お茶会が始まります ②
いつも読んでいただいてありがとうございます。
今回は姫様が楽しみにしていたお茶会で、姫様が楽しいものだから
長くなってしまいました。
お付き合い頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
姪っ子ちゃんは恐る恐る私を見る。言いたいことはあるが口にして良いのか躊躇っているようだ。彼女にとっては今日は初めてのお茶会だ、しかも身分的に自分より高位の者しかいない。どこまで話していいのか、話してしまって問題にならないか。加えて自分のために管理番が、叔父が不利になるような事がないのか、心配にもなるだろう。そう思うと迂闊に口が開けないようだ。気楽に話してほしいと思うがそこまで打ち解けていないのでまだ難しいだろう。
私の心理的には姪っ子ちゃんにざっくばらんを適応できると思う、だがご令嬢はどうかわからない。私よりもしっかりした教育を受けているはずだし、簡単にざっくばらんを持ちかけるわけには行かないのが残念だ。
そう思うと隊長さんはラッキーだったのかもしれない。管理番とのやり取りを見られていて、なし崩し的に持ち込むことができたのだから。
時間がどの程度かかるかわからないが、できたらご令嬢との関係も改善できたら良いなと思っている。そんな事を感じながら姪っ子ちゃんにもう一度話すように促す。姪っ子ちゃんは正直に言う気になれないのか、口を結んでは開いていた。視線で繰り返すと、唇が音声を作り出す。
「先程叔父から話を聞いていると申し上げたと思うのですが」
「ええ。管理番には良くしてもらっているわ」
「叔父も姫様に良くしていただいていると、いつも口にしています」
「叔父様がどうかなさったの?」
ご令嬢も話を聞く気満々なのか、会話に参加して続きを待っている。
「じつは、叔父からお菓子を分けてもらった事が何度かありました。もう少ししたら商人様のところから販売される予定の物だと。商人殿の好意で分けてもらった、と言っていました。そのお菓子はとても美味しくて私は大好きになりました」
「では、問題ないのではなくて? こちらのお菓子も商人殿のお菓子だわ」
「確かにそうなのですが」
違うのだと言いたげに姪っ子ちゃんは首を振る。
「わたくしも商人様が販売されているお菓子を何度か口にしたことがあります。ですが、分けてもらったお菓子と味が違うのです。凄く違うわけではありません。でも、美味しさが違うのです。どう違うと上手く説明できないのですが。それで」
「それで?」
私はもう一度、促した。姪っ子ちゃんは確信に近い何かを感じている様だ。ここまで話せば後は同じだと思ったのか彼女は口を開く。
「あのお菓子は姫様が作られたものではないでしょうか? そう考えないと話が合わなくて」
「あら。そうなのですか?」
令嬢は思ってもいない話に私を見る。ここまで分かっているのなら別に隠すことではない、正直に頷いておこう。陛下や宰相、厨房にもバレている事だし、侍女や騎士さん達にも振舞ったことがある。いずれは他の貴族たちにも広がる話だと思うので、ここで無理して誤魔化す必要はないはずだ。
さっき学んだばかりの技術を使っておこう。穏やかに微笑むことで済ませてみた。どうやら意味は通じたらしい。
私の肯定を見た二人は、一人は納得し一人は驚いていたが、同時に納得もしていた。
「そうでしたのね。でしたら今日は以前口にした、姫様の、と期待されていたのね?」
「はい。そうなんです」
ご令嬢の合いの手に素直に乗っている姪っ子ちゃん。しょんぼりしている姪っ子ちゃんに反して、ご令嬢は少しだけ嬉しそうな顔をしている。がっかりしている姪っ子ちゃんが面白い? まさかね? そんなことは思わないと思うけど。この反応は不思議だわ。そう思いながら姪っ子ちゃんの続きを待つ。
「申し訳有りません。図々しい事を。。。」
「いいえ。気にしないで頂戴。今の推察を聞いていれば期待するのは当たり前だわ」
私に謝ってきたが期待に胸を膨らませてきたのなら、がっかりするのも無理はない。しかも素直な姪っ子ちゃんだ。気持ちがすべて顔に出てしまったのだろう。
令嬢も噂を耳にしていると追随してきた。やはりある程度は話が出回っているのだろう。無理に隠さなくて良かった。先ほどの笑顔は噂を聞いていてその話は本当だったのだと言う、確信の笑顔だったみたいだ。
こうなると、やはり人間は正直が一番だと思う。嘘をつくと何度も重ねていかなければならないものだ。私の信条だが、嘘はよくない。いつか必ずどこかでバレてしまう。話したくないときは、嘘はつかずに話をぼやかしてしまうのが一番良いと思っている。俗に言う、嘘はついていないが、本当の事も言っていないと言うアレだ。私のズルさが表れていると思う。これは人には言えないな。こズルい人間の考える事だ。内緒にしておこう。
自分のズルさを実感していると令嬢と姪っ子ちゃんが盛り上がりだした。
