お茶会と言う名の報告会 ②
いつも読んでいただいてありがとうございます。
今回は題名詐欺です。
令嬢の気持ちが少しだけ出てきます。年頃らしく思い悩んでいます。
そうして長くなってしまいました。題名とはかけ離れたところにいます。
お付き合い下しさい。 よろしくお願いいたします。
次回の更新ですが、もうしわけありません。
私の予定の関係でお休みさせていただくかもしれません。
なるべくそんな事にならないようにしたいと思うのですが、年末で・・・
察して頂けたら助かります。
よろしくお願いいたします。
「姪っ子ちゃん。テストはどうだった? 解けたかしら?」
「はい。叔父の特訓がありましたので、いつもよりは良い点数だと思います」
「そう。管理番が勉強を教えてくれたの? 良かったわね」
「はい。クラス分けの試験のときは勉強を見てくれると以前から約束していたのですが、わたくしが考えていたよりも厳しかったです。でも、そのおかげでよい点数が取れそうなので安心しました」
「そうだったの。管理番が厳しいなんて想像がつかないわ。貴方の叔父様には優しい方、という印象しか持っていないもの」
「わたくしも同じですわ。叔父には優しいと言うか、わたくしのワガママは笑って許してくれる印象しかありませんでした。ですが今回の試験のためにと問題も作ってくれたりして、本格的に教えてくれました。問題が解けるようになるまで繰り返し練習もしましたし。解けるようになるまで何回もです」
「まあ、それは大変な思いをされましたね。ですが、そのおかげでテストは良いものとなったようですし、結果的には良かったのではないですか?」
「はい。ご令嬢の言われるように、いつもより良い点が取れたのは間違いありません。ですが、他の皆様はどうだったのでしょうか? 学校で受ける試験は初めてで。今日の結果は皆様と比べると良いかはわからないです」
「そうですわね。わたくしもクラス分けのときは不安でしたわ。自分ではよくできたつもりでも他の方がどうなのかはわかりませんでしたもの。他の方に聞きたくてもお友達もいませんでしたし」
令嬢が自分のときの経験を教えてくれた。やはり比較対象がないだけに比べようがないのかもしれない。私はいつもと変わらないだけになんとも言いようがなかった。
「姫様はいかがでしたか?」
「そうね。私はいつもと変わらなかったわ」
「勉強はされたのですよね?」
姪っ子ちゃんも気になるのか教えて欲しそうにしていた。
そう言われても、わたし自身にもどうなっているのか分からないのだ。勉強も復習しかしていないし、結果は神のみぞ知る、と言ったところだろうか。
私は結果を待つだけのつもりだったのだが、姪っ子ちゃんは気になるのか勉強法も聞いてきた。
「勉強はどうなさっていたのですか?」
「主に隊長が教えてくれたわ。隊長が忙しい時は筆頭が教えてくれたし」
「それなら安心ですわね。お二人とも在学中は首席でしたもの。要領も分かっていらっしゃるでしょうし」
その言葉に頷くしかなかった。
そうか二人とも首席だったんだ。隊長さんは分かるけど、筆頭も首席とは。そんな優秀な二人が私付で良いのだろうかと、なんだか心配になってくる。だが、終わった事を心配しても仕方がない。
私は2人の話を聞いて、試験の結果を待つしかないのだと理解した。入学式の日まで待とうと心に決めた。
姪っ子ちゃんも誰と同じクラスになるのか気になると言っていた。やはり入学前は皆気持ちは同じなのだろう。
「厚かましいとは思いますが姫様と同じクラスになれると良いのですが」
「そうね。私も同じクラスだと心強いわ」
「わたくしは羨ましいですわ。お二人と同じクラスなら学校生活も楽しいのではないかと思います」
令嬢は羨ましそうだった。彼女の立場では学校生活は楽しめないのかもしれない。だが、それを言うのは無粋だろう。姪っ子ちゃんと同じクラスなら学校生活は楽しそうだ。
そう言えば修学旅行や体育祭みたいな学校行事はあるのだろうか?
