陛下の困りごと とおまけ
年相応の姪っ子ちゃんの好感度が上がっております。
叔父の管理番ともども、よろしくお願いいたします。
外出の後で (陛下と宰相の場合)
「姫の外出はどうだったのだ」
「どうも貧しい地域の援助をされるようです」
「経緯は?」
「絡まれている露天商を助けたのがきっかけのようで」
当然だが、陛下は姫様の外出は把握していた。隊長の警備とは別に、姫様の動向を把握・報告を命じていたのだ。その結果を宰相から聞いている。宰相は自分の報告を楽しそうに聞いている陛下に、姫様の報告のときだけは楽しそうだと、少しイライラしてしまうのは隠せなかった。その気持ちを乗せて陛下に嫌味の一つもこぼしてしまうのは許されるだろう。
「殿下の件で怒っていらしたのではないのですか? 姫様に随分と当たっていらっしゃいましたが、もうよろしいので?」
「ああ。あれか? 姫の反応を見たかったのでな。余裕がないときの反応を見てみたかったのだ。私の圧に耐えながら隊長と筆頭を守ろうと頑張っていた。あれは感心した。自己保身より部下を守れることは感心だ。それに応えるように筆頭も姫の方へついたようだしな」
「よろしいので?」
「ああ。姫にはこの国のことを教える者が必要だ。それが隊長と筆頭なら安心だろう」
「殿下の事はよろしいのですか?」
「あれに姫の相手はできないだろう。器が、と言うよりは覚悟の違いだろう。姫には自分に仕える者を守ろうとする気持ちがある。それに、身分が低いものは自分が守らなければならないと言う思いもあるようだ。厨房の件が良い例だろう。良い方向へ動いたし、自分でもそれを利用して貴族への反発を買うように仕向けていたしな。どこかの誰かもそれに協力していたようだしな。翻って息子には周囲を見ることができない。それでは周りはついてこない。どうしてああなってしまったのか。私にも問題が有るのはわかっているのだが。頭が痛い事だ。姫が我が国の人間なら一番問題がないのだが」
「殿下の今後はどうされるつもりですか?」
陛下の嘆きを聞きながら、自分への嫌味は先ほどの反発なのだろうと当たりをつけると、そこのセリフは綺麗に聞こえない振りをして殿下の件へと話を戻す。陛下も何も言わずにその件は決めていないとの事だった。
「そうだな。まだはっきりは決めていないが、このままでは私の跡を任せるのは難しいだろう。だが。次をどうするか」
「その事もですが、姫様をどうされるおつもりですか?」
「そうだな。息子の嫁にできないなら他の方法を考えないといけないのだが。どうすればよいと思う?」
陛下は息子の嫁にする案しか考えていなかったので、妙案がなかった。宰相としては頭痛のタネの姫様は自国へお引き取り願いたいので素直にその事を言語化してみる。
「国にお帰りになって頂いて、我が国の評判を広めて頂くのと、外交官として橋渡しをお願いしてはいかがでしょうか?」
「国に返すのか?」
「一番角が立ちません。国元のご両親も心配されているのではないでしょうか? この国に来られた時は6歳でした。子供の成長を見ていないのです。気にならないはずはないかと」
「まあ、確かに。でもな。もったいないな。あの才能は手元で育てたいし、見てみたい気もする。隊長も教えている様だしな」
陛下は宰相の案には反対らしい。
姫様は入学前、まだ時間はあると陛下は結論を先延ばしにしていた。
おまけ
姪っ子ちゃんの励ましを頂きました。心配してくださる声も。
書く予定ではなかったのですが、少しだけ姪っ子ちゃんのお家の中を覗いて頂けたらと思います。
頑張れ姪っ子ちゃん
「姫様になんていうことを」
管理番、弟の報告を聞いた姪っ子ちゃんの父親は倒れそうになっていた。天を仰ぎ目を閉じ、それから先の言葉が出来ない様子である。その妻も隣で言葉を詰まらせ項垂れている。自分の教育が悪かったのだと嘆いている様だ。
