商人への心配
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入学式を来週に控えた私は、トリオとの昼食会を兼ねつつ、商人が学用品のお勧めを持ってきてくれていた。それを良いことに私はいちごジャムの経緯を聞くことにした。
令嬢から話は聞いているが、令嬢の視点と商人の視点は大きく違う部分がある事は理解している。特に商人は商売が絡んでいる。侯爵家にゴリ押しされれば拒否しにくい部分もあるだろう。その点を確認をしておきたかったのだ。私がきっかけで商人に嫌な思いをさせていなければ良いのだが、心配でならない。
「御機嫌如何でしょうか?」
「姫様。先日は姪がお世話になりまして、ありがとうございます」
商人と管理番だ。2人らしい挨拶だと思う。私は挨拶を返しつつ、商人に性急にジャムの件を確認していた。お茶会の後から心配で仕方がなかったのだ。
「商人。先日はありがとう。来たばかりで申し訳ないのだけど、ジャムの件は問題なかった? 令嬢から思いもよらない話を聞いたわ」
「ああ。その件ですか? 私も驚きました。侯爵閣下は決断の早い方なのですね。」
商人は大きな問題を感じていないのか侯爵の介入とジャムの商談がまとまった経緯について教えてくれた。
私達が来た数日後、約束を守ってくれた生産者の方はいちごも持ってきてくれたそうだ。しかも自分の分だけでなく近隣や親戚の人たちの分も持ってきたらしい。自分たちで食べるよりも、人に売れるなら売ってきてほしいと頼まれたとの事だ。生産者は私の口ぶりから買ってもらえるだろう、とあたりを付けて持てるだけ持ってきたと。
その量を見た隊長さんはちょっと笑うしかないほどの量だったと教えてくれた。だが、商人の方はその量にも慌てる事なく対応したそうだ。
その場所には間に入る隊長さんと、いちごを買い付け流通に関わる商人と2人で行っていたそうだ。
始めは大勢で行くと生産者の方が驚くだろうからと、商人は一人だけで行く事にしたらしい。だが、隊長さんの初対面では信用されないからとの言葉で二人で行く事になったそうだ。隊長さんは商人を紹介して帰るつもりだったらしいが、そのいちごの量を見て心配になったらしく、帰るに帰れなかったのだそうだ。隊長さんは心配性なのだろう。
しかし、いちごの量に関しては取り決めをしていなかった私が悪い。持って来て良いと言われれば、あるだけ持ってくる可能性を考えていなかった。
だが商人は慌てることなく、ジャムの話をするから自分の店に来るように説明したらしい。
ちなみに商人のお店には試作を作る簡易的な部屋、ミニキッチンを作ったらしい。
商人は店でジャムを作る事、味の事、自分が流通に関わることや金額も含めて商談したらしい。
つまりジャムを自分たちで加工して持ち込めばその商品を商人が買い取り売るという形になるという事。今回は一緒にジャムを作り、作り方を覚えてもらって、次回からは持ち込むことになる事も説明している。
初めはジャムを作ることに不安を覚え難色を示したそうだ。しかし、持ち込んだいちごを見ながら、いつもなら食べて終わりのいちごが加工すれば商品になる。その売上で寒さ対策ができたり、いつもより良い食事が出来るようになりたくないのか?と聞かれた生産者は一も二もなく頷いたそうだ。その代わりではないが、今回と次回まで、ジャムを一緒に作って欲しいとお願いされたらしい。次回は奥さんを連れてきて作り方を覚えてもらうそうだ。一人だけだと間違えたときが不安だからそうしてほしいとのことだったそうだ。男の人では不安もあるだろう、ということで商人は了承したと。
その後はジャムの講習会で、生産者の人は必死になって覚えていたらしい。いちごも量があったので何回も練習することができたのは結果的に良い方向に結びついたと言えるだろう。そう思うとたくさんあって良かったね、というべきだろう。
ちなみにこの流れを見ていた隊長さんは、商人には言っていないが、相手の説得や引き際、落とし所を探る勉強になったといっていた。感心して見ていたらしい。商人の面目躍如、といったところだろうか。
そうしてジャムが完成し、令嬢と連絡を取ろうと考えていた商人のところへ令嬢の父親、侯爵閣下からの連絡が来たそうだ。ジャムの話を聞きたいとのことだった。できれば今日来てほしいとのことで、商人は赴くことになったのだが、それに隊長さんも付き合ったのだそうだ。
「そうなの? でもありがとう。商人も心強かったと思うわ」
「どうでしょうか? 意外に邪魔だと思ったかもしれませんよ」
「そうかしら? 初めて会う高位の貴族だもの。少しは尻込みすると思うのだけど」
隊長さんにお礼を言うと隊長さんは何も言うことはなかった。少し笑っただけだった。いつもは商人と言い合いをしているけど、なんのかんの言って商人や管理番の事は気に入っているのだと思う。
侯爵家についてから、挨拶を済ませると侯爵は娘からジャムの話を聞き、どんなものかを確認したい。大量生産は難しければ侯爵家で一括購入をする。という話だったそうだ。商人は口を挟む暇もなく立て板に水の状態だったらしい。だが、商人もそのまま引き下がるわけではなく、自分の立場と私の意見を反映させてほしいと、そこからの話し合いに持ち込んだという事だ。
商人の名前はダテではないらしい。