
私は他の人の挨拶を聞きながら自分の立場を思い出し気を引き締めることにした。