試験準備
私は買い物から帰って離宮でくつろいでいた。
今日の買い物はとても楽しかったし、いちごという収穫もあった。思いがけない収穫だが、嬉しいものだった。商人や偶然のおかげで今後の食生活はかなり充実したものになっていきそうだ。私は嬉しくてニマニマしてしまう。
近いうちに、もう一度お茶会を開く事もできそうだ。今回は急いで帰ってきたのでお揃いのハンカチを渡すことができなかったのが残念だが、次のお茶会のときにみんなに渡せたら良いなと思っている。その時、2人はどんな表情になるだろうか。それが楽しみで仕方がない。
「姫様。とても楽しそうにされていらっしゃいますね。外出以外になにか良いことがありましたか?」
筆頭に声をかけられる。私はその言葉にためらうことなく頷いた。ジャムの話もハンカチを渡したときの反応も楽しみで仕方がない。
「ええ。楽しみで仕方がないわ。今日の思い出にお揃いのハンカチを買ったの、それをみんなに渡したいと思っているわ。それにご令嬢のお茶会がどうなったかも楽しみだし」
「それは楽しみですわね。ですが姫様。そろそろ入学の準備をしなければなりません。学用品は商人殿が持って来てくださるということでしたので、他の物の用意や入学前の復習もしなければなりません」
「具体的にどんな準備が必要なのかしら? そういえば入学には試験もあるのよね? いつ頃なのかしら?」
「事前試験に関しては終了しています。以前にマナーや学力の試験をしたことを覚えておいででしょうか? あの試験が事前試験になります。申し訳ありません。わたくしの説明不足でございます」
私は自分の記憶を引っ張り出す。マナーとダンスの集中講座のときに学力試験があったことを思い出していた。あのときはダンスの練習に気を取られていて、何も気にしていなかったのだ。そういえば筆頭が入学に必要、みたいなことを言っていた気がする。しかし、あの試験はそんなに難しい試験ではなかった気がする。本当に基礎学力試験という印象があった。
私は筆頭にあの試験が入学試験だったのか確認する。あれが入学試験なら誰でも入れる気がするのだ。それとも家庭教師がいない家では難しいのだろうか? その辺の確認もしたかった。
「筆頭。では、あれが入学試験になるのかしら? 試験に合格すれば誰でも入学できるようになっているのよね?」
「はい。入学試験に受かれば誰でも入学できますが、学力がついていくかは別問題となっております。入学後も定期的に試験がありますし、合格ラインに達していなければ退学もありえますわ。もちろん、一度受からなかっただけでは退学はありませんが、救済措置に合格しなければ、ということです」
「そうなのね。気は抜けないわね」
私には筆頭の言葉が納得出来るものだった。要は中間試験や期末試験に受からなければ追試も不可だった場合、退学もあり得るということだ。のほほんと通っていいだけではないらしい。高校よりも厳しいかもしれない。
筆頭の口ぶりでは私の入学は決定している事になる。後は制服の準備とかがあるということだろうか? でも、サイズはあるはずだから制服は作れるだろうし。なんの準備があるのだろう?
「では、他の準備があるのかしら?」
「はい。入学は問題ございませんが、クラス分けの試験がございます」
「クラス分け?」
私はその言葉に背筋が寒くなるのを感じた。要は成績順でクラスが分けられる、ということだ。筆頭の口ぶりでは私は良いクラスに入らないといけない、ということを言いたいのだろう。彼女はニコニコしているが、その笑顔の裏に圧力を感じる。確認したくはないが予想が間違っていないか確認はする必要があるだろう。人間とは確認したくないことを確認するときはどうして恐る恐る口を開いてしまうのだろうか。
「筆頭。その口ぶりではクラス分けは成績順、ということよね?」
「はい」
「私は良いクラスに入った方が良いということかしら?」
「はい。もちろんでございます。姫様のお立場上。ご理解いただけますね?」
疑問形だが、決定事項だった。私は今から試験勉強をしなければならないらしい。ちなみに試験は2週間後だった。できたら早めに教えてほしかったと思うのは、わがままだろうか?
翌日、私は試験勉強をするべくサロンに教科書を持ち込んでいた。リビングだと気が散ってしまうので、集中できるようサロンで勉強することにしたのだ。
ちなみに、今日の護衛は隊長さんだ。
「姫様。そんなに心配はいりませんよ。姫様の学力なら上位に入れるのは間違いありません」
「そうかな? 心配で仕方がないのだけど」
休憩時間に私は心配していることを隊長さんに打ち明ける。隊長さんは笑いをこらえているようだ。隊長さんも筆頭も、もちろん学校の卒業生だ。大体の学力や試験として行われる内容もわかっているはずだ。それを思うと隊長さんの言うことは信憑性はある。だからと言って鵜呑みにもできないと言ったところだろう。
だが、隊長さんは私の不安もわかってくれているのか、安心材料を口にしてくれた。
「考えてもみてください。あの筆頭ですよ? 試験や学力に不安があれば外出を許可するはずがありません。試験勉強を勧めると思われませんか? 外出の後に試験を言い出したのだとすれば、復習程度で心配ないと言うことです。ご安心ください。私は復習も必要ないと思っていました」
「そうなの? でも、心配だから勉強するわ。恥ずかしい成績は遠慮したいし」
「備えあれば、とも言いますし。勉強することは悪いことではないと思います」
隊長さんの後押しもあって復習という名の勉強は継続だ。お茶会はクラス分けの試験が終わってからになりそうだ。そう言えば、このクラス分けの試験は姪っ子ちゃんも受けるのだろうか? できたら同じクラスになれたら嬉しいのだけど。