「学校生活と言えば行事のようなものはあるのかしら? 学生の活動とか?」
「行事と言いますと学園祭はありますわ。収穫祭の時期に行われます。学園を開放して保護者や城下の方たちが学園に来られるのです」
「何をするのかしら?」
「それぞれのクラスや放課後の活動を披露したりします。騎士希望の方たちは模擬戦を。商科の者達は販売を。文官希望の者達は裏方に回りそれぞれの手伝いをすることが多いです」
令嬢の話では就職希望に沿っていろいろ分かれるようだが、クラス分けもそれに沿うのだろうか? 私はそんな事を聞かれた覚えはないのだが。
「令嬢。商科や騎士希望はいつ聞かれるのかしら? 私は希望を聞かれていないのだけど」
「入学時は全員同じです。3年間は基礎になります。基礎科です。3年後は専攻科になります。その時に希望を選ぶのです。一番人気は騎士科です。花形ですね。その次は商科になります。後継ぎの方や貴族以外の方は商科を選ばれる事が多いです。3番目が文官です。総合的な内容が多いです。裏方に回ることが多く、皆を支える役目ですし総合的な事を学べるという事で人気があります」
「ご令嬢はどちらを選択されたのですか?」
「わたくしは家庭科です。卒業後は家に入る可能性が高いので、家を支える事を学ぶことにしました」
姪っ子ちゃんの質問に令嬢は視線をティーカップに落とす。その様子から本当は違う科に行きたかったのだと感じられた。だが、家庭科とは何を学ぶのだろう。まさか。刺繍やお茶会の開催の仕方だとか、そんな事ばかりではないだろう。私の質問に先輩が教えてくれる。やはり現学生の情報は有益だ。
「もちろん、お茶会の開催や、刺繍なども教えていただきます。ですが、それ以外にもマナーや貴族のあり方、人間関係、トラブルの際の対応などもあります。もちろん他国の情勢なども学びます。やはり夜会を行う際に他国のマナーやルール、習慣なども学んでおかなければ家名に傷をつけることになりますので。家を守るという事は家名を守る事に繋がります。一つの失敗から立ち直れない事もあるので、そうならないために家庭に入った者が家を守らなければならないので、そのあたりを学ぶことになります」
「そうなのね」
私は令嬢の話に聞き入っていた。家を守ると言うから家庭に入る主婦の様な感覚だった。だが実際は違うようだ。だが、考えればわかる事だ。離宮がそうであるように下働きのような事は専門の人がいるのだろう。そう言う意味での家庭を守るのではなく、家を発展させ没落させないと言う意味での家庭を守るという事なのだろう。正に縁の下の力持ちで、文官たちと皆を支えると言う意味では変わらない気がする。単位が違うだけだ。私は素直に感心していた。立派な役目だ。
「家庭科はすごいわね。立派だわ」
「そうでしょうか? 学べば誰にでも出来る事です」
「そうかもしれないわ。でも、家を支え守るという事は立派な事だわ。文官たちと同じでしょう? それが皆なのか家庭なのか、規模が違うだけだわ。皆を支えるのも立派だけど、家庭を支えるのも立派な事よ。家庭を支えるという事は一族を支えるという事だし。その先には家に仕えている人たち全員を支えているのよ。もっと言えば家に仕えてくれる人たちにも家庭があるわ。その家の子供や奥さんや旦那さんも支えている事になる。とても大事な役目だし、正直に言うと私には荷が重そうだわ。潰れてしまいそう」
私の正直な感想に令嬢の綺麗な紫の瞳がまん丸になる。零れ落ちそうなほどだ。
「そうでしょうか? 姫様は大事な役目だと思われますか?」
「ええ。私にはできそうにないわ。人の生活を守っていくのだもの。怖いわ」
私の感想を聞いた令嬢は瞳を潤ませた後俯いた。その反応からするとやはり、彼女は家庭科は希望していなかったのだろう。泣いているなんて指摘されたくないだろう令嬢のために、もう一度声を掛ける。
