説得工作 隊長さんの場合
いつも読んでいただいてありがとうございます。
説得工作なだけあって会話が中心となり、少し長くなりました。
お付き合い頂けたら嬉しいです。
お茶会の次の日、私は護衛の職務につく隊長さんに相談という名のお願いをすることにする。
昨日の相談の結果、筆頭には全員でお願いをして陥落に成功した。その上で隊長さんには私がお願いする事になった。というか、私がそのほうが良いと提案をしたのだ。
「姫様。どうかなさいましたか? なんとなく緊張されているように見えますが」
「そう? そうかも。じつは隊長さんにお願いがあって、それで緊張しているわ」
「私にお願いですか? 珍しいですね」
「そうかな? ちょくちょくお願いしている気がするけど? で、お願いを聞いてもらえる?」
「内容も聞いていないのに了承はできませんが」
「だめかな?」
流石に内容も言わずに【良いよ】とは言ってくれなかった。
当然の事だけど。私はどう話し始めるか少し考えた。だが正攻法で行く事にする。下手な小細工はしたくはなかった。なにせトリオの一人だ。話し合いができると信じている。
私の密かな葛藤が無口にさせた。それを勘違いしたのか心配してくれたのか、隊長さんが水を向けてくれた。
「それで、どのようなお願いでしょうか?」
「うん。隊長さんは私の護衛よね?」
「勿論です」
「じゃ、私の名誉と秘密は守ってくれるわよね?」
「秘密と名誉、ですか?」
私の言い方に隊長さんが警戒する。何を言い出すのかと思っているのだろう。
少し胡散臭い言い方になってしまった。私の名誉と言うよりは令嬢と姪っ子ちゃんの名誉だけど。私の秘密を守ってくれれば、あの二人の名誉も同時に守られる。やはりキッチンに入るということは彼女たちの立場上、問題になるかもしれない。そこは心配なので少しでもリスクは減らしたいのだ。
隊長さんは警戒を怠らないが、私の言葉に同意はしてくれた。
「勿論です。対象者の名誉と秘密を守れないものに護衛は務まりません」
「ありがとう。【秘密と名誉は守ってくれる】というその言葉で安心できたわ」
私は言質はとったとばかりに復唱し自然と笑顔がこぼれた。
隊長さんは一瞬詰まったようだが、確かに秘密は守る必要があるのでそれ以上の否定はなかった。その上で私の言葉を待ってくれている。その事が感じられたのでそのまま私の希望を伝えることにした。
「実はね。今度令嬢と姪っ子ちゃんと3人でお菓子をつくる事になったの。私はともかく彼女たちはキッチンに入ったってわかったら、ね?」
最後の言葉は濁して小首を傾げて見せ理解を求めると、隊長さんは察してくれたのか、苦い顔になった。
「確かに、その事が外に聞こえれば良いことにはならない可能性がありますね」
「でしょう? だから、秘密にしてほしいの。お願い」
私は両手を目の前で合わせてお願いのポーズを作る。このポーズが隊長さんが理解できるとは思わないけど、私のお願い具合は感じてもらえたようだ。なんとも言えないような表情の隊長さんは困っている様子。そこで私は追い打ちをかける。
「隊長さんだってこの前、魚フライやフリッターを作ったら楽しかったでしょう? もう一度作りたいと思ったでしょう?」
「それは確かにそうですが。ですが彼女たちは」
「立場が悪くなると言いたい?」
「ええ。その中には姫様も含まれます」
やはり私の周りには基本的に優しい人しかいないようだ。自分の立場はさておき、姪っ子ちゃんや令嬢、私の立場の心配ばかりだ。隊長さんは自分の前でそんな事をしてもらっては困る。自分の評判が悪くなるとは一言も言わない。これは筆頭にも当てはまる事だ。その優しさを困らせている気がするけど、皆でお菓子は作りたい。約束したし。筆頭は良いって言ってくれたし。諦められないので説得を続ける。
「初めてのお友達だわ。一緒にお菓子を作って仲良くなりたいの。ダメかな?」
「お気持ちは分かりますが、彼女たちが外に漏らしませんか? 姫様と【何かをする】という事は基本的には大変栄誉な立場になります。姫様も学校に通われる事ですし。人に言いたくなる可能性があります。話はどこから漏れるか分かりません」
「確かにそうね。でも、彼女たち自身の名誉にも関わる事だからそうそう人に言ったりはしないと思うわ。それにね、お菓子を作る日は筆頭が中に入って、他の人は入れないようにするの。で、護衛を隊長さんだけにすれば最小限で済むでしょう? それなら安心じゃない? どうかな?」
「筆頭殿は良いと?」
「うん。護衛の配置については後から隊長さんと相談するって言ってたわ」
