何事もチャレンジしてみよう ③
トリオと共に餃子を包んでいく。皆の頑張りで無事に餃子は包み終わっていた。思ったよりも時間はかかったが手が多いのは有利だった。無事にお昼の時間に間に合ったので良かったと思う。
餃子を包み終われば次は食べ方の選択だ。餃子の食べ方はバリエーションが多い。
焼いても水餃子にしても、蒸しても揚げても美味しいのだ。なんだったら鍋にしたって良い。これだけ食べ方のバリエーションが多いのはすごい事だと思う。
そこを踏まえて皆に聞いてみる。ちなみに私は焼き餃子が好きなので、これは絶対だ。他の選択肢は皆にお任せだ。
「と、いう事でみんなはどれが良い?」
「どれも美味しそうで難しいですね」
「姫様は焼くのが良いと言われていましたので、他をもう一つという事ですよね?」
「焼く作業があるのであれば、もう一つは簡単な方法が良いのではないでしょうか? 私にはわかりませんが難しくないのが良いかと」
このそれぞれの台詞にトリオの性格が出ていると思う。隊長さん、商人。最後は管理番だ。いつも私の手間を減らしたがるのは管理番だ。自分が何もできないから大変じゃないように、と気を使ってくれている。優しさに溢れていて気持ちが嬉しい。
とはいっても作業的には難しいものではない。蒸し料理や揚げ物は少し準備が必要だがそれほど手間ではないのだ。
私にとっては大変な作業ではないので、問題ないことを説明すると。珍しく管理番は疑わしげな表情だ。信用されていないのだろうか?
「管理番、信用してないの? 本当にたいした手間ではないのよ? だから好きなものを教えてほしいわ」
「でしたら姫様。私でも調理できそうなものはありますか?」
管理番から初めて聞く言葉が出てきた。【私でも出来そうな調理がありますか?】管理番が調理? 今日の餃子包で料理に目覚めたのだろうか? 不思議だが、やる気があることは良いことだ。なんでもチャレンジすることは悪いことではない。合わなかったらそこでやめれば良いだけのことなのだから。
私はそう判断すると簡単な調理を選ぶことにする。
私からするとどれも難しくは感じないが、初心者がチャレンジするなら焼きか、揚げ餃子だろうか? 揚げ物は隊長さんもこなしていたから難しくはない気がする。焼きもフライパンで焼くだけだ。そう考えると蒸し餃子は、蒸し上げるタイミングが難しい気がするし、いや、水餃子のほうがお湯に入れるだけだから簡単な気がする。私は腕を組んで考えてしまう。が、そのポーズが管理番に誤解を生んでしまった。
「申し訳ありません。姫様。私ではどれも難しいのでしょうか? 無理を言ってしまったのですね」
「そんなことはないわ。逆なの。どれもそう難しくないから、どれが良いかと思って。強いて言うなら蒸し餃子が難しいからそれはやめたほうが良いと思っているわ。焼くのもフライパンで強めに焼くだけだし、揚餃子はそのまま揚げるだけだから手間もないわ。水餃子もお湯に入れてタレを作るだけだから、そう問題ではないと思うの。管理番は今言った中でどれを作ってみたい?」
「お湯に入れるだけなら私でも失敗がなさそうです。水餃子を作ってみたいと思います」
「わかったわ。そうしましょうか」
「隊長さんも商人も、焼くのと水餃子で良いかしら」
二人を振り返って聞くと、隊長さんが言い出した。
「姫様。では私は揚餃子を作りましょう。そのまま揚げるだけだと言われていたので、私でも問題はないですよね?」
「そうね。隊長さんはフリッターなんかも揚げてもらったし、大丈夫だと思うわ。じゃあ、揚げ物をお願いするわね」
「では姫様。私は焼き餃子を担当します。焼き方だけ教えていただけますか?」
商人がいい笑顔で言ってきた。ん?私は2種類のつもりでいたけど、こうなると3種類になるわね。それに、そうすると私がすることがなくなるのだけど。
皆さん、本気ですか?
