入学式 ②
無事に学校に到着する。
隊長さんの介添で馬車から降りるが隊長さんの心配顔は変わらない。というか追加で不満顔にもなっていた。
隊長さんは心配性だと思っていたが、ここまでとは思っていなかった私はもう一度心配ないと言わなければならなかった。その言葉に渋々頷いていたが納得はしていないようだ。だが、付いてくるとは言わなかった。
私はその隊長さんの様子に満足し、入学式の場所を確認しようとしていたら、思いもよらぬ人が登場する。学校最高責任者のお出ましだ。
まさか学校長の出迎えを受けるとは。私的にはまさか、という気分だったが隊長さん的には当然なのか、睥睨するかのように学校長を見ている。
学校長の挨拶を受けながら不安に駆られる。この流れで行くと私はこの人の案内を受けるのだろうか? それは遠慮したい。
だが、不安に思うときほどその予感は当たるものだ。
「姫様。お初にお目にかかります。わたくしは学校長を務めております。今後、姫様が不自由のないよう努めさせていただきますので、ご安心くださいませ。どうぞよろしくお願いいたします」
「初めまして。学校長。こちらこそよろしく。わたくしが聞いている範囲では、この学校は平等を旨としていると耳にしていたのだけど、間違っていたかしら?」
「いいえ。姫様のおっしゃられる事で間違いはありません。ですが姫様は異国の方。慣れないことや戸惑うことも多いかと考えましたので。お助けできる事があればと」
「それで付き添いに来てくださったのですか?」
「はい」
学校長の肯定に隊長さんが満足そうな顔をするが、私は納得できなかった。
これも特例にあたると思うので付添はお断りすることにする。それに目立ちたくない。理由としては後者の方が比重が大きい。
「学校長、ご厚意はありがたいのですが、私は他の学生と同じ扱いを希望します。一人だけ特別扱いされることは望みません。ですので付き添いは不要です」
「姫様」
私を制止したのは隊長さんだ。心配していた付き添い問題がクリアになったのに、と思っているのだろう。
だが、隊長さんは勘違いしている。
こういった問題に子供は敏感だ。自分と違うものは排除しようとするものだ。学校長の付き添いなど、私は皆さんとは違いますと宣伝しているようなものである。入学する前から排除されることは間違いないだろうし、注目の的になるのも間違いないだろう。そんなことはゴメンだ。
私の結論は出ているので学校長の案内を丁寧にお断りするが、隊長さんがそれを許してくれなかった。どうあっても誰かと一緒に行かせたいらしい。
そこまでこだわる理由は何なのだろう。だが、私にも断りたい理由があるのだが、そこは聞いてもらえないらしい。隊長さんがそこまでこだわる理由を今ここで聞くこともできないし、困った状態だ。追及できないまま隊長さんに提案されてしまった。
「姫様。学校長の立場もありますし、入学式の会場だけでも案内をお願いされてはいかがでしょうか?」
「姫様の言われることもご尤もですので、初めの案内だけでも、よろしいでしょうか?」
学校長も隊長さんの提案に乗って来る。
学校でトップの方に下手に出られては私も強硬にノーとは言えなかった。そうなると当然、案内はお願いすることになるわけで。
私は隊長さんの見送りを受けながら、学校長と入学式の会場へ向かうこととなる。
会場へ向かいながら学園内のプレゼンを受ける。プレゼンと言うと聞こえは良いが簡単に言えば、自慢話である。
王宮からの支援を受けていて、とか設備が整っているとか、殿下が通学してるなど、どこから出てくるのだろうかと思うぐらいプレゼン(自慢話)をしてくれるのだ。私は愛想よく相槌を打ちながら、鉄壁の笑顔を張り付け会場へと向かっていた。
私は入学式の会場に学校長と訪れる事となり、当然の帰結として注目を浴びることとなってしまった。
講堂には日本でいうところの上座の方から入る。
私と同年代の子供が大勢いる。当然だ。私と同じく入学式の参加者なのだから。学生はそれなりの生徒数だった。前後に分かれているので上級生が着席しているかと思ったら、上級生はいなかった。新入生と教師だけの入学式の様だ。
先に来て着席している子たちもいた。その子達の注目を浴びながら席に案内される。
注目を浴びたくなかったのだが、学校長の案内を受ければ注目されるのは当然だろう。こんな事になってしまうなんて。残念な思いと注目されて嫌な気分と焦る気持ちとが混在している。
着席順は男女混合で交互に座る形になっていた。私は一番前の一番端である。どんな意味があってこの席順になっているのだろうか?
席に着いたばかりで大きく周囲を見渡すわけにもいかず、上品に椅子に腰かけ前を向く。
だが、隣が気になる。
私の隣は当然男子だ。これが女子であればためらわず小声で話しかけるのだが、残念だ。
男女の区別はしない主義だけど、この場で話しかけても良いものだろうか? 隣の席をちらりと見る。隣も私をちらりと見た。そうなると当然視線が合うがサッと彼が目を逸らす。
もしかして、私が怖い?
目を逸らされるなんて、怖がられているという事しか理由が思いつかなった。
そこはかとなくショックを受けながら、もう一度隣を覗き見る。伺うように見ていると彼もこちらを見ていた。もう一度視線が合うので、今度はニッコリと微笑んで見せた。
怖がられているのなら、印象を良くした方が良いだろうという単純な理由である。会って10秒で相手の印象は決まるという、ならばリカバリーできるうちに怖いイメージを払拭したいと思う。
だが、その印象改善作戦はうまくいかなかった。残念だ。微笑んだとたん、もう一度目を逸らされた。
私は作戦が上手くいかない事にガッカリしながら、正面に向き直る。これ以上深追いをして怖がられてはたまらない。入学式の前から怖がられていて私の学校生活は上手くいくのだろうか?
心配だ。
タラればは言っても仕方がないが、姪っ子ちゃんがいてくれればもう少し違ったのかもしれない。周囲にも受け入れてもらえたかもしれない。姪っ子ちゃんはいないのだろうか?
大きく周囲を見渡すわけにもいかず、姪っ子ちゃんがどこにいるかは不明だ。
私は大きくため息が出そうになり堪える。
学校長の案内が無ければもう少し印象が違ったのかもしれない。あの時、断るべきだった。
後悔しかない。もう一度出そうになったため息を飲み込む。
ノーと言える日本人になりたかった。