提案
「姫様がよろしければ、わたくしと姪御さんで城下を少し案内できたらと思っています。入学に当たっては学用品もそろえる必要がありますでしょう? もちろん、姫様であれば商人殿から取り寄せるのでしょうけど。城下の物を少し見ておくのも良いのではないかと思いまして。クラスメイトとの話の中で、どこの店の物を購入しました。と言う話も出てまいります。話を広げたり、話題に事欠かない意味でも少し城下を目にしておくのも大事な事かと思いまして。いかがでしょうか?」
「嬉しいわ。ぜひお願いしたいわ。知らなくて話を聞くだけの事と、知っていて話をするのでは楽しみ方が大きく違うもの」
「そう言っていただけたら嬉しいです」
「わたくしも、案内のお手伝いをさせてください。こう言っては失礼かもしれませんが、城下のお店はわたくしが一番詳しいかと。普段目にされないような場所も案内できると思います」
姪っ子ちゃんが気合いを入れて話してくれた。令嬢もその意見に同意するように頷いている。二人は私を案内してくれる事を楽しみにしてくれているみたいだ。私も嬉しくなる。
「わたくしと姪御さんでは知っているお店が少し違うので両方を覗いても良いと思いますし、楽しいと思います。それにわたくしも楽しみです」
「嬉しい提案だわ。ぜひ、ぜひお願いしたいわ。良いわよね?」
私は最後の言葉を大人二人組(保護者?)に向ける。お客様の後ろにいる大人たちだ。その二人は苦笑しながら頷いていた。意外にもスムーズに許可が降りるようだ。だが、しっかりと注釈がついてくる。注釈は心配性の隊長さんだ。
「城下へのお出かけは構いませんが、私を始めとした護衛は連れて行きます。皆様方だけと言うわけではありません。そこはお忘れなく」
「城下でしょう? 大げさではない? 学校に通っている子たちも行くのでしょう? 身近な場所ではないの?」
「姫様。わたくしですら外出の時は付き添いの者(護衛と荷物持ち)が付きますわ。姫様お一人で、というのはむずかしいかと。身分的な事もありますし」
隊長さんの援護に入ったのは令嬢だ。彼女の立場でも護衛は付くらしい。さすがは侯爵令嬢。
という事は彼女は護衛が付く前提でこの話を持ってきてくれたことになる。というか、彼女の概念からすると護衛が付かない、という事は考えていないのかもしれない。違うのは姪っ子ちゃんだった。
「わたくしは近くや行きつけの店でしたら一人でも許可されていますけど。やはり遠くや行ったことのない場所は一人では行かせてもらえません」
「ご理解いただけますね?」
【ほら見ろ】と言わんばかりの隊長さんがドヤ顔で止めを刺しに来た。やはり、友達だけでのお出かけは許可が下りないらしい。最後の救いを求めて筆頭を見る。しかし、彼女も味方ではなかった。目を閉じ首を横に振る。私の意見は採用されないらしい。護衛が必要なのは決定事項のようだ。
よく考えれば城内でも護衛が必要なのだ。隊長さんや隊長さん以外の時でも、離宮の中ですら一緒に行動する。一人で歩くことはないのだ。外に出るなら必要と言われるのは仕方がない事なのかもしれない。そこは諦めよう。だけどこれだけは言いたい。
「隊長さん。護衛が必要なのは理解したわ。でも、これだけはお願いしたいの」
「なんでしょうか? できる範囲のことであれば」
「最小限で、なるべく目立たずに。せっかく行くんだもの。楽しく過ごしたいわ」
「お気持ちはわかりますが。少なく、ですか?」
「できる限りの最少人数で」
隊長さんは困った顔をして返事がなかった。隊長さんの中での人数は何人程度なのだろうか?それによって判断も変わるだろう。ちなみに私のなかでは隊長さん一人でOKだ。
そこに参考人数を教えてくれたのは令嬢だ。
「姫様。わたくしが出かけるときでも5人は付きますので。少なくともそれ以上ではないでしょうか?」
「そんなに?」
私は自分に付く人数の多さに驚いてしまう。あんぐりと口を開けそうになるのを堪えながら隊長さんを見やる。隊長さんは当然と頷いていた。そんなに人数が必要だと思わない私は隊長さんに確認をとる。
「隊長さん。城下には隊長さんも来てくれるのよね? だったら隊長さんだけで大丈夫じゃないかしら? そんなに多くの人数はいらないよね?」
「姫様。それは流石に。離宮内や城内であれば何かあった時に他の者がすぐに駆け付けてくれますが、他の場所であればそれは難しいでしょう。その点を考えると私一人で、と言う訳にはいきません」
「そうなのね。困ったわ」
私は考え込む。初の城下に行くのであれば私は楽しみたい。その楽しむためには最少人数で行きたいのだ。周囲の視線も気になるし。注目はなるべく集めたくない。そうなると、どうするべきか。まずは最少人数を決めよう。何人が最適だと思っているのだろうか? 話はそこからな気がする。
「護衛の騎士さんは何人必要だと思っているの?」
「そうですね。姫様が最少人数でと希望されていますし、私もその希望には沿いたいと思いますので、7~8人程でできないかと考えています」
「今。希望に沿ってくれると言ってくれていたと思うのだけど。。。」
「はい。最少人数です」
隊長さんのキッパリとした笑顔が眩しかった。違う方向から攻めてみよう。
「思ったのだけど、私が出かけるのは初めてだから誰も私の事に気が付かないと思うのだけど。護衛の人が多くなる事で目立つと危なくなるのではない?」
「姫様」
あ、隊長さんの目が半眼になった。呆れたのか、言いたいことが出来たのか。どうやら両方の様だ。
「姫様。先日のデビューで姫様の事はある程度の者には周知されています。気が付かれない、という事は難しいと思われます。もう少し、ご自分の安全には気を使っていただきたいと思います」
隊長さんはにこやかに言い切ってくれた。言葉だけは。視線は刺されるってくらいに痛かった。その視線を受け止めながら認識の違いに愕然とする。8人が最少人数ってどういう事だと、叫びたい。しかし、そうするわけにはいかないので、私は外出までに隊長さんを説得する事に決めた。
初の外出だ。思う存分楽しみたい。許されるなら、あるのなら食べ歩きだってしたいのだ。
ちなみに、筆頭さんが口を挟まなかったのは護衛は隊長さんの領分だから、という事と、私の安全に関する事だから万全を期する必要があるからだったそうだ。
納得できる理由だった。