戸惑っている私をよそに、管理番が隊長さんたちの発言を聞いて良いことを思いついた、とばかりに言い出した。
「姫様。いつも作って頂いているので、たまには私達にお任せください」
「そうだな、良いことを思いつくな、管理番」
「確かに、私も良い案だと思う」
隊長さんも管理番の意見に同意を示す。商人も頷いていた。
「まって、気持ちは嬉しいけど、私のすることがなくなってしまうから困るわ」
「大丈夫です。姫様には私達の監督という仕事があります」
「私にとっては初めての料理ですので、監督をお願いいたします」
商人と管理番から仕事はあるから心配ないと釘を刺されてしまった。私が二の句が継げないでいると隊長さんはそれを笑って見ている。どうやら今日の私は監督が仕事になるらしい。一応私も反撃? をしてみる。
「本当に良いの? 後片付けまでが料理なのよ? お皿まで洗うのよ? 大丈夫なの?」
「「「勿論です」」」
普段の私を見ているからか、トリオからは当然と返事がある。仕方がない。ここまで言うのだ。みんなにやってもらおう。
何事もチャレンジは大事だと思う。私は皆の意見を尊重して監督に徹しようと決めた。
「ありがとう。今日は皆にお願いするわ。じゃあ、始めましょうか。揚餃子は時間がかかるから油を温めておきましょう」
「隣では水餃子の用意しましょうか。商人はタレを作ってもらえるかしら」
「「「はい」」」
なんかやる気に満ちてるな。返事の良さに感心しながら調理を開始するが隊長さんと商人は難しいことはなかった。隊長さんは揚げ物の経験があるし商人は今までの料理経験から大きな問題は起きなかった。
一番の心配は管理番だろうか。調理経験は一切ない。だが、心配することはない。水餃子はタレさえ作ってしまえば後はお湯に入れるだけなのだ。気にするところといえば鍋の中で餃子がくっついてしまうかくらいだろう。その防止策もあるから大丈夫だと思っている。入れる餃子を減らしていけば良いだけのことだ。出来るなら一つずつが安心なのだが、それだと時間がかかりすぎるので、大きめの鍋を用意して2つか3つずつ茹でて行こうと思っている。効率が良いはずだ。
管理番がお湯を沸かしている間に揚げ物は順調に進んでいく。
「この中に入れるのですね」
「そうよ」
沸いたお湯を眺めながら管理番は恐る恐る餃子を入れていく。まさにそっと入れる、という表現が似合う感じだった。私は微笑ましさを感じながらその様子を見守っている。やはり慣れないせいなのか、不安なのか隊長さんと同じ様に餃子を突こうとしている。そんなに動かさなくて良いことを教えようとしたら、隣りにいた隊長さんが教えていた。
「管理番。そんなに心配しなくても待っていれば大丈夫だ」
「そうなのですか? 心配で。これで本当に大丈夫なのでしょうか?」
「待っていれば火が入るそうだ。私も以前似たような事をしたのだが、姫様が心配ないと言われていた」
「分かりました。注意します」
隊長さんの指摘に素直に頷きを返し、触らないようにしながら見守っていた。鍋が大き目を使用しているためか、餃子はお湯の中で踊っていた。そうしているうちに餃子がプカプカと浮いてくる。それを見た管理番は私を見る。掬って良いのか確認したいのだろう。
「掬ってお湯を切ってちょうだい。そのままお皿に盛って大丈夫よ」
「分かりました」
硬い顔つきの管理番は言われた順序で行動に移していく。
そうしている間に隣は隊長さんから商人に交代だ。揚餃子が終了したので焼き餃子へ移行する。管理番は隣が交代した事も気がついていない。
商人は焼き方を簡単に説明すると感覚を掴んだのかそのまま行動に移している。ありがたい。
商人は管理番の心配をしつつ餃子を焼いていた。温かい友情が垣間見える。
管理番の作業はスムーズに進み終わりそうだ。タレも作ってあるので問題はない。
焼餃子も無事に出来上がり、餃子の定番フライパンの上にお皿を置いてひっくり返してもらった。男の人なので簡単にできる芸当だ。私ではフライパンもお皿も重たく感じるのでできないのだ。羨ましい。
特記事項としてはひっくり返りキレイに焼き上がった餃子を見たトリオは【お〜】と感嘆の声が上がっていた。その気持ちはよく分かる。
その隣では水餃子も出来上がったので、餃子パーティーの始まりだ。