コミカライズ記念 閑話 侍女たちの不満
いつも読んでいただいてありがとうございます。
本日、ガンマプラス様で人質生活のコミカライズがスタートしました。
私も読んでみましたが小説とは違う楽しさがありました。
よろしければ覗いていただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
せっかくなので閑話を一つ書いてみました。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
わたくしたちは離宮の姫様に仕えている侍女です。
離宮の姫様はとてもお優しい方で、わたくしたち侍女にも気を使ってくださるような方です。他の高貴な方の姫君やお嬢様方ではこうはいかないでしょう。高貴な方々のお嬢様方はわがままな方もとても多いものです。わたくしたち侍女には何でも言って良いと思っている方々がほとんどです。ときには信じられないようなわがままを言われることがあります。もしかしたら侍女は人間ではないと思っているのかもしれません。もちろん全ての方がそうだとは思いません。優しい方もいらっしゃいます。ただ数がとても少ないだけです。ですのでわたくしたち侍女は、お優しい姫様にお仕えできることを嬉しく、誇りに思っております。
わたくしたち侍女にはネットワークがあります。侍女たちの間で情報共有がなされるのです。どこのお嬢様が癇癪を起こしたとか、どこかのお嬢様が問題を起こして領地に送られたとか、その程度の話は共有されます。もちろんあまりに大きな話や、名誉に関わるような話は秘されますが、噂話になる程度の話はあっというまに広まります。
ですが離宮の姫様に関しては話が広まる事はありません。離宮に仕える者は掃除担当の者ですら宰相閣下が厳選されました。そのため口が軽いものは一人もいないのです。出入りの業者は姫様お気に入りの商人殿のみ、その他の者は筆頭様か隊長様が品物を選んで持ち込まれます。そのため姫様の噂話が離宮から漏れることはありません。それほど情報管理には気を配っていらっしゃいます。姫様の存在が重要視されている証拠なのだと思っています。
わたくしたちはただの侍女ではありますが、信用を失うような事があってはならないので、噂話は外ではしないように注意しています。
ですが離宮内では別です。同じ職場の者同士、噂話や愚痴を零すことはあります。
噂話の大きな話題は姫様がご自身で料理をされること、その料理を振る舞ってくださることでしょうか。他の貴族のお嬢様たちでは考えられないことです。姫様は時折わたくしたち侍女にもその腕を振るってくださる事があります。お菓子でしたがとても美味しくて職員で先を競うように食べてしまいました。わたくしたちもある程度の教育を受けているので、そのような行儀の悪いことはしないのですが姫様のお菓子はとても美味しくて我を忘れてしまいました。
わたくしたちはそんな優しい姫様にはなんの不満もない、はずなのですが、一点だけ不満があります。不満であり、大きな問題だとも考えております。
それはわたくしたち侍女に装いを任せてくださらないことです。いえ、もちろん陛下や宰相閣下に面会される時、はわたくしたちに任せてくださいます。ですが、普段の装いをされるときは任せてくださらないのです。
姫様は普段は見苦しくなければ服装はなんでも構わないと思っておられるようです。ですので、普段の衣装はとても一般的なもので、衣装そのものも数は少なく、飾りも少なく、もう少し揃えても問題ないと思われるほどです。私達でもそのように思うので、筆頭様も同じように考えていらっしゃると思います。
髪型にも気を使ってはおられません。リボンや髪飾りもあまり数がありません。他のお嬢様方なら普段から髪型にも衣装にも気を使われますし、数も揃えておられます。しかし、姫様は他の方と比べるのは間違いだとわかっているのですが、数の少なさに心配になってしまいます。せっかく可愛らしい姫様なのです。
わたくしたちはその姫様を可愛らしく装いたいのです。
何度か姫様にそのお話をさせていただきました。そのためか何度かはわたくしたちに合わせて衣装を着てくださったのですが、姫様は必要性を感じては下さらなかったようです。それ以降は大げさでなくて良いと言われてしまいました。
普段から装いに慣れておくほうが良い、ともお話しさせて頂いたのですが。姫様はお笑いになって本気にはしてくださらなかったようです。
わたくしたちはもっと姫様を可愛らしくしたいのに。
あんなに可愛いらしいのに。姫様はなぜ衣装を着てくださらないのでしょうか?
衣装担当のわたくしたちのため息はとまりません。
侍女①「どうしたら姫様は衣装を着てくださるかしら?」
侍女②「衣装を選んでいただく?」
侍女③「だめよ。前に選んで頂いたら、考えられないくらい地味なものを選ばれたじゃない? 筆頭様の顔を覚えてる?」
侍女①「ええ。絶句されていたわね」
侍女②「あまりに地味な衣装は処分されていたわ」
侍女③「ええ。どちらかに寄付されたようよ」
侍女②「筆頭様も強硬手段に出られたのね」
侍女①「あんなに可愛らしいのに。姫様はどうして地味なものばかり選ばれるのかしら? もう少し可愛らしいものを選ばれたらよろしいのに」
侍女③「なんでも、似合わないと思っていらっしゃるみたいよ」
侍女②「本当に? 信じられないわ。鏡をご覧になってるのかしら?」
侍女①③「「あんなに可愛いのに。もっと可愛くできるのに。もったいない」」
離宮の衣装担当達の嘆きは姫様には届かない。