お茶会再び
「姫様。お招きありがとうございます」
「ありがとうございます。楽しみにしていました」
試験が終わり令嬢と姪っ子ちゃんとのお茶会が始まる。今日は約束していた2人とのお茶会だ。令嬢からジャムの結果が聞けるはずだし、姪っ子ちゃんからは試験の様子を聞けたらと思っている。自分の感覚だけではどうなのかがさっぱりわからないのだ。人の意見も参考にしたいと思うし、ハンカチも渡したいと考えていた。
「ようこそ。二人とも来てくれて嬉しいわ。楽しみにしていたのよ」
2人を招き入れる。今日はお菓子教室の予定もあるのでメニューも考えていた。
今日は簡単フレンチトーストの予定だ。少しお茶会には重たいかもしれないが、工程も難しくないし甘くて美味しいのだ。そこは外せない大事な部分なのでフレンチトーストに決定した。過分に私の独断と偏見が入っているのは否めない。
2人ともお菓子教室を楽しみにしてくれていたのか、今日はエプロン持参だった。
正確に言うと令嬢からのプレゼントだ。私の分も用意されていた。皆でお揃いにしたかったのだとは令嬢の言だ。
思うことは同じらしい。私も記念にお揃いを用意していたので令嬢も同じ思いでいたことに嬉しく感じてしまう。
お揃いのエプロンを広げる。私はピンクのエプロンだった。一枚も持っていない色なので固まってしまう。令嬢チョイスなのだろう、なぜこの色なのだろうか? 過分に疑問を感じるが頂き物にクレームをつける程非常識な人間ではないが、エプロンをまじまじと見つめた事は許してほしい。
令嬢は薄い紫色のエプロンで、姪っ子ちゃんは意外な事にシックな黒だった。
柄は可愛いネコさんだ。令嬢はえんじ色で染め抜かれ、姪っ子ちゃんは白のネコさんで、私は黒ネコさんだ。ネコ柄に一気に嬉しくなる。現金だがネコ柄は好きなのでご機嫌になってしまった。
私が早速使おうとエプロンを身に着けると令嬢も喜んでくれていた。自分がプレゼントしたものを気にいってもらえればうれしいのは誰でも同じだと思う。
「気に入って頂けたのなら嬉しいです」
「ありがとう。嬉しいわ。皆でお揃いの物を使えるのもだけど、令嬢が皆で使える物を用意してくれた気持ちが嬉しいわ」
「そう言っていただけると」
令嬢は照れながら嬉しそうに微笑んでみせる。同性の私から見ても可愛かった。可愛くて成績も良くて性格も良くて、生まれながらの令嬢で。一分の隙もない人だと思ってしまった。
姪っ子ちゃんもニコニコしながらエプロンを着けていた。姪っ子ちゃんは素直で嫌味がない子なので、年相応だと思う。そう考えると、私は自分の特殊な事情もあるし、比べるのは間違っているのは理解しているが、一番スレているのは私だな、なんて考えてしまった。まあ、私がこの年頃の子供たちと同じではそれはそれで問題だな、と自分で結論を出してしまう。
そんな事を考えながら新しいエプロンを皆で身に着けて、フレンチトーストを作る準備を始める。フレンチトーストを作るのは簡単だ。牛乳、砂糖、卵で浸し液を作ってその中に浸すだけだ。できれば時間は長く浸したほうが中までしっとりとして美味しいフレンチトーストが出来る。本当は少し電子レンジで温めると浸透がいいので温めるか、前日の夜から浸すという方法もある。前日に作って置くことも考えたのだが、そうすると配合や浸す工程がわからないし、一人で作ってもつまらないので配合から行なうことにしたのだ。浸す間には他の事をするつもりだ。
2人にもジャムの作り方を教えようと思う。ジャムの汎用性の広さを伝えれば仮にいちごジャムが受け入れられなくても、他のジャムを作ることで受け入れられる下地は作ることが出来ると思ったのだ。そうすれば収益を上げることは可能なはずだ。
もう一つの理由は単純にフレンチトーストにジャムが合うので作りたいと思っただけだった。
「と、いうわけでフレンチトーストとジャムを作ります」
「フレンチトースト? ジャム? ですか?」
「ジャムはあの実がありませんが?」
令嬢と姪っ子ちゃんは頭の上にクエスチョンマークを乗せている。小首をかしげてなんだろう? と不思議そうにしている様子は小動物のようで可愛かった。令嬢は子猫を姪っ子ちゃんはリスを思い浮かべてしまう。私にはない可愛さなので頭をナデナデしたくなってしまった。
身長に関しては私が一番小さいのだが、受ける印象は別物だ。
「フレンチトーストは卵や牛乳で浸し液を作ってその中にパンを浸たすの。それをフライパンで焼いたものよ。ジャムはどんなものからでも作れるのよ。野菜でも作れるし。他の果物でも問題ないわ」
「野菜からでも作れるんですか?」
「では、私が好きな果物でも作れるのですか?」
「そうよ。工程も同じだし。好きなものを教えてくれる? 材料があればそれでジャムを作りましょう。何が良いかしら?」
始めに反応したのは姪っ子ちゃんだ。
「わたくしはお芋さんが良いです」
「わたくしはトマトが良いです。トマトでも作れますか?」
「もちろんよ。どちらでも問題ないわ。でも、姪っ子ちゃんはお芋さんを知っているの?」
「はい。叔父から教えてもらいました」
「今は商人のところからも発売されていますわ。わたくしは先日お礼にといただきました。甘くてやわらかい味で大好きになりましたわ」
「そうよね。私もお芋さんは大好きだわ」
令嬢と姪っ子ちゃんの言葉に私も同意をする。美味しいは正義だ。
その2人と早速作り始める。
2人とも興味津々で私の説明に聞き入っていた。自分で何かを作るという事に楽しみを覚えてくれたのなら嬉しい事だ。