「いつでも希望が叶う事はないわ。もしかしたら立場上叶わない事の方が多いかも。でも、その中でもやりがいを見つける事は出来るし、続けることで好きになる事もあるかもしれない。可能性はいくらでもあるわ。嫌だった、他の事がしたかった。誰にでもある事ね。でもね人は不平等なの。立場、責任、性別、それで背負うものが変わって来るわ。人から見たら羨ましがられる立場でも、実際はそうでない事は多いわ。嫌なことも多いし。注目されたりね。人は背負っているものが違うの。令嬢の背負っているものは重いわね。その重さにどう向き合うか、決められるのは貴方だけだわ。立場上の責任はあるけど向き合い方だけは自由よ。どう向き合うのか考えてみても良いのかもしれない。その重さに耐えるのか、楽しむのか。嫌なら放り出していいわ」
私は肩をすくめて言ってみる。令嬢が驚いて顔を上げる。その瞳はやはり潤んでいた。
「放り出すのですか?」
驚きが隠せないようだ。私から放り出すなんて聞くとは思わなかったのだろう。だが、それもありだと思っている。だが、放り出すなら家を出る覚悟がいる。責任は重くて嫌だ。でも、家に守ってもらいたい、そんな事は許されない。
子供であってもその家に属するなら役目はあるはずだ。父親は家長としての役目を、母親は家庭と一族を守る役目。子供はそれを助けたりする。それはどんな立場どんな家でも同じことだ。
それが嫌だと叫ぶなら家を出ればいい。家の保護を外れればその役目は無くなる。代わりに家の保護もなくなる。それだけだ。責任を果たすからこそ家の保護があるし、いろいろな意味での自由もある。そんなものは自由ではない、と言うなら自分で思う自由を作れば良い。作る努力をすれば良いだけのことだ。責任と自由はセットなのだ。
放り出す事とは意味が違うのだ。放り出すことは逃げることだ。逃げることだって悪いことではない。逃げることで生きる事が出来る人もいるのはたしかだ。
要は自分で決めることが一番大事なのだ。人に決められるから、押し付けられるから納得できないのだ。私が一番言いたいことは自分で決断し、その決断に責任を持つようにということだ。
「自分で決めて、自分でその責任を持つ」
「そうよ。自分で決めれば誰の責任でもないし、頑張れるでしょう? 人に決められるから嫌になると思うわ」
「自分で決められなかったら? 努力をしてもだめだったら?」
「さっきも言ったけど、その中で好きになることを見つけるか、本当に嫌なら家から離れれば良いわ。その方法を自分で探せば良いと思うけど? 方法なんてない、って言う人はよくいるけど、探せばどんな方法だってあるものよ? ないって言う人は本気ではないのか、諦めているのか、努力が足りないか、どれかだと思うわ」
「そうかもしれません」
令嬢は再びうつむいた。
学校の話から思わぬ方向に話が動いてしまった。こんな話をするつもりではなかったのだけど。令嬢は学校のことだけではなく他にも思うところがあるのかもしれない。まだ付き合いの浅い私から聞くのはどうだろう。早いだろうか?
私が思い悩んでいたら、姪っ子ちゃんはツワモノだった。若いからなのか思うままに聞いているようだった。私にはできない芸当だ。
「ご令嬢。なにか辛いことがあるのですか?」
「思うところ、と言いますか。姫様の話でわたくしに足りないものがあるのだと分かりましたわ」
「わたくしは難しい事はわかりませんが、お手伝い出来ることがありましたらお声掛けください」
「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいですわ」
令嬢にやっと笑顔が戻ってきた。
いつか、令嬢の話が聞けるときがあれば、私で良ければ喜んで話を聞いてあげたいと思う。