祝 お出かけ ⑧
いつも読んでいただいてありがとうございます。
コミカライズの連載が更新されたそうです。
良かったら覗いて頂けたら嬉しいです。
「お嬢様は、この果物をご存知なのですか?」
「ええ。私の大好きな果物なの。美味しいわよね」
管理番の質問に答えつつ味見をさせてもらえないか交渉しようとすると、隊長さんが私に確認してくる。
「まさかと思いますが、味見をされるつもりですか?」
「おじさんが良ければもちろんよ」
「よかったら、食べてみてください」
私達の話を聞いていたおじさんが良かったらと言ってくれた。交渉の必要なく私は進み出ようとすると、隊長さんの制止が入る。まさかと思うがこの味見にも毒味が必要というのだろうか? 制止の意味を確認しようとすると、私の護衛騎士さんが出てきて毒味をしてくれるという。やはり毒味は必要なようだ。急に食べることになったのに必要なのだろうか?
「ご主人、よろしいか?」
そう声をかけ許可をとると、ゴクリと息を呑み覚悟を決めたようにいちごを口に入れた。隊長さんや令嬢たちが声をかける暇もなく食べていた。私と露店のおじさん以外は食べる瞬間【あっ】と声を上げている。そんなに覚悟が必要な事なのだろうか? 作ってくれたおじさんに失礼な気がするけど。
この反応から考えると、赤い果物は忌避感があるみたいだ。だからこそさっきのガラの悪いお兄さんたちの反応があるのかもしれない。そう考えると私や隊長さんに食べさせることができないと思って、騎士さんが進み出てくれたのだろうか? 私が考察していると騎士さんは覚悟を決めていた顔が【ん?】という顔になり、ゴクンと飲み込んでいた。
いちごを食べたので大きな問題はあるはずもなく、隊長さんの方を向いて一言。
「美味しいです」
と返事をしていた。そこは問題ない。じゃないのか? と思ったけど意外すぎて素の反応が出てきたのかもしれない。隊長さんも一瞬なんだ? という反応だったが美味しいなら言う事はないので、そこは追求しなかった。私の方を向いてどうするのか視線で聞いてきたので、勿論食べるの一択だ。
「私もいただいていいかしら?」
「どうぞ。自慢の果物なんです」
おじさんは令嬢や隊長さんにも勧めている。私はそれを横目に見ながらいちごを一つもらう。
「うん。やっぱり美味しいわ」
「お嬢さんはこれを知ってるのか? ウチの地元にしかないと思ってたんだが」
「私がいたところにも少しだけ栽培していたの。懐かしくて。おじさんが作っているのは、今の時期が旬なのかしら?」
「他の時期でも作れるのかい? ウチが作っているのは今が時期だけど」
「そうなんですね。私が知っているのは春ごろなので」
私は半分本当のことを混ぜながらいちごのこと話す。いちごを知っているのが嬉しかったのかその話を聞いたおじさんは笑顔だった。いちごを知っていると安心感が出たのか、良かったら少しでいいから買って貰えないかと懇願するように言ってきた。おいしかったので買うことに問題はないが、おじさんの言い方が気になった。ただ買ってほしいだけの言い方ではないような気がしたのだ。
「もちろん、いただくわ。でも、なにか理由があるのかしら?ただ買ってほしいだけのような言い方ではないようだけど」
「実はこれが売れたら、ウチの子供に冬用の服を買ってやりたいんだ。本当ならこれは売り物じゃない。自分たちで食べる分しか作ってない果物だ。それでも少しでも売れれば、と思ってこの果物を持って来たんだ。余分に売れれば服くらい買ってやれないかと思ってな」
「そうだったんですね。わかりました。この果物を全部ください」
「全部? こっちはありがたいけど、傷むのが早いから食べられなくなる。いいのかい?」
「大丈夫です。保存食にするので、全部使い切れます。それより、おじさん。この果物はもう作ってないんですか? お友達のお家や親戚の方でも良いのですが?」
「私達の地域ではみんなこれを作ってるけど」
「他にもあるのなら、今度売りに来てもらえませんか? どうでしょうか?」
「お嬢さん。確かにウチは困ってるが冗談はやめてもらえないか? これをまた買うなんて さっきの奴らを見ただろう? 赤いからと言って嫌われているんだ。いい顔されないよ。私達は子供の頃から食べてるから気にならないけど、他の人達は嫌がるんだ。今日も売れないだろうと思いながら持ってきた。少しでも売れたら助かると思って持って来たんだ」
「おじさん。心配しないで、次に来られるときも私が全部買いとるわ」
「本気で言ってるのか? お嬢さん。また買うなんて、そこまでする義理はお嬢さんにはないだろう?」
「確かにそうね。でも私はこの果物が大好きなの。食べたいから買う。おかしなことではないでしょう?」
「そうか。好きな果物か。それならわかるな。おいしいもんな」
「ええ。美味しいの。大好きだわ」
私の美味しい発言におじさんは気をよくしたのか、あるだけ持ってきてくれることになった。
取り敢えずはこのいちごは全部買い取ろう。私はそう決めると隊長さんを見る。隊長さんは渋い顔をしていた。おじさんが言っていた事は本当のようだ。色が理由で嫌われているらしい。美味しいのに。食わず嫌いは良くないと思う。だが、説得は大変なので後にする。取り敢えずはお金を払ってもらおう。
「全部買うわ」
「本気ですか?」
「勿論よ。ここがお金の使い所よ。今使わずにいつ使うの?」
「言われたいことはわかります」
「じゃあ、お願いね」
隊長さんの渋い顔は変わらないが、お金を使う権利は私にあるので大きな反対はされなかった。今までの話の流れで私が何かを作るのは理解しているはずなので、その事を信用して購入に反対しないのだと思いたい。私は隊長さんに購入して運んでもらう。商人のお店に。
私はそこであるものを作ることに決めていた。
「商人の店に運ぶのですか?」
「そうよ。伝言もお願い。火と鍋。瓶の準備をお願いしていてくれる? よろしくね」
ついでに私はおじさんの予定を確認する。今日は残りの野菜の販売をしてから帰るそうだ。残りの野菜を買うことを申し出たら、野菜はいつも売り切れるので問題ないそうだ。今回はいちごを買ってもらったので、これ以上の迷惑はかけられないと言われた。その気持は理解できるのでおじさんの意見を尊重する。
次は3日後に来るというので、その日に追加のいちごを持ってきてもらうことになった。私は次もいちごが購入できることに安心しながら、令嬢と姪っ子ちゃんにもごめんなさいをする。
今回は何もなかったから良かったが、もしものことがあれば彼女たちも危険に巻き込んでいた可能性もある。そこは私の不注意だと思う。護衛の騎士さんたちがいるからと油断していたのだ。令嬢たちは気にしていないと言っていたが、令嬢の護衛は一番前に立っていた。それが危険認識の差だと思う。
自分の危機管理のなさを何とかしなければ、と思う。しかし、この反省は何回目だろう。成長のなさに嫌になってしまう。帰ったら筆頭にも相談しようと思いつつ、予定の再確認をする。
商人に事前準備をお願いしたが、もう一軒お店に行く予定になっていた事を思い出したからだ。そこを覗いてから商人のお店に行けたらスムーズではないだろうか?
私の希望をみんなに伝えると、隊長さんが苦い顔をする。さっきから苦かったり、渋かったり百面相をして、どうしたのかと思っていたら次に行く店は商人のお店なのだという。
一石二鳥ではないが、ちょうど良かった。助かった。