「わたくしも噂は耳にしております。なんでも陛下も宰相様も隊長様も絶賛されているとか。それぐらい美味しいお菓子ですのね」
「そうなんです。叔父からもらったお菓子は忘れられないくらい美味しくて。私はその話を何度も叔父にしていました。お店と叔父からもらったものでは味が違うと言っていたんですが。叔父は取り合ってくれなくて。それで自分で作れないかと販売されているレシピを真似したのですが、自分では難しくて」
「あら? お料理をなさるの?」
「いえ、自宅ではできないので、叔父の家で作ってみたのですけど」
後半は言葉にならなかった。できなかった、ということがわかる反応だった。まあ、簡単な料理やお菓子とはいえ、ふだん料理をしない人は難しいかもしれない。だが、自分でチャレンジするくらい興味を持ってくれているのは嬉しい反応だ。自分では上手にできないから、今日はあのお菓子を久しぶりに口にできると楽しみにしていたのかもしれない、そうだとすると申し訳ない。ご令嬢も興味津々な様子だし、やっぱり反対を押し切っても作るべきだっただろうか? でも、筆頭の言うこともわかるし胸の内でもんもんとしていると、ご令嬢がとんでもないことを言い出した。
「姫様。お料理って難しいのでしょうか? わたくしも作ってみたいです。できますでしょうか?」
私は突然の事に反応が出来ずにどもってしまう。
「えっ、ええ? ご自分で作るという意味かしら? 見学とかではなく?」
「はい。 厨房には足を向けたことはございませんが、作れるでしょうか?」
「作れるか作れないかで言えば作れるレシピを用意すれば問題ないから作れるけど、よろしいの?」
このよろしいの? には多くの意味が含まれる。それに気が付かないご令嬢ではないだろう。その意味を汲み取った上で令嬢は頷いた。
「良いか悪いかで言えばわたくしの立場では問題だと思います。しかし、姫様がされていることですので。親睦を深めるためにご一緒した、という形なら問題ないかと? いかがでしょうか? そうしますと姫様にご迷惑がかかりますでしょうか?」
令嬢の言葉に心が揺れる。それなら皆でお菓子を作ることが出来る。凄くすごーく楽しそうだ。令嬢の理由ならいける気がしないでもない。どうしようか? 考えていると姪っ子ちゃんからも
「わたくしも習いたいです。またあのお菓子を食べてみたいです」
姪っ子ちゃんはどこまでも自分の心に正直だった。そう言われると私の心が更に揺れる。このまえ筆頭と作ったプリンは楽しかった。それに何かを一緒に作るということは親睦を深めると言う事に一理あるのではないだろうか?
そう考えるとみんなでお菓子を作るのはとてもいいことに思えてきた。
だがここで大きな問題が立ちはだかる。私達3人は問題ないと思うがこの事を知ったら筆頭と隊長さんはいい顔をしないのではないだろうか? という事だ。
今はマナーの勉強をしている段階だ、あんまり筆頭に強硬なことは言いにくい。それに最近は筆頭も態度が柔らかくなって来ていて、私の気持ちを尊重しつつ、そこは、とたしなめてくることが増えている。その態度を感じているだけに無理は言いたくない、でも、みんなでお菓子は作りたい。どうするか。
私は考え込む。その様子を見ていた姪っ子ちゃんが詫びてきた。
「申し訳ありません。わたくしが余計なことを言ったばっかりに、姫様にご迷惑を」
「違うわ。迷惑ではないの。私もみんなと一緒にお菓子を作りたいわ。そのためにはどうしたら良いか、を考えていたの。だって、皆様の家柄では自分でお菓子は作らないでしょう? 一般的な範囲から外れてしまうわ、それでどうしたらいいのかと思っていたの」
「親睦を深めるためでは問題でしょうか?」
と令嬢。それで問題はないと思うが、予防策は必要だと思う。主に令嬢のために。
「そうね。それで良いとして後は外に広まらないようにすれば良いかしら?」
「広まるといけないのですか?」
姪っ子ちゃんは不思議そうに聞いてきた。令嬢は察してくれたけど、姪っ子ちゃんは立場的に気が付けないらしい。そこは仕方がないだろう。私はうなずきながら説明をする。
「仲良くなるために、という理由で問題はないと思うけど、全員がその事を好意的に受けとめてくれるとは限らないでしょう? 私はいつもの事だから問題はないけど、令嬢やあなたは悪い噂が立つと良くないわ。できるだけ噂が広がらないようにする必要があると思うの。もし、広まってしまったら、親睦を深めるため、という理由で良いと思うのだけど。なるべくなら、という事よ」
「そうですね。悪い噂はどこからともなく、面白おかしく、いい加減な噂が広がるものです」
「そうね。私もそう思うわ。というわけで、とりあえずは筆頭の説得から始めましょうか? 最初の難関は筆頭よ。その次が隊長さんかしら?」
「筆頭様はご理解いただけると思うのですが」
私と令嬢では筆頭の印象が大きく違うようだ。攻略法でもあるのだろうか?
あるのならぜひ、教えを請いたい。
私たちは難関をクリアするべく頭を寄せあった。