二度目の? 初めての?
隊長さんと筆頭の説得工作も無事に終了し次のお茶会を設定することになった。といっても説得が無事に終わったら10日後に、と決まっていたのでその日に合わせ招待状を送る。二回目なので必要ないかと思ったのだが、まだ付き合いが浅いせいか必要なのだそうだ。はやく招待状がなくても良い関係になりたいものだ。
そんな事を思いながら作るお菓子の種類を考える。超初心者の二人だ。初歩的なもので行きたい。種類が多くても分からなくなるし、大変だろうから一つか二つだろうか? 何にするか?
筆頭と作ったプリンも初心者用だが、この前作ったばかりなので別なものにしたいと思う。やはりクッキーやホットケーキ? それともドーナツ? 揚げるのは油で危ないかもしれないが基本的には難しくない。それとも作り置きのパンを使ってフレンチトーストとか? でもそれだと食事になってしまうかな? マフィンもボリュームがあるから食事かな? 後は簡単スイートポテトとか、大学芋とか? お菓子のレパートリーが少ないのでなかなか思いつかない。後は材料がないものもある。そう思うと考え込んでしまう。どうするか?
「姫様。だいぶお悩みのようですが? いかがされました?」
「お菓子のことよ。何を作ろうかと思って」
「申し訳有りません。その問題ではわたくしはお役にたてません」
筆頭は申し訳無さそうに言う。彼女は調理をしないので相談に乗れないと思っているのだろう。だがそんなことはない。筆頭でなければ答えられないこともある。
「そんなことはないわ。意見をもらえると助かるわ」
「わたくしでよろしければ。お役に立てますでしょうか?」
筆頭は不思議そうに首を傾げながら聞き返してくる。私には分からない事があるので筆頭の力は必要なのだ。私は思いつくままに聞いていた。
「お菓子を作るなら、簡単なものが良いと思うけど。油を使ったりすると慣れなくて怖いかしら? オーブンで焼いたりするもののほうが良い? それにパンを使ったりするものはお菓子に思える? 筆頭の感覚で良いわ。教えてもらえる?」
「そうですね。怖いと言われるのであれば油で揚げるという行為は危険なのですか? 火傷とかするのであれば腰が引けます。少し怖いと思うのが正直なところでしょうか。パンでお菓子が作れたりするのですか? わたくしは存じませんが、食事にしか思えない感じがしてしまいます?」
「ありがとう。参考になるわ。そうね。やっぱりパンは食事に感じてしまうわよね。甘いパンがあるのよ。残っているパンで作れたりするのよ。筆頭たちが食べることは無いかもしれないわね。今度作るわ。一緒に食べてみましょう」
そう答えつつも筆頭の意見はありがたいものだった。料理をしなれている私には分からない感覚だった。
筆頭と彼女たちは年齢は違うが同じ初心者だ。私とは違う視点なので参考になる。やはり、ドーナツは避けたほうが良さそうだと候補から外すことにする。となると、クッキーか。しかしクッキーは簡単に作れるが目新しさがない。せっかく作るのだ。なにか食べたことがないようなものを作らせてあげたい気がする。そうなるとスイートポテトかな? まだ商人は発売していないと思うから、お芋さんそのものが珍しいはず。
「筆頭。せっかく作るのだもの。新しいものが良いかしら?」
「新しいものも良いですが、普段食べているものを自分で作るのも楽しいかと。わたくしもプリンは口にしていましたが、それを姫様と作ったときは違う感動が有りましたわ。どのように申し上げればよいのか。私にも作れるのだと言う嬉しさと。初めて作ったものを食べられる喜びがありました」
筆頭はお料理教室の事を思い出しているのか口元がほころんで、優しい目つきになっていた。筆頭もあのときは楽しいと思ってくれているようだ。そう感じてくれている事を実感して、私も嬉しくなり一緒になって笑ってしまっていた。
「そうね。食べ慣れているものを自分で作る楽しさもあるわ。初めてだからクッキーにするわ」
「それがよろしいかと」
筆頭も同意をしてくれた。私は安心感から嬉しくなり頷いたが、その時フと思いついてしまった。
プリンを作るのなら筆頭も一緒に作れるんじゃない?
お菓子とは違う甘い誘惑が私に誘いを掛ける。
助手的な感じで手伝ってもらえるんじゃないかな? キッチンに入るのは筆頭一人だし。私が全体的に見れば問題ない気がする。
お菓子作りに侍女は必要ないし、筆頭も作るのに参加してもらうのは有りな気がする。
私はその思い付きが気に入り、筆頭もお菓子教室に参加をお願いする事を決める。二人には話さずに勝手に決めて申し訳ないが、筆頭とも親睦を深める良い機会のように思えた。
今ここで、プリンを一緒につくろうと言っても筆頭は「うん」とは言わないだろう。なら、当日に一緒に【作ろう】と巻き込もう。
私はそう決めるとクッキーの予定にプリンを追加することにする。幸いなことに材料の発注に関わるのは私と見習いくんだけだ。筆頭は中を見ない。見ても材料のことはよくわからないのだ。それを良いことに卵の発注を多めにかける。もしかしたら大変かもしれないけどプリンとクッキーを同時に作ろう。皆の進み具合で同時進行が難しければプリンは私一人で作っても良いし。
そう決めると私は当日が楽しみすぎて頬の筋肉が緩みそうだ。
お菓子教室の当日、私は令嬢と顔を合わせていた。
「姫様。間も空けずにありがとうございます」
今回は令嬢が早く着いていた。彼女の笑顔は輝いていた。令嬢の楽しみ具合が感じられる。といっても時間より早いわけではない。そして、姪っ子ちゃんもほぼ同時だ。彼女も楽しみにしてくれていたのか目がキラキラしている。二人とも楽しみにしてくれていて嬉しくなる。かくいう私も楽しみすぎて材料とキッチンのチェックに余念がなかった。そして早く目が覚めてしまった。幼稚園の遠足と同じだ。楽しみすぎて眠れない、もしくは早く起きると言うお約束だ。
自分のソワソワ感を実感していた。
「ようこそ、二人共。私も楽しみにしていたのよ。待ちきれなかったわ。材料も揃えているの。早速だけど案内するわね」
二人をホールからキッチンへ案内する。本当は私が案内する必要はないらしいのだが、初めてキッチンに入ってもらうので私が案内したかったのだ。楽しみは共有したい。
ホールからキッチンまでは若干遠い。キッチンは完全プライベートスペースになるので、客室関係からは少し離れているのだ。
「どうぞ。私の自慢のキッチンよ」
「すごい」
「広いのですね」
二人は各々目についた感想を口にしていた。私はその感想に満足しながら、キッチンの中へ案内する。調理道具も見たことがないはずなので簡単に道具も説明する。でないといざ始めたときに道具が分からずに戸惑うからだ。
二人は道具をガン見していた。目新しいのだろう。
令嬢に至っては道具を手に取りながら復唱していた。
真面目さが表れている。道具や材料を存分に眺めてもらったらお菓子作りの始まりだ。