叱られている姪っ子ちゃんも涙目になりながら俯いていた。報告した管理番も気まずさを抱えているが、同じ過ちを繰り返せば姪っ子ちゃんの評判が悪くなることは確定なので、それを防ぐためには叱るしかないと、心を鬼にしている状態だ。
「申し訳ありません。注意します」
「何に注意すると言いたいんだ?」
普段は娘に甘い父親だが、今日は追及の手を緩めることは無かった。目の前に座って小さくなっている娘に厳しく問いかける。姪っ子ちゃんは普段は甘い父親がここまで厳しい事は初めてで半分パニックになっていた。母親からの助けも期待できない事は何となく感じていた。自分の態度が悪かった事は説明されて理解できているつもりだが、両親はそれでは問題があると言いたいらしい。その事を敏感に感じ取った姪っ子ちゃんはそれ以上の事を口にできず黙ってしまう。
「これ以上、姫様とご令嬢にご迷惑はかけられない。やはりお付き合いは遠慮した方がよいだろう」
「そんな」
父親の言葉に姪っ子ちゃんは涙目だったのが、本格的に涙してしまった。だが、父親はそれで絆されるようなことは無かった。無情にも禁止令を出してしまう。
「いや、そもそも身分が違うのだ。姫様とお前では教育が違うし、学んでいる事も違う。これ以上ご迷惑はかけられない。これ以上、あちらの方々に失礼があってはいけないし、ご迷惑はかけられない」
「お父様」
「ご迷惑をおかけしないようにと、何度も言っていたのに」
母親も同意見の様だ。両親の嘆きに姪っ子ちゃんは言葉も出なかった。自分は無意識に失礼な事をしていたのだから、教育が違うという事や迷惑をかけるわけにはいかないという言葉には反論は出来なかった。泣く事しかできない姪っ子ちゃんだ。今日を最後に姫様や令嬢と会う事は出来なさそうだ。あんなに楽しかった外出から一転、最後のお出かけになりそうだ。そんな事は嫌なのだが、自分が原因だけにどうやって父親を説得すればいいのか思いつかない姪っ子ちゃんは、誰にも助けを求められず口を閉じる。
「兄さん。気持ちは分かるけど少し落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか。姫様だけではないのだぞ」
この言葉に令嬢の事も気にしている事がわかる。だが、管理番にも言いたいことはあった。全く身分の違う三人だが、おしゃべりしたり、買い物したり楽しそうだったのだ。特に姫様は同年代同性の子たちと話す機会は全くない。そう思うと、問題行動の多い姪だが、姫様には良い刺激なのだと思っている。そう思うと付き合いを遠慮すると言う父親、兄の選択肢はいただけなかった。
「兄さん。確かに問題行動は多いけど、気を付ければよいと思うから。今まで習っていたマナーは家庭内や一般的に使うものがほとんどだったし。それ以上の事は今から学校で習うべきものなのだろう? 本来なら。この子は知らない事が多いのは本当だと思うよ。問題が多いのも。でも、礼儀作法は筆頭様も教えてくださると言うし。今から頑張れば良いだけだと思う。だから、もう少し様子を見ていいんじゃないかな? 姫様は気にされるような方ではないし」
「マナーに関しては確かにそうだ。学校で習うからと教えなかった私達も悪かったのだが。姫様が気にしていないからと言って、はいそうですかとも言えないだろう?」
兄の言葉に管理番は更なる説得を続ける。
「本来ならこの子が姫様や令嬢と交流を持つ、ということは考える必要はなかったわけだよね。普通ではお会いする事はないわけだし。学んでない事や、知らない事、それができない事を悪いとは言えないだろう?知ってて問題行動を起こしていれば何も言えないけど」
「そうだが」
父親は弟の言葉に納得はするが、どうするべきか。迷っていた。目の前の娘は泣いている。
古今東西、父親は娘に甘いものだ。特に泣いている娘には逆立ちしても勝てないと言う不文律がある。父親のため息は先ほどと違う色合いになっていた。