「筆頭殿は陥落済みですか。そうですか」
そう呟くと隊長さんは天井を見上げ考え込む。筆頭が許可を出しているのが意外だったのか、味方がいないと思ったのか。そこは分からないけど、その様子を黙って見守った。
そうしていると納得してもらえたのか、了解の返事が来る。
「姫様。筆頭殿も了解しているのなら私としてもこれ以上の反対はできません。ですので彼女たちにも外では話さない事をしっかりと約束をしてください。どこまで守れるかはわかりませんが、少なくとも私と筆頭殿と約束したことを守れないようであれば、姫様の友人に名乗りを上げる資格はないでしょう」
「わかったわ。二人ともそこまで心配させてしまっているもの。お菓子を作る前に隊長さん達の前で二人としっかり約束をするわ。それで少しは安心してもらえる?」
「そうですね。全幅の安心とはいきませんが何もないよりは良いかと思います」
「ありがとう。わがまま言ってごめんね」
「いいえ。これくらいの、とは言えませんが。事前に相談していただけるので」
困った様子を見せながらも妥協点を探してくれた隊長さんに感謝しかない。が、隊長さんからは念押しをされてしまった。
「姫様。これからお友達と何かしたくなることは増えていきます。学校に通われるのならなおの事です。ですが、何かをされる前は必ず私か筆頭殿と相談してください。危険な事もある可能性があります。安全のためです。それだけはお忘れなく。今回も事前に相談いただけたので方法を考えることが出来たのです。これが直前では、中止となり皆さんが悲しい思いをするだけだったでしょう。お約束いただけますね?」
「わかったわ。必ず相談する」
私はしっかりと首を縦に振り同意をしめす。それで少しは安心してくれたようだ。隊長さんの唇が少し緩んだ。口元が緩むと隊長さんのイケメン具合が如実に表れる。普段からもう少し笑ったらいいのに、と思う瞬間だ。そんな事をつらつらと考えていると隊長さんも気になることがあったらしい。
「姫様、一つ気になるのですが。よろしいですか?」
「何かしら?」
「お菓子作りを言い出されたのは姫様ですか?」
「どうして?」
隊長さんの疑問の理由がわからない。
「姫様ではない気がしまして。令嬢からですか? ですが彼女の身分ではこんな事を言い出すようなことはないと思うのですが?」
「そこまで判断してるなら、私に聞く意味はないと思うのだけど?」
自然と不満が現れ唇を尖らせる。
「ということは、やはり姪っ子さんですか?」
「だったら、問題がある?」
隊長さんの物言いに私はつい言葉がきつくなった。せっかく楽しみにしているお料理教室に反対されるような感じがして、嫌な気分になってしまったのだ。隊長さんの考えもわからないうちから嫌な態度を取ってしまった、と思っていると隊長さんが楽しそうに笑い出した。
「心配なさらないでください。これ以上は反対はしませんよ」
「そうなの? やっぱりだめって言われそうな雰囲気だったけど」
「いえ、姫様も楽しみにされているようですし、筆頭殿の許可もありますし。私もお約束をしましたので。反対なんてしません。それに楽しそうですね。私は学生時代に学生同士で何かをするという経験はなかったので、良いことだと思います」
楽しそうに笑いながら言ってくれた。やっぱり最後は隊長さんは私の味方だった。おまけの話以外は
おまけ
「ところで姫様。私もお願いがあるのですが?」
「何かしら? 私でできることかしら?」
真面目な顔の隊長さんのお願いに身構える。私のお願いを聞いてもらったのだから、私もお願いを聞いて上げたいと思う。難しいお願いでなければ良いけど。そう思っていたら私の予想の斜め上の返事が来た。
「いえ、難しいお願いではないと思うのですが、出来上がったお菓子は味見させてくださいね。味見がだめならお菓子作りに参加でも良いのですが?」
「何言ってるの隊長さん。どっちもだめよ」
私は驚いたが速攻でダメ出しをする。どちらかは聞いてもらえると思っていたのか隊長さんは驚きの声を上げた。
「ええ?? だめなんですか?」
「当然よ。お菓子作りは女の子だけだし。女の子達が初めて作るお菓子は特別なのよ。簡単に上げられるものではないの。私が作ったのを上げるから我慢してもらえない?」
「そうなんですね。私にはわかりませんが、作れないのなら。姫様が作ってくださったのを頂けるなら満足です」
隊長さんはお菓子作りに参加せず、私のお菓子を分けることで決着した。
女子会に混ざる気があるなんて、ある意味隊長さんは